PHASE-485【ノービス脱却】

「おのれ!」

 リザードマンを倒したところで、更なる増援として二人のレッドキャップスが突如として眼前に現れると、同時に襲いかかってくる。

 しかし、俺が動く前にベルとゲッコーさんが一瞬にして一人ずつ倒す。

 レイピアと無手。

 先ほどまでAA-12 を使用していたけども、現在は無手の状態で躍りかかってきたゴブリンの攻撃を躱し、そのまま腕を極めてへし折り、蛇のように腕が動けば首へと巻き付き、ゴキリッという音の後、ゴブリンの腕がだらりと力なく垂れ下がった。

 首の骨が折れる音には恐怖がにじみ出る。

 その音は俺たちにではなく、護衛軍に対して恐怖を振りまく。

 恐怖耐性がないのか、完全に及び腰。


「小隊長がやられたぁぁぁぁぁ!」

 通路で対面する方から、ベルが倒したリザードマンに視線を向けながら、一人のオークが叫べば、それを合図にしたかのように、皆して逃げ出していく。


「レッドキャップスだけでなく、通常の護衛軍も普通に人語を話せるのが多いな」


「それだけエリートなんだろう」

 ベルはそう言うけど、我先に逃げる姿にはエリート感はないぞ……。

 まあ、相手にしているのがこの二人となると、恐怖に呑まれるのも仕方がないけどな。


「それにしてもトール。見事な反撃だったな」

 継いで発するベルの発言は、俺を褒めるものだった。

 防いでから反撃で確実に倒す。

 動きに無駄がなく、力みの無いよい斬撃だったとのことだ。

 

 戦闘時において、緊張感が強すぎると体が強張って全力が出せない。

 最近の俺は、そのあたりが緩やかだそうだ。

 弛緩しすぎれば隙となるから駄目だが、無駄な力みは疲労を大きくする。

 適度な緊張感と弛緩のバランスを両立させられるようになれば、訓練を行っている時の、本来の力が維持できるそうだ。

 

 命をかけるというプレッシャーの中で、訓練時のイメージで立ち回るのは難しい。

 経験をもっと積むことで、イメージを固めていく。

 積むとなるとそれは戦闘を繰り返すという行為だし、命を奪う事でもある。

 だからこそ覚悟をもって刀を振る。


「とにかく、今回のトールの動きは、目に見えて向上していたぞ」

 命を奪う事だとしても、強者であるベルに褒められれば、素直に嬉しくもある。

 敵を倒せば、それだけ味方には犠牲が出ない。

 それこそが大事と自身の精神に刷り込ませていく。


「ちょっとベル。トールばかりの評価はいかがなものでしょう」

 その通りだよコクリコ。

 今回は流石に驚いたぞ。


「なんだよライトニングスネークって」


「そうでしょう! そうでしょう!」

 そこをちゃんと話題にして欲しかったようだな。

 心配せずともしっかりと話題にするさ。

 ファイヤーボールとは明らかにかけ離れた威力。

 ここいらの連中になると、ノービスではダメージは入りにくいだろう。

 だけどもコクリコの今回の魔法は、一撃で敵を倒し、周囲の敵にも余波によるダメージを与えた。


「シャルナ。さっきの魔法は?」


「ライトニングスネーク。中位の雷魔法だね。対個に大きなダメージを与える事も出来るし、近くにいる者にもダメージを与える。侯爵の別邸でヴァンパイアがトールに使用した、ライトニングボアの下位の魔法だよ」


「下位とはいえ、コクリコが中位魔法を使用出来るようになったなんて。俺は感動したぞ」


「いや~本来ならマンティコアの時に見せたかったのですが」

 おお、ガスマスクの奥で照れている。褒められて照れている。

 ここに来るまでに迷惑をかけたもんな。マンティコアに攻撃を仕掛けてさ。

 見せ場が出来てよかったな。

 マンティコア戦で途中退場になった時に、口に出したかったのはこの魔法の事だったのかもな。

 ここでファイヤーボールとランページボールの馬鹿魔法だけだったら、挽回はむずかしかっただろうさ。

 でも、戦力の底上げは素直に助かる。


「さあ、コクリコがパワーアップしたことだし、ここから先もガンガン進んでいこう!」


「任せていただきましょう!」


「うん。強気になるのはいいけど。後衛な。後方でさっきのスネークを使って」

 調子に乗らせないようにもしないとな。


 ――――更に通路を進んで行く。

 この間にも抵抗はあったけども、さほどの脅威にはならなかった。

 テーブルや樽なんかを障害物としてこちらの進行を遅らせるようにしつつ、遠距離武器である、クロスボウや弓でこちらを狙ってくる。

 対してこちらはコクリコの魔法と、シャルナの弓と魔法が活躍。

 ゲッコーさんもアサルトライフルに持ち替えるけども、活躍の場を欲したシャルナをメインにしてあげる。

 レッドキャップスの接近には、俺とベルが対応して撃退していった。


「――――! 後方から近づいているぞ。今度は挟撃だな」

 ゲッコーさんが気付いてから、ワンテンポ遅れて俺の耳朶にも、後方から迫ってくる足音が届く。

 足音からして、かなりの数が接近しているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る