PHASE-434【RUN RUN RUN】
「顔色も良くなってきた。立てるか?」
ベルが俺へと手を伸ばし、俺が立つように補助してくれる。
ベルへと引き寄せられるようになりながら立つ。そのままおっぱいにダイブ出来そうだったが、それを成功させると再び動けなくなりそうなので我慢した。
「よくやったな」
「ありがとう」
素直に笑顔で褒められると嬉しい。
立てばシャルナが回復魔法であるヒールを唱えてくれる。
別段、傷を負っているわけではなかったが、気だるさが緩和されたのが分かる。
重かった体が軽くなる感覚。
それでも体に違和感は若干のこるが、走れと言われれば、走れるくらいは可能なほどには回復している。
「一段落ですね」
立ち上がり、S級さん達を後ろにひかえさせたゲッコーさんに向かって安堵の言葉を口にすれば、
「いや、まだだ」
「え?」
ゲッコーさんの声音に緊張感が含まれる。
「ここでの状況は終わったが、まだやらなければならない事がある。急ぐぞ」
「ええ」
ベルは何のことか分かっているようで、動き出すゲッコーさんの後に続く。
必然的に俺たちもその後を追うが、今回は後ろに続く数が多い。
S級兵士の皆さんに、メイドさん達も走れば、警戒の歩哨と倒れた侯爵達を介抱する要員を残し、イリーたち騎士団も続く。
駆けるゲッコーさんの横に並び、
「何処に?」
問うてみれば、
「さっきまで座っているのが精一杯だったのに、かなり走れるじゃないか。体力がついてきたな」
褒め言葉が返ってくる。
ゲッコーさんの駆ける足について行けている。関心されれば、自分自身、体力が向上していることに驚いてしまう。
褒めると直ぐに継いだのは――、
「本邸だ」
――……。
「ですよね~」
そうだよ。姫様だよ。
このドヌクトスは、俺たちがここへと来る以前から、住民達に気付かれないままに、ヴァンパイアのゼノの支配下にあったんだ。
姫はずっと危険な状態に晒されていたわけだ。
というか、すでに手遅れって判断すべきなのだろうな……。
「イリー」
呼べば、後方から俺たちへと合流し、
「姫様を守ってる近衛って、イリーのとこの奴らで良いよな」
「ああ、間違いない」
近衛は騎士団の中でも有能な人材が務めている。
兵達の中には調子の悪くなっている者が現れたが、近衛たちは影響を受けた事はないという。
近衛にはサキュバスさん達の力は及んでいないと考えていいな。
一応、コトネさんにも聞いてみれば、やはり近衛には力は使用していないという話だった。
内部でやり過ぎれば、正体が露見する恐れがあるから派手に行うことを禁ずるという指示があったそうだ。
この指示はゼノではなく、
ゼノは渋々だったが、従っていたとのこと。
普通に魔族が会話に参加していることにイリーは渋面となるが、ぐっと堪えることを覚えたらしい。
――――別邸から本邸へと続く道へと出た時、
「こちらです」
と、ランシェルちゃん……、ランシェルが草木に覆われた壁の中にある扉の位置をファイヤフライが封じられたタリスマン入りのランタンを向けて示す。
ここを使用すれば、馬車よりも速く移動でき、本邸までのショートカットになるそうだ。
以前、ランシェルが先回りしていたのは、この隠し通路を使用したからとの事。
メイドさん達とゼノだけが知る隠し通路だそうだ。
開かれた扉の先は、迷路のように入り組んだ二メートルほどある高い生け垣。
深い緑が支配する場所。
こういうのって、確かボカージュっていうんだよな。
迷路のようなボカージュでは、メイドさん達が先頭を走り、俺たちを誘導。
緑の世界の中を駆け――――、本邸の通用口へと到着。
「開門!」
本邸通用口の門には番兵がおり、ここではイリーが先頭に立って門を開かせる。
別邸で起こった爆発の影響で、本邸の厳戒態勢は最大級となっており、兵達が各所で目を光らせていた。
「対応はいいが、外にばかり目が向きすぎだ」
と、ゲッコーさん。
警戒すべきは内側ということ。
本邸のメイドさん達がここでコトネさんと合流。混乱が見受けられた。
戦いが起こっている時は、本邸のサキュバスさん達は普段通り仕事に従事していた様子。
コトネさんが訳を話、収拾にあたってくれる。
イリーには騎士団と本邸の兵を指揮してもらい、屋敷の外周と内部の索敵を任せるとゲッコーさんが指示。
よそ者の発言であるけど、驚異の働きを見せたS級兵士たちの指導者という事もあってか、イリーは素直に従う。
その順応性で、メイドさん達とも接してほしいところ。
S級兵士の皆さんも、イリー達に協力するということになり、共に内外の索敵を始める。
これでもし脅威があったとしても安心と言っていい。
皆さんに後を任せつつ、俺たちは更に駆ける。
螺旋階段を上っていき、姫様と話した応接室のある扉を通り過ぎ、真っ直ぐ廊下を走れば、
「止まれ!」
以前の四人からなる砲弾兜が制止を求める。
緊張状態だから、強張った威圧的な声だった。
「説明に無駄な時間を費やしたくない」
言えば、一団から飛び抜けるのはベル。
滑空するような俊足にて、近衛四人との距離を一気につめると、
「すまんが、押し通る」
言うと同時に四人が床に力なく倒れる。
目にも見えない動作は正に一閃。
自慢のフルプレートにバックラー、ラージシールド。防具の活躍はまったくもって皆無だった。
ピクリともしない。本当にごめんなさい。
俺が倒れている四人に心の中で謝罪している最中も、ベルは止まらない。
速度を上げつつ、軽いステップからの跳躍。
白銀の長髪が美しく靡く妖艶な姿に、魅入る俺。
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