PHASE-1477【動きが冴えてきましたよ】
「さて、トラウマ克服とメンタル強化のために、今回のロイター板は――ジージーお前だ! 俺の成長の糧としてやる!」
「訳の分からんことを言うようになったのも、初対面の時と同様だな!」
「だったら油断怠りなく俺に挑むんだな」
「本当にぬかす!」
幾何学模様のような翅脈からなる翅が激しく動く。
これを見ればどうしてもビクリッ! と、なるが――先ほどまでじゃない。
頼もしい仲間たちが激励し、期待して見守ってくれているからな。
無様な姿はこれ以上は見せられない! って思いのほうが恐怖よりも強くなっている。
これなら、
「やれる!」
自分自身を鼓舞しつつ、残火の柄を絞るように握り、拇指と食指は柄に添える程度。
基本に忠実。
基本こそが極への道。
「行くぞ!」
四枚の翅を激しく動かし体を浮かせるジージー。
地面から足が離れると同時に、発言どおりの急加速でこちらへと迫ってくる。
アクセルではないが速い。
直線上でなくジグザグとした軌道はやはり捕捉が難しい。
加えて、
「バーストフレア」
と、魔法を発動しながらの接近。
防ぐのではなく回避することで対応すれば、
「はぁ!」
「おう!?」
こちらの回避はジージーにとって読み通りとばかりに、俺が躱した方向に先手を打つように刺突を見舞ってくる。
高速飛行の勢いを利用しての全体重を乗せた刺突。
籠手で防ぐも容易に吹き飛ばされてしまう。
地面を転がりながらも視野に捉えるのは追撃を仕掛けてくるジージーの姿。
「マッドメンヒル」
転がり終えたところで俺の直下が隆起。
飛び起きて回避すれば、ここでも俺の動きを見切ったジージーが再び俺の回避位置に向かって刺突。
「そう何度も――ね」
勢いある突きを残火で切り払えば、こちらのカウンターを警戒したのか、刺突の勢いを利用したまま地面を蹴って上空へ待避しようとする。
航空機のタッチアンドゴーを思わせる動きで俺から距離を取ろうとするところにそうはさせじと、
「マスリリース」
こちらも遠距離技を放つ。
「なんの!」
斬光は切り払われたが、動きを止めることは出来た。
「切り払いからの反撃――やはり先ほどまでとは違うな」
「まあね」
動きが良くなっていることに相手はご満悦。
及び腰の俺を倒しても自慢にならないからね。
倒すなら十全の状態の俺だよね。
まあ、こちらはまだ十全ではないけども。
それに――、
「倒すのは俺だけども!」
今度はこちらから仕掛けさせてもらうとばかりのアクセル。
今までの腰が引けた俺とは違うというところを見せてやる!
「流石だ」
高速移動による接近。
数合打ち合ったところで仕留める事が出来ず、上空に逃げられてしまう。
便利な翅だと舌打ちしつつ、ジージーを見上げる。
地面を歩くだけの俺とは違い、回避や攻撃のバリエーションが多いのが飛行能力持ちの羨ましいところ。
降りてこいとばかりの対空マスリリース。
これに加えて二刀となってマラ・ケニタルからはウインドスラッシュを放つ。
ひらひらと華麗に回避すれば、上空からバーストフレア。
さながら爆撃だ。
回避する移動地点からはマッドメンヒルによる嫌がらせ。
からの――、
「接近戦!」
「ここまで続ければ読まれるよな」
「当然!」
二刀で振り払い、互いに睨み合う。
パターンだけども、こっちの回避と同時に絶妙なタイミングで接近戦を仕掛けてくるね。
生気を感じさせない黒い複眼。
人間の視界とは違って、広範囲を見渡すことが出来るんだろうな。
だからこそ、こちらの動きを的確に捕捉して仕掛けてくることが可能なんだろう。
未来位置予測が卓越な射撃手になれそうだな。
うん。
――いいよ。俺!
トラウマ中でもジージー以外なら見渡す事が出来ていた。
そして今はジージー自身も捕捉することが出来ている。
動き良し! 捕捉よし!
「勝って完全にトラウマとはおさらばだ」
「だね。兄ちゃんの新たなる成長ってのを見せてよ」
「おうよ!」
ミルモンも立派に成長してくれている。
激しく転がる中でも俺から離れることはないんだからな。
振り回されても離れない体感と握力には感心する。
「快活なのは良いが、そういった発言はこちらを倒してから言うべきだ! まあそれは無理だがな。バーストフレア!」
俺以上に気迫に漲るジージーの上位魔法。
しかも三発。
ドンドンドンッ! と豪快な音と共に迫る連鎖爆発する火球をアクセルにて回避。
「そこ!」
「分かってるよ」
「ぬう……」
ここでも上空から仕掛けてくる接近戦闘に対応。
さっきよりも速い動きでジージーの刺突に対応すれば、残火の刀身がジージーのガントレットをかする。
もうワンテンポ速い対応が出来ていれば、ジージーの腕をバッサリとやれていたな。
決定打となる一太刀にならなかったのは悔しいね。
恐怖よりも悔しいという感情に重きを置けているのは、トラウマ克服としては良い傾向だな。
「動きが冴えてきたな」
「これでも十全じゃないけどね」
「十全ではない勇者に動きを読まれるか。こちらは増進塔の恩恵を受けているのにな」
未だに至近距離でセミフェイスを見れば背中に寒いものが走るけども、今までと違って足にも腰にも力が入るから、豪腕からのロングソードを受ける事も可能になってきている。
「そい」
と、いなして相手の姿勢を崩すことも出来るようになったしな。
「ええい!」
ここでようやく焦燥感のある声をジージーから聞くことが出来た。
今までは俺が恐怖と焦りが原因で情けない声ばかりを上げていたが、その立場が逆転しつつある。
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