PHASE-487【エルフから堕ちた存在】

「感心していないで二人とも!」

 シャルナが至近まで迫る正面からの敵を流石に防ぎきれないと、遠距離の弓を壁に立てかければ、黒石英からなるショートソードを手にする。

 まあベルが迎撃してくれるから問題はないだろうけど、ランシェルの戦いっぷりに触発もされる――。


「コクリコ。ランシェルの援護を引き続き頼む。流石に一人であの人数は面倒だろうから」


「お任せを」

 ゲッコーさんは言わなくても理解できているからね。

 押し込まれそうな方に対しての掩護を全て担ってもらおう。

 さて、数は背後の者達より圧倒的に多い正面には、レッドキャップスもちらほら見える。 

 でも、この面子なら何の心配も抱くことはない。


「後は全力でぶつかればいいだけ!」

 ブレイズと発して残火に炎を纏わせて、ランシェルに負けない勢いで俺も正面部隊に向かって驀地。

 猛然と攻めることで、相手の気勢ある足を鈍らせてやるという気持ちで突っ込む。


「どりゃ!」

 残火を防ぐことは不可能。

 防御の姿勢ごと敵を屠る。

 防ぐことが不可能な事と、味方が燃える現実に、敵の足並みは途端に鈍くなる。


「ナイス! ウインドスラッシュ」

 俺に触発されたようで、シャルナは快活のよい声に連動させて、腕を交差させた姿勢から振り切れば、風が刃となって護衛軍に襲いかかる。


「ほう、活きのいいエルフだな」

 野太い声が正面奥から聞こえてきた。

 同時にシャルナの風の刃がかき消される。


「私と同じ魔法。風魔法の使い手がいるようだね」

 奥よりゆったりとした足取りで姿を見せるのは、人間の美的センスで例えるなら、醜悪な存在。

 人間の大人ほどの身長に、ゴブリンのような鷲鼻をもった顔。

 鮫のようなギザギザな歯。

 額が広い富士額からなる金色の長い髪。

 褐色の肌で、シャルナと同じように耳が笹の葉のような形状。

 装備は鎧皮系のブレストアーマーに、腰にはブロードソードを佩いている。

 背中を隠すくらいの長さの青いマント――というよりケープを纏っている。

 凶悪な表情にも見えるが、青い瞳には叡智を宿している。


「風魔法。肌の色と耳の形状から推測するに、ダークエルフか?」

 出来ればシャルナのような容貌がよかったけどな。

 いつか出会うことがあるだろうと楽しみにしていた褐色の美人。

 まあ、目の前のは男だけど。


「違うよ」

 と、否定のシャルナにちょっと安堵感。

 ダークエルフは俺が思っているように、顔つきはシャルナのようなエルフと一緒で、肌が褐色なのだそうだ。

 それを聞いて更に安心。やはりダークエルフは、褐色美人であってほしいからな。

 シャルナが付け加えて、ダークエルフは陰気で陰湿と毒を吐いているあたり、ハイエルフはダークエルフをあまり好きではないご様子。


「じゃあ、目の前のアレは?」


「あれはウルク。ダークエルフなんてアレに比べればまとも」

 邪悪をそのまま具現化させた存在と吐き捨てる。


「高みを目指そうとしただけだ」


「うるさい! エルフから堕ちた者!」

 声には今まで聞いたことがないくらいの怒気。

 シャルナにとって許されない存在のようだ。

 ――――ウルク。

 高尚なハイエルフが邪法に触れた結果、魔に堕ち、外道の道を歩む事になった存在。


「でも元はエルフなんだろ」


「そうだよ」

 てことは、シャルナクラスで魔法を多用できる存在と考えるべきだな。


「副官」


「お前達は守りを固めろ」


「承知!」

 残っていたレッドキャップスが姿を消す。

 ウルクの命令で移動した。

 だけどもウルクの頭には、赤黒いとんがり帽子はない。


「レッドキャップスにも命令できる立ち位置なんだな」


「別段、帽子を被っていれば偉いというわけではない」


「どんだけ強いんだろうな」


「試してみろ。他の者はお前達に任せる」


「「「「はっ!」」」」

 再び動き出す護衛軍の足取りは、鈍さが消え去り、強いものに変わる。

 それだけこのウルクに信頼を寄せているということか。


「ウインドランス」

 ウルク戦の開始の合図とばかりに、シャルナが唱える魔法は、高い風切り音を発するもの。まるで鏑矢のようだ。

 甲高い音を伴ってウルクへと迫れば、


「ウインドランス」

 シャルナの魔法に対して、ウルクが口端をつり上げて同じ魔法を使用する。

 先ほどといい、挑発的な行為でシャルナの魔法を打ち消してくる。

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