PHASE-442【板野サーカスの如し】
百一からなる毒針に狙われれば、意気揚々と迫る者たちには絶望が訪れる事になるだろう。
きっと相手は、空も飛ぶことが出来ない人間風情と思っているかも知れない。
ビジョンで捉える相手は正にそれだ。
表情は余裕に染まっていて、容易い戦いとしか考えていない。
空から一方的な蹂躙を楽しませてもらおうと想像しながら、こちらへと迫ってきているんだろうな。
「なんなの? あの先端に箱みたいなのがついた長い筒?」
シャルナは見たことなかったかな?
コクリコはクラーケン戦で、M72 LAWをゲッコーさんが使ってたのをプレイギアのディスプレイ越しに見ていた経験があるからか、シャルナのような驚きはない。 ポージングを崩すことなく佇んでいる。
「約束された勝利をもたらす筒だよ」
怪訝な表情のシャルナに、俺がそれっぽく言えば、更に怪訝さが増す。
俺の中二的発言はダサかったりする?
俺のダサい発言を余所に、ゲッコーさんはこなれた姿勢でスティンガーを構え、後ろには絶対に立つなと注意喚起を強い口調で発する。
バックブラストに巻き込まれれば、壁上からのノーロープバンジージャンプを経験することになるからな。
物珍しい筒の登場に、兵士や騎士団、冒険者も気になっているようだが、ゲッコーさんと目出し帽の面子が眼光を鋭くすれば、問うことも近づくことも出来ないでいる。
「よし、各自狙え。相手は数が多い。適当でいい。――――発射」
周囲からピーとノイズのような音が聞こえ、続いて発射音。
最初に発射させるのは、指導者であるゲッコーさん。
わずかに遅れてS級さん達がミサイルを発射していく。
円筒形に収納されたミサイルが発射されれば、フィンが展張。
発射されたミサイルは、十メートル付近で後部より火と白煙を吐き出し、瞬く間に超音速まで加速。
相手はこちらを翼包囲しようとしていたのか、塊の陣形から展開しようとするところだった。
そこに向かって、生命を得たかのように襲いかかっていくミサイルの群れ。
「納豆ミサイル。板野サーカスみたい」
アニメでよく目にする躍動的な動きから次には爆発。
次々と爆発していく中で、爆発音の中に断末魔が混ざっていく。
断末魔は立体音響のようであり、嫌な臨場感を耳朶に届けてくる。
相手からすると何が起こったのか分からないだろう。
白煙の帯が無数見えたと思った次には、側にいた仲間が爆発するわけだから。
相手が手にしているのはこちらの兵士や冒険者同様に、クロスボウなどの遠距離武器。
遠距離武器といっても、射程がキロメートルなんて事はありえない。
それらを使用して、こっちの矢が届かない上空から一方的に矢の雨を降らせるつもりだったのだろうが、それ以上の射程を有し、超音速で迫るミサイルの前では何の意味もない。
しかも――――、
「第二射準備」
これがゲーム世界の強味だ。
一射目を終えて発射筒を捨てれば、次を宙空から取り出すことが出来る。
壁上に転がる発射筒は、次が現出すれば消えてなくなる設定。
こうやって、第二、第三と発射され、敵の数は瞬く間に半分程度になってしまった。
約三百発のミサイルが使用されたわけだから、単純に三百の敵がいなくなったと考えていいだろう。
側の仲間に着弾し、爆発に巻き込まれた者や、一体に二基のミサイルが直撃した悲惨な者もいる。
敵の行動から分かるのは、スティンガーに対しての防御手段を持っていないということ。
突如として起こる爆発に混乱してしまい、対処が出来ないのかもしれない。
頑丈そうな体躯の者も、翼がもげ飛翔が出来なくなったり。上半身の殆どを失いながら地面に落下していく者もいる。
ここへと到達することなく、攻めてきた者たちは壊滅するだろう。
圧倒的な力による戦いは、戦いではなく虐殺と同義。
「徹底的にやる」
酷薄な声のゲッコーさん。
虐殺と思われようとも、ここで力を見せつけて、相手に恐れを植え付ける。
この地に踏み入ろうという考えを二度と思い描かせないように、地獄を見せつける。
でも、
冒険者や兵士たちは、見たこともない火と煙を吹き出す巨大な鉄の矢を目の当たりにして、凄いより恐怖が勝っていた。
王都の時はゲッコーさん一人での使用だったから、歓声が上がっていたけど、百一人が発射するスティンガーは恐怖だ。
視覚と聴覚から得る経験のない現実を受け入れる事は難しかったようで、歓声なんか上がることもなく、沈黙の帳が降りるだけ。
戦いにならない状況で、相手は逃げ惑う。
だが、超音速に捕捉されている時点で、逃げることは出来ない。
爆発四散し、地面へと落ちていく、肉の塊へと姿を変えた者達。
ビジョンを使用している俺は、胃液が逆流しそうになるが何とか耐える……。
シャルナはエルフ。人間以上の視力を有しているのがあだになったようだ。
ビジョン並に見える視力が原因で、眼界の惨状に、口に手を当てへたり込んでいた。
前線部隊は一瞬にして壊滅寸前。
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