PHASE-1478【共通の笑み】
「いいよ兄ちゃん。兄ちゃんの心から、オイラの嫌いな陽の感情がわき出しているよ♪」
嫌いな感情と言いながらも、ミルモンの声は明るい。
使い魔をここまで心配させていたことに反省だな。
「まだだ!」
利器だけでなく口吻と白打による攻撃も見せられてきた。
大気を裂くような口吻の鋭い音と、反面、大気を押しつぶすような豪快な音からなる拳。
それらを躱しつつ、
「ここっ!」
最も警戒すべきロングソードの一振りを籠手で受け、そのまま受け流してからの――、
「カウンター!」
ジージーの一連の動作に対処したところで残火による逆袈裟。
「ぉごぐぅ!?」
手応えあり!
斬り上げた残火に合わせるように声を上げるジージー。
声から伝わってくるのは大痛打。
それは眼前のジージーの状態からも分かるというもの。
残火の一太刀でプレートを切り裂けば、切り口から溢れ出てくるのは血液ではなく、透明な体液だった。
咄嗟に弓なりに体を反らせたことで致命傷は避けたようで、戦闘不能へと追い込むことは出来ず、続くマラ・ケニタルによる斬撃を見舞う前にジージーは後方へと距離を取る。
――双方の行動が、今までとは逆になったな。
決定的な違いは、相手の方が深手を負っているということだろう。
これには今まで歓声を上げていた城壁の兵達も静まり返ってしまう。
そして――、
「ファーストエイド……」
唱えたところで――ね。
「な……なぜ……!?」
増進塔の恩恵があろうとも、残火による刀傷効果で回復は妨げられてしまうからな。
「当面はそのままだ!」
「おぉ……なるほ……どな……」
理解したのか、複眼を原因となった残火に向けてくる。
「勇者の……装備なのだから……な。ち、治癒阻害などもあるか……」
「あるんだよ」
さて、いまの一太刀で形勢逆転。
ここからジージーがどうするかだな。
追い詰められたことで城壁側に掩護を求めるかな?
――それはしないだろうな。
「次で終わらせる!」
「い、一転しての強気……」
「感謝するよ。トラウマに立ち向かえる機会を与えてくれて」
「あ、与えたつもりは……ない!」
傷口から体液を噴き出させながらも、四枚の翅を勢いよく可動させる。
「無理して動けば命にかかわるぞ」
「問題なし!」
弱々しかった声が瞬時にして消え去り、強い声で俺へと迫る。
捕捉しにくい素早い軌道は深手を負っていても変化なし。
だが――、
「今までと違うから」
恐怖状態が緩和したことで、相手の動きを冷静に見ることが出来ている。
戦いにおいて、肉体面より精神面の方が如何に重要なのかというのが分かるというもの。
精神が安定すれば、培ってきた肉体による技量もフルに発揮できる。
心技一体、心身一如とはよく言ったもんだよ。
接近するジージーに対し、二刀を鞘へと収めて、
「イグニースからの――烈火」
右拳で発動。
「それは通用しない!」
弾き返してきたもんな。
でも、傷口に叩き込めば無事では済まないだろうね。
まあ――そこに打ち込むつもりはないけど。
でもって、
「左も準備」
一言発して左拳にも力を蓄える。
「取らせてもらうぞ――勇者!」
「深手を負いながらも、攻めの姿勢を崩さない精神は尊敬するよ」
称賛しつつ、ジージーが打ち込んでくる全身全霊の突撃による刺突。
もう何度も見させてもらった刺突。横に半歩だけ動いてソレを躱し、体を低くしてからジージーの懐へと入り込む。
セミの亜人にこちらから入り込むとか、さっきまでの俺なら考えもしなかっただろうな。
などと思いつつ、
「ボドキン!」
懐に入り、低くした体を起こすと同時に、左拳を下方から突き上げてのボディブロー。
「ごぅぉおっ!?」
口吻から漏れる声は、内部から襲ってくる強烈な鈍痛からのもの。
外からの衝撃は防げても、内部に直接とどく一撃を防ぐのは難しかったようだ。
続けて同じ箇所を狙って、
「烈火!」
練りとしては中程度の烈火。
ボディーブローによるワンツー。
内部の衝撃から繋げる外部への一撃は、相手を吹き飛ばす目的の一撃。
俺の思惑通り二撃目の爆ぜる音と同時に、ジージーが吹き飛ぶ。
吹き飛べば当然――落下。
飛行能力を有しているのだから動けるなら落下することはないだろうが――、
「こぉぉぉぉぉ――」
息吹をしつつ残心。
その最中にガシャン! と派手な金属音。
ジージーは飛行することなく地面へと倒れれば、その姿まま動くことはない。
「グッバイ、トラウマ」
その姿を見て俺なりの勝利宣言。
「やってやったね!」
左肩から離れて俺の眼前で勝利を祝うように舞うミルモンは破顔。
「よくやった。これで過去のお前とは踏ん切りがついたな」
「おうよ」
返せばベルは柔和な笑みを向けてくれる。
そのご褒美だけで頑張れる俺は安い男だ。
「やったねトール」
「なんとか勝てた」
と、シャルナはベルとはまた違った快活な笑みを見せてくれる。
「最初からその調子で戦えば楽な相手だったでしょうに」
「それが出来れば苦労しなかったさ。でも、克服も出来た」
と、返せば、コクリコは微笑んでくれる。
「無事で何より」
と、リン。
いつものような不敵で蠱惑な笑みではなく、自然な笑顔。
凄く珍しい表情だった。
五人に共通するのは、安堵からくる笑み。
あんなにもヘタレた醜態を晒してしまえば、誰だって心配するわな。
本当――めちゃくちゃ心配させてしまい申し訳ない。
でも、もう大丈夫!
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