PHASE-1487【大味は浪漫】
「兄ちゃん、来るよ!」
「おうさっ!」
当たれば確殺となるなら、防ぐ事をせずに回避一辺倒を選択しないとね。
警戒すべきはラズヴァートよりも――フッケバイン。
突風を生み出してこちらの動きを封じ、その風に乗ってラズヴァートが攻めてくるとなると、面倒ではある。
が、
「動かない」
フッケバインは空中に留まるだけで、勢いある風を生み出してこちらにぶつけてくるということはない。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」
すかしたイケメン時とは違って、熱血漢となったラズヴァートの突撃。
飛行による突撃は安定のないものだった。
「――なるほど」
威力は絶大であっても、
「習熟したとは言いがたいようだな」
右拳に纏うパイルストームが生み出す風が原因なのか、バランスを崩しながらの飛行である。
だとすれば、フッケバインも突風による掩護はできんわな。
「些細な問題だ! 当たれば勝利確定なんだからな!」
「ほうほう」
「すかした顔をするなよ。似合わないぞ! 平凡な顔でその表情はよぉ!」
「なるほど! 圧倒的な実力差ってのを見せつけてやらないと分からん馬鹿のようだな!」
「くらえ!」
「くらうかよ。とろくせえ!」
突き出されるパイルストーム。
確殺の大魔法が周囲に撒き散らす風は暴風そのもの。
本来ならその風で相手の動きにも制限をかけて回避しづらくするって効果もあるんだろう。
でもその効果が使用者に悪い意味で反映されている。
この風を纏わせながら飛行すれば、そりゃ上手く飛べないわな。
「これなら飛行せずに足をつかって走った方が安定してただろうな!」
「なっ!?」
「反省は地面に寝てからやってくれ!」
パイルストームを躱して背後に回り込み、反転を許さないように首根っこを左手で掴み、右肩を右手で押さえ込んでから、
「どっこいしょ!」
の、かけ声と共に押し倒して拘束。
両手による押さえつけに加え、全体重をのせてから背中に乗っかってやる。
「くそがっ!」
悔しそうな声が上がってくる。
警戒すべき右手を見れば、暴風の塊は威力が弱まっていき――霧散。
「直撃ならじ」
「なんで当たれば確実に死ぬような攻撃に対して平然と向きあえんだよ! 普通は恐れて腰が引けるもんだろうが!」
「普通の胆力で勇者なんて出来るかよ。そもそもこれ以上にやばいので襲われた経験もあるからな。覚悟は決まってるっての!」
コイツよりも――俺なんかよりも圧倒的に強いデミタスが見せた対人用大魔法のデヴァステイターで襲われた経験からすれば、今回の大魔法なんて余裕も余裕。
「俺の勝ち~」
「クソが! 俺から降りろ! 男に乗られてもうれしくねんだよ!」
「まだそんな生意気な事が言えるんだな。俺だって男に跨がるのは趣味じゃない」
拘束を維持したまま立ち上がれば、勢いよく翼を動かして逃げようとする。
「わっぷ!? バサバサと暴れるなよ。絶対に離さないからな」
「跨がれるのも御免だが、後ろから抱きつかれるのも御免だな!」
「そう言ったって離してあげない」
語尾にハートマークがつきそうな声音で言ってみれば、
「気色悪いんだよ!」
暴言を吐かれようとも、
「絶対に離さないんだからね」
左手をラズヴァートの前側へと伸ばし、右手首をキャッチ。
「おいおいなんだよ。趣味じゃないとか言って、そっちの気があんのかよ!?」
「んふぅぅぅぅぅぅ――!」
と、興奮気味な鼻息を耳元で聞かせてやれば、大層に気色悪かったようで体を震わせていた。
「お、お前……マジかよ……」
「さあ、正面を俺に向けておくれよ」
掴んだ右手首を力強く左側に引っ張り、無理矢理に百八十度回転。
「これで向かい合えたね♪」
と、ニッコリ笑顔で色気ある声音にて発せば、俺に対して恐怖を抱いた表情になる。
倒されるというよりも、別の意味での恐怖を感じているご様子。
心配すんな、さっきも言ったが俺もそっちの気はない。
ランシェルに狂わされそうになったりもしたが、俺は異性に恋心を抱く男だ。
でもってここで、
「これでエンドマークだ!」
と、自分の出せる全力の渋声と共に、ニッコリ笑顔から鬼の形相に表情を変えてやる。
「ブーステッド」
と、継ぎ、
「平凡な顔とか初対面の相手に連呼してんじゃねえ!」
と、怒気と共に更に継ぎ、自身の右腕を横に伸ばすモーションを取りつつ、思い切り掴んだ右手を俺の方へと引けば、ラズヴァートが強制的に俺の方へと接近。
そこに合わせて――、
「がぶっ!?」
整った顔の――下方から真っ直ぐに伸ばした右腕をかち上げるように打ち込み、勢いを殺すことなく全力で振り抜く!
振り抜くと同時に掴んでいた右手を離せば、ラズヴァートは豪快に一回転した後、思いっきり地面へと叩き付けられる。
――……イケメンが台無しとばかりに白目を剥き、ピクピクと体が痙攣。それ以上の動きを見せる事はなかった。
「どうよ! 見よう見まねのレインメーカーの威力は!」
フィニッシュ・ホールドはショートレンジによるラリアット。
「普段の決着方法とは違う技だったね。体術とはまた違った豪快さがあったよ」
「こういうのも出来るのだよミルモン。他にも
「うん。分かんないよ。分かることがあるとするなら、苦戦しなかったってことだね」
「まあ、そうだな」
じゃなきゃオーバーリアクションの豪快な技を使用するって事はしないからな。
だがしかし。こういった豪快な技が決まると気持ちいいね。
生き死にの戦いに愉悦を求めてはいけないが、プロレス技が綺麗に決まって勝利すれば、興奮するなと言われても無理だ。
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