PHASE-531【騎乗系は憧れの一つ】
流石にレッサーデーモンでは、ハインドの速度にはついてこられないだろう。
十分に逃げ切れるだろうが不安もある、手にスタッフを握っている者がいるという報告だった。
追跡者には魔道師系もいるってことだ。
「ゲッコーさん、魔法で狙われる可能性があります」
『こいつの無駄に分厚い装甲なら耐えられるとは思うぞ』
空飛ぶ装甲車とも言われるらしいからな、ハインドは。
『だが念には念を入れて迎撃する。相手がレッサーデーモン、下級の悪魔なら、ハインドは厳つく凶暴な最上位の悪魔だというのを分からせてやろう』
反転した後、機銃にて掃討すると伝えてくれば、直ぐさま射撃音が聞こえた。
『12.7㎜の敵じゃなかった』
レッサーデーモンは痛みを感じる事なく、散っていっただろうな。
俺が目にすることはなかった。むしろ見なくてすんでよかったけども。
「とんでもないな……」
下の方から地龍がレッサーデーモンの末路を見ていたようで、感嘆というよりは、畏怖の声で呟いていた。
呟き程度でもしっかりと地龍の声が聞こえるのは、ハインドのドア部分に巻き付いている蔦が原因。
糸電話みたいなものである。
――――着陸。
要塞より離れた森林に着陸。
素晴らしき地龍の力。着陸する場所の木々がまるで生きているかのように避けてくれた。
ここはコクリコがやらかしたところだな。
マンティコアとの戦いが行われた場所。
要塞からは近いけども、追撃があるなら遮蔽物のない空よりも、木々が俺たちを隠してくれからと、ここに着陸した。
「む」
ピクリと体を震わせて長い首で後方を見やる地龍。
「何か――来るぞ」
継いで発するも、警戒はしない。強者故なのか、それとも驚異ではないからか。
などと考え込んでいれば、
「にゃ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
割れ鐘の鳴き声が俺に向かって走ってくる。
尻尾の先端が欠損したマンティコア。
灰色の毛並み。雄々しい獅子のような顔は、甘えた表情。
象ほどある体躯が、俺に向かってくる様は迫力満点。
ようやく自分で立てるくらいにはなったけども、今の状態だと対処が出来ない……。
とりあえず――、
「よしよしよし」
言ってみれば、俺の前で巨体を仰向けにする。
さながら猫のようだ。
お腹部分を撫でてやればゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしながら喜んでくれる。
「か、可愛いな」
ここでベルも参戦。
二人して腹をさすれば、
「柔らかくて温かいな」
と、横では若干だけど鼻息が荒くなっているベルの姿。
美人のそれはいただけない……。
巨大であっても甘える姿に愛らしさを見出したベルの頭の中では、きっとコイツの腹の上で寝てみたいというファンタジーな思考になっているんだろうな。
俺もやってみたいな、巨大なモフモフの腹の上で寝るってやつ。
寒い時なんて最高だろう。
「しかし随分と懐いてますね」
俺たちを真似てコクリコも撫でようとすると、
「グァァァァァァ!」
仰向けになった状態で威嚇をしてきた。
なぜに! とショックを受けていたけども、原因はお前がいきなり襲ったからだろうな。
「この様な生き物は見たことがないが、流石は勇者よ。手なずけているとは」
流石の地龍も人工的に造られた生物は分からないようだな。
地龍の存在に当てられたマンティコアは、コクリコの時と違って大人しくなる。
「で、どうするのだ?」
と、凜々しい声で言うベル。とりあえず腹を撫でながら言うのはやめようか。声と動作が一致しないから。
俺に懐いてはいるけども、飼うということは難しいだろう。
なんと言ってもデカいからな。餌代がね。
そもそも飼っていいのだろうか。
「飼うのならば、私にも懐くようにしてください」
「お前がいらんことしなければよかったんだよ。でもなんで懐くようにしたいんだ?」
「騎乗したいじゃないですか。マンティコアに騎乗とか、絶対に強者として衆目を集めることが出来ます」
なんと私利私欲な発想でしょう。そんなんだから懐かれないんだよ。
――――だがしかし、コクリコの考えも分からなくはない。
地龍に乗る俺って勇者だったもの。
俺が何もしなくても地龍が敵を倒す様とか、凄かったからね。
自分が騎乗する幻獣やモンスターは戦わせても強い。ってのは、ロマンでもあるからな。
ゲームなんかでも、馬や騎乗系モンスターの獲得にはこだわったりするからな。
名馬ほしさに、ストーリーをまったく進めないで、一週間くらい雪山に籠もったこともあったな。
現在の俺にはダイフクもいるけど、マンティコアもいいよな。
騎乗
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