PHASE-484【一人でできるもん!】

 ワンドから蛇の姿をした青白い発光体が、護衛軍に向かって、宙を激しくのたうち回るようにして飛んでいく。


「ギャ!?」

 バッシャーンといった雷撃音の直ぐ後に、短い声を上げる護衛軍のオークは、全身から煙を上げてバタリと倒れる。

 周囲の護衛軍も電撃が伝播したのか、動きが悪くなったり、膝をついている。

 そこにすかさずゲッコーさんが、新しい火器を取り出す。


「あ、それは……」

 ただでさえコクリコの新しい魔法にも驚いているのに、ゲッコーさんがあかんやつを取り出した。

 その名はAA-12。フルオート射撃を可能としたショットガンだ。

 またの名を【一人で面制圧できるもん!】――――俺が勝手に名付けただけ。

 隙は無しとばかりの32発が装弾されているドラムマガジン。


「ほらいくぞ」

 ファイアレート300からなるフルオートショットガンが火を噴く。

 M870ハナマルのようなショットガンとは全く違う発射音。

 ど派手な連射音が響けば、槍衾やりぶすまが次々に、力なく倒れていく。

 

 こういう時、漫画とかだとマシンガンなんかで、迫り来る敵をバッタバッタとなぎ倒すってのは目にするけど。

 いや~。エグいですわ……。

 野外と違い、側面に壁がある通路内での連射できるショットガンは、マシンガンよりエグいです。

 マシンガンは連射力はあるけど、弾丸は一直線だから火線にいる相手にしか効果がないけど、AA-12はショットガンだからね。

 接近してくる槍衾は密集しているから、一発で二、三人が倒れる。

 それが連射されるんだ。一人で面制圧できるもん! は、やはりハンパない。


「なんなんだあいつらは!」


「どうも勇者です」

 ハンパないのは撃つ前から分かっていたけど、発射音とマズルフラッシュには驚かされた。

 が、相手の動きが止まったところをみすみす見逃してやるほど、俺の異世界戦闘経験は浅い物ではなくなっている。

 

 挨拶と共に、呆然と立ち尽くしている護衛軍に対して、ラピッドで接近。

 心身に無慈悲を憑依させ、斬撃を繰り返していく。

 残火が触れればそれだけで体は断てる。

 肉と骨の抵抗もほぼないから、斬った感触はやはり手には伝わりにくい。

 素振りをする感覚で命を斬獲できる。


「くそ……」

 圧倒的火力の前に、突撃の動きが鈍くなると、次には後退るしか出来ない護衛軍。

 勇敢に挑んでくる残りのレッドキャップスが特殊な移動でしかけてくるが、しっかりとガードを籠手で行う。

 勢いよく俺の正面から斬りかかってくるけども、目を背ける恐怖心はない。

 火龍の鱗で出来た装備への信頼と、培ってきた経験が、しっかりと相手の動作を見る精神的な支えになってくれる。

 一撃を防いでから斬れば、


「ぐぅ……」

 小さな苦しみの声を上げて、正面から迫ってきた勢いをそのままに、レッドキャップスの一人は、俺を通り過ぎる時にはすでに事切れていた。


「たかが六人にこの体たらくとは……」

 残った一人のとんがり帽子を被るのは、新たに目にする種族。

 おののいてはいるけど、怯まない存在。

 鎖帷子のような装備に加えて、露出している肌は、頑丈な鱗によって守られている亜人。

 木の幹のようにぶっとい尻尾を有したトカゲ人間。

 ファンタジーでお馴染みのリザードマンだ。


「貴様は他と違い、いい動きをしている」

 ベルがリザードマンに称賛を送れば、挑発と受け取ったようだ。

 ベルとしては素直な称賛だったんだろうが、強者であると自負しているレッドキャップスにとっては、それは火に油をそそぐようなもの。


「その血をいただく!」

 怒りのままに、手にした両刃の斧であるラブリュスを袈裟斬りで振り下ろすも、ベルは容易く回避。

 バックステップを一度するだけで、三メートルほど後方に移動する。

 

 リザードマンの大きな口が不敵につり上がるのは、瞬間移動を使用できる自分に間合いは関係なく、どこからでも必殺の一撃を狙えるという自負からの笑み。

 距離を取っても意味がないというのを分からせるために姿を消し、必殺の一撃を見舞うために、ベルの目の前で姿を見せる。

 

 が、それよりも速くベルのレイピアが動く。

 炎は出していない。

 

 ――――残火に負けないくらいの切れ味だった。

 

 帷子と鱗で守られていた屈強な体は、容易く断たれる。

 レイピアは一回しか振っていないように見えたが、実際は数回振っており、リザードマンの両腕と体が、通路に落ち、倒れる。

 むごたらしい死に様だった。

 いや、この通路で戦って命を落とした者達は、殆どがむごたらしい……。

 AA-12から発射された散弾によって、盲管銃創もうかんじゅうそうで絶命した護衛軍。

 彼らが流す豊饒な鮮血によって、通路を血の池に変えてしまっている。

 敵であり襲ってくる存在だが、命を失った者たちに、俺は手を合わせる。

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