PHASE-433【オジマさん】

「ご苦労だったな」

 労いをゲッコーさんが発せば、これまた美しく整然と並び、敬礼にて返礼している。

 シンクロした動作は、テレビや動画でやってる某大学の集団行動のようだ。


「一応の確認だが、命は奪っていないな」


「当然です。民間人の命を奪うのなどクズのやることです。中には鎧を装着していた者たちもいましたが、眠ってもらっただけです」

 一人がゲッコーさんに答えれば、発言に対してその通りだと、揃って首肯。

 動きが一々ロボットである。


「ドム、ここは何処なのでしょうか? 拘束する中で眺めた光景は、中世の街並みでした」


「チェコのチェスキー・クルムロフにでも来たのかと思いましたが、造りが違いましたし、明らかに初めてに見る都市ですね」


「まるでタイムスリップした気分だ」


「異世界だったりしてな」


「中つ国ってか? だったら美人エルフを伴って、指輪破壊のために滅びの山オロドルインを目指すか」


「止めとけ、お前は力に呑まれる。簡単に酒に呑まれるからな」

 と、最後はゲッコーさんが絞める。

 絞めると同時に、高い笑いが起こるという、アメリカのコメディーを見ている感じだった。

 ――――目の前の面々は、ゲッコーさんの発言に大声で笑っているけど、正直クスリともしないレベルだよ。

 日本のお笑いで目を肥やした俺が笑うレベルではないな。

 とりあえず、やり取りの中で一人は正解がいた。

 

 ゲッコーさんのフランクな返しから、今置かれている現状はそこまで脅威じゃないと感じ取ったのか、しゃっちょこばる必要がないと判断した目出し帽の集団は、談笑を始める。

 

 その中で――、


「端的に言う。信じられないだろうが、異世界だ」

 談笑は、ゲッコーさんの発言によって消え去り、しじまが訪れる。

 真剣な声音から、冗談ではないと判断したようだ。

 

 ここでようやく俺の紹介があり、俺がS級さん達を召喚したと述べれば、すんなりと信じてくれた。

 ゲッコーさんから、自分も同じように召喚された。と、説明があったからだ。

 つまりは俺の発言を信じているゲッコーさんを皆さんは信じているわけだ。

 決して俺を信じているわけではない。

 なんだろう、ちょっと悲しい……。


「だとすると――――、いるのかい? エルフ」

 さっき中つ国とか言ってた人が、俺に問うてくる。

 顔は分からないが、声で理解する。


「いますよ。普通に」

 補助の必要がなくなった俺の体。

 現在も座ったままだが、俺から離れたシャルナを指させば、わずかな間の後に、


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」

 興奮する声が上がり、唱和となる。


「な、何なのよ……」

 うねりを上げる咆哮に、流石のシャルナも驚いて身構える。

 本当に耳が長い。美人。綺麗な金の髪。透き通るような肌。弓持ってる。

 と、各々が知っているエルフの知識を口にしながら、本当に異世界にいるんだと、更に興奮。


「落ち着け」

 ビシリと場を締めるゲッコーさんの低音の声に従って、瞬時にして興奮を排除。

 器用なようにも思えるが、見ようによっては情緒不安定だよな……。


「ドム」


「なんだ」


「この世界が異世界だとするなら素晴らしいですね。僕たちの国も――――」

 はいきた! コレが怖いんですよ。

 その発想に行き着くのが怖いんだよ。

 発言を耳にしたと同時に、俺はプレイギアを手にして、居並ぶ彼らに向かってご退場と考えていたが、俺の行動よりも早く、


「オジマ。ここは我々が住む世界ではない。建国する目的は、我々の世界で苦しむ人々や同胞を救うためだ。その為、大国に対して協力もしてきた」

 共に戦う同胞と目指す国づくり。

 ゲーム内では、それを理想として活動しているのがゲッコーさん達。

 だからといって、大国と敵対関係になるなんてことはない。

 むしろ、民間軍事企業の台頭と暴走を国から依頼されて阻止するストーリーが主軸となった作品だ。

 

 戦いに疲れた者、つまはじきになっている者。そんな仲間達を集め、理想とする国をつくる。

 世界の秩序を保つため、大国にも協力する。

 でも、利権しか頭にない政治屋は嫌いだから、その国の軍属にはならない。

 協力をしつつ一定の距離をとる組織。

 そういう危険な綱渡りをしている立ち位置が、ゲッコーさん達だ。


「我々の大義は、我々の世界で成さなければならない。そうでなければ、先に旅立っていった者たちを裏切ることになってしまう。俺にはそんなことは出来ないし、お前達にも出来ないだろう。旅だった者たちの眠る地で造り上げるからこそ、意味がある」

 静かに、小さな頷きだけで皆さんは返していた。

 目出し帽ばかりだから、誰が誰だかよく分からんが、ここでようなくオジマって名前が出てきたな。

 

 百人のS級兵士の中でも、もっとも有名なキャラ。

 隠しキャラであるオジマさん。技術開発のステータスがSで設定されている人物。

 隠しだけど、序盤で手軽に仲間にする事が出来るから、アンダーヘブンの技術開発を序盤で大幅に高めることが可能。

 ネット上ではオジマブーストと呼称され、有り難がられている人物。

 ちなみにS級兵士の中で唯一のネタキャラでもある。

 ゲッコーさんが主人公のゲーム、ペネトレーションシリーズの総監督が元になっているキャラだ。


「俺は異邦人として、この世界の弱者の為に力になっている。可能ならばお前達にも協力してほしい」

 指導者らしからぬ典雅な一礼をS級兵士たちに行うゲッコーさん。

 指導者ではなく、一人の人間としてのお願いだった。

 自分たちが絶対的な忠誠を誓う人物の一礼にざわつき戸惑う中、


「軽率な発言、猛省します。ドムのお考えは我々の考え。ドムが命じるなら我々は共に行動します」

 オジマさんが敬礼し言葉を述べれば、残りの皆さんもオジマさんに続き敬礼。

 ゲッコーさんの発言に従うという意味合いのものだ。


 俺が危惧していたことは杞憂に終わったと考えたい。

 圧倒的カリスマであるゲッコーさんがお願いした以上、この面子はその発言に付き従う方々ばかりだから――――。

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