PHASE-432【単純に、ゲッコーさんが百人】
光が完全に消え去り、全員の姿を眼界におさめることが出来る。
現れたのは、全員が同じ黒色の目出し帽を被った集団。
服装はモスグリーンの軍服。
軍服に着用するのは、セラミックプレートが入った茶系の色からなる、ボディーアーマー、マガジンポーチつき。
黒色の半長靴。
それらを装備した集団の数は、百人。
ちゃんと数えてはいないが、俺のストレージデータどおりなら百人だ。
「傾聴」
一言告げれば、百人からなる表情が読み取りにくい目出し帽の兵士たちは、一つの意志で統一されているかのように、一瞬にして整列し、微動だにせずゲッコーさんへと体を向ける。
あまりにも整った動きというのは、時として、見る者に不気味さを伝えてくるってのがよく分かった。
最早、人間の動きではない。精密機械だ。
本来なら、この場所が何処なのかと気にしたりもするだろうし、質問があってもいいだろうが、ゲッコーさんが傾聴と言えば、彼らは聞くことだけに徹する。それ以外の一切が必要ないとばかりに。
――――短くも分かりやすいゲッコーさんの説明を受けて、オカルトチックな内容だったわけだが、ゲーム内でも人々が薬物により操られているというケースがあったりするストーリーもあったからか、柔軟に聞き入れていた。
「では、これより状況を開始する。頼んだぞ」
「「「「了解」」」」
発せば、S級兵士たちは足音を立てることなく散開。街へと広がる操られた人々を行動不能とする為に動き出す。
手には麻酔銃。
誰に教えられることもなく、宙空から取り出す。
この芸当は、ゲッコーさんだけでなく、S級兵士たちも可能なんだというのが分かった。
この百人が一斉にロケランでも撃ったら、ちょっとした大魔法だろうな。
音も無く制圧へと向かっていったS級さんたちを目にしたベルは、
「何なのだ、あの目出し帽の兵達は……。未だかつてあそこまで洗練された部隊など見たこともない」
驚いてくれてありがたいよ。俺がどれだけ徹夜して、このS級を獲得するためにゲームをやりこんだことか。
最強の存在が驚いてくれる事は喜ばしい。俺の徹夜の努力も報われるってもんだ。
「本人を前にして申し訳ないのですが、一人一人の実力は、ゲッコー殿と差異がないと見受けられます」
「ああ、間違いない。中には俺より秀でた者たちもいる」
「ご謙遜を。ゲッコー殿より秀でているなど」
「いや、本当だよ」
その通りだ。ゲッコーさんの言っている事に間違いはない。
レーダーチャートでステータスを見れば、総合能力はゲーム主人公のゲッコーさんが一番ではあるんだけど、S級の場合は、平均以上の高いパラメーターに加えて、一部が突出した能力を保有しているキャラも多い。
例えば、接近スキルがゲッコーさんより低い、もしくは同等。でも、射撃スキルとなるとゲッコーさんを越えるというキャラもいる。
反面それ以外の探知スキルなどが低かったりもするが、それでもA級兵士のスキルよりは高い。
だからこそのS級兵士。俺が徹夜でやりこんで味方にした人材達なのだ。
俺はこのS級兵士の投入を以前も考えてはいた。
考えてはいたが、どうしてもゲーム内のゲッコーさん達の求める、自分たちの国を欲するという思い。
ゲッコーさん以上に、下で活動している者たちの国を欲する渇望は強い。
この世界を自分たちのまほろばと思われても困る。
俺の言葉を聞き入れてくれるかも心配だし、反抗の意志があったら大変だ。
俺がプレイギアに戻す前に、背後からのステルスキルってのもあり得るからな。
だからこそ躊躇もあったが、流石に今回は頼らざるを得ない状況だったからな……。
アンダー・コーことS級兵士が動いた時点で、正直、イリーに騎士団。メイドさん達に活躍の場は無いだろう。
ゲッコーさんクラスが百人動くというのは、そういう事だ。
現に、S級兵士たちが音も無く散開する動きがあまりにも素晴らしさく、魅入ってしまって、イリーもメイドさん達も初動が遅れていたからな。
この状況下で本当に頼りになるS級兵士たちだが、申し訳ないが、この場の状況が終了したなら、即座にプレイギアに戻っていただこう。
「トール」
「なんだベル」
「なぜこれほどの方々を召喚しなかった? 砦でもそうだが、王都での防衛戦もこれだけの実力者がいれば、もっと容易く事が運べただろうに」
ベルさんや、返答に困るような事を直球で言わないでくれる。しかもゲッコーさんの前で……。
王都の弱った状態を目にしたら、代わりに俺たちが! って思ってしまうのを避けたかったんだよ。
口には出せませんよ。こんな内容。
「切り札ってのは、そうそう簡単に切らないものだろう」
俺に変わってゲッコーさんが答えてくれる。
ベルは食い下がることはなく、そうですか。と、頷くだけだった。
もしかしたら、俺の表情を読み取ったのかもしれない。
どんな表情を浮かべていたのか、自分自身では分からないけど、多分、難しい顔になっていたんだろうな――――。
「はぁ~」
感嘆だよ。
感嘆だし、簡単だ。
流石は俺がやりこんで集めたS級さん達である。
散開したと思ったら、瞬く間に制圧を完了させた。
迅速な状況終了には、一緒に行動をしていたイリーと騎士団たち、ランシェル達メイドさんも驚きだったようで、幻術にでもかかっているかのような気分になったそうだ。
操られていた人々の殆どをS級兵士こと、アンダー・コーの面々が拘束。
戦闘不能にした人々を縛り上げていく仕事が、騎士団とメイドさん達の主な仕事だったそうだ。
むしろ自分たちは邪魔にしかなっていなかったのでは? と、自信を打ち砕かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます