PHASE-486【やはり徒手空拳タイプだった】

 後方から接近してくる敵性をビジョンで捉えれば、普通の護衛軍だった。

 広い通路ということもあって、正面の部隊同様に、手には長槍が握られている。


「よし挟撃だ!」

 正面から気勢が上がる。

 もう一度、後方を目にすれば、長槍を持つ者たちの前に部隊が展開。ラージシールドを前面に出して隊列を組んで突撃してくる。

 長槍の攻撃を確実にするための戦法だろう。

 防御に全霊を注いだ者達に守られながら、長槍の切っ先が俺たちへと向けられる。

 シールド持ちのおかげで、安心して攻撃に傾倒できるというのが、強い足取りから伝わってくる。

 後方に呼応するように、正面の部隊も息を合わせて突撃してくる。

 

 加えて――、


「フレイムアロー」や「フリーズアロー」などの魔法が唱えられる。


「プロテクション」

 間髪入れずにシャルナが防ぎ、その間にゲッコーさんがMASADAにて迫ってくる護衛軍にヘッドショットを決めていく。


「背後の相手は私が」

 と、ランシェル。


「無理するなよ。相手は二十人はいるぞ」


「ここまで私は見ているだけでしたから。力を振るわせてもらいます」

 そう言うと、単身で後方から迫る護衛軍に走り出す。


「何という無茶。コクリコ」


「任せてください」

 本日、絶好調のコクリコが無い胸を反らしながら、ワンドの貴石を赤く輝かせ。


「ランページボール」


「だからそれはつかうなや!」

 宙に浮いたワンドに両手を沿わせれば、そこからファイヤーボールより大きな火球が顕現し、勢いよく飛翔。

 ランシェルを追い越して、護衛軍の盾部隊と長槍部隊を通過。

 通過したタイミングでランページボールが荒ぶる。


「ぐぁ!?」や、「ええい!」などの痛みを訴える声や、苛立ちを覚える声が上がる。

 身構えていたが、こちらには被害はない。

 後方から迫る護衛軍の更に後方で、荒ぶるランページボールは礫サイズの火球をまき散らし、護衛軍のみを襲う。


「どうです! 我が魔法の威力」

 決めポーズにて、術者は陶酔しているけども……。


 ――…………。


 ――……。


「そうだよ! 最初からこうやって使え! やれば出来るじゃねえか!」

 この魔法の有効利用はやはりこういうものだろう!

 普段は敵味方関係なく使用するからな。

 威力はともかくとして、足止めにはなったようだ。


「コクリコ様。感謝します」

 ランページボールによって隊列に乱れが生じたところに、追撃役のランシェルが跳躍すれば、ラージシールドに足を当てると、そこから更に跳躍し、長槍を持った護衛軍のオークの首に目がけてジャンプキック。

 ――……一撃でオークの首が変な方向を向く。


 長槍の間合いではない至近では、ランシェルの独擅場どくせんじょうとばかりに、手刀、殴撃、肘、掌底、膝、蹴撃からなる打撃一辺倒の攻撃によって、次々と護衛軍が力なく倒れていく。

 やはりメイドさん達の距離の詰め方から想像したとおり、徒手空拳こそが真骨頂だったわけだな。

 

 瞬く間に周囲の護衛軍を床に沈めたランシェル。

 あっけにとられていた護衛軍が、はたとなった時、ランシェルはメイド服の肩部分の膨らみに、腕を交差させながら手を突っ込む。

 

 あの部分に手を突っ込むことが出来るんだ。と、俺が思っていれば――――、次の動作にて、膨らんだ部分から手が抜かれてファイティングポーズ。

 構えている手には、金属製の物が備わっていた。

 ――――ナックルダスター。メリケンサックともいわれる打撃強化と、拳打による怪我から拳を保護する武器だ。

 殺傷力が高めとばかりに、リング部分には鋭利な突起が備わっていた。


「ゲッコーさん」

 

「――なんだ?」

 正面への攻撃と、背後の掩護のために、MASADAを構えているゲッコーさんに問う。

 返ってくる声は若干だったが、間の抜けたものだった。

 そして俺は続けた。


「俺、初めて知りましたよ。メイド服の肩部分の膨らみには、武器が仕舞ってあるんですね」


「奇遇だな。俺も今日、初めて知った。ちなみにあの部分はパフスリーブというんだ」


「へ~」

 感心している中でランシェルが暴れ回る。

 拳の一撃は先ほど以上。

 殴撃の一撃が顔面に見舞われれば、比喩的な表現でもなく、拳が顔にめり込んでいた。

 絶命の連続。

 やはり強かったな。ランシェル。というか、こうなるとドヌクトスにいるサキュバスのメイドさん達も、ランシェルクラスって事だろう。

 責任者である立場のコトネさんは、ランシェル以上かもな。


 これがメイドさんの本気か……。

 凄いパワーだな。

 まあ男だもんな。力は他のメイドさん達よりはあるだろう。

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