PHASE-1335【簡単に倒すね】
「ワンオフの十体長よりも装備が特別なようだから、ミノタウロス同様に幹部ってところか?」
問えば、
「そうだ! クワノスを倒したようだが、俺はそうはいかんぞ!」
「見た目だけで違いがあるとするなら、貴男の方が身長が低いくらいでしょう」
「強さは俺が上だ!」
「先ほども言いましたが、頭の出来だけ同等ですよ」
フライパンを肩に当てながらの発言を耳にすれば、ハイオークの目が鋭いものになり、発言者を睨む。
「生意気なだけの小娘と、この程度の手勢にいいようにされるなんてな!」
「この程度の手勢にいいようにされているということを考慮し、警戒とかするべきなんじゃないですかね」
至極当然なコクリコの返しに、俺とミルモン、パロンズ氏は鷹揚に頷く。
「黙れ! クワノスとここにいた連中が弱すぎただけだ! 俺は違うからな小娘!」
「出会って直ぐにそんな小娘に一撃をもらったのは誰です?」
「挑発が得意なようだな!」
「だと思いますよ。現在、目の前の存在が見事に挑発に乗っているようですから。誰とは言いませんけど」
嘲笑による発言に、ギリリッ! と、歯を軋らせて返すだけのハイオーク。
戦闘も弁舌も絶好調だな。
無双による高揚感が原因なんだろうな。
「本当にふざけた小娘だ! 不愉快だぞ!」
「それは何より。貴男みたいな存在に嫌われるのは、こちらにとって果報」
「手足を切り落として性玩具として弄んでやる!」
「品のないことで。敵とはいえ、他の魔王軍には同情しますよ。魔王軍というだけで、
「か細い体で随分と大口だ!」
「実力と比例していますからね。この程度の手合いなら、アドンとサムソンを使用することもないですね」
怒りに支配されたハイオークがメイスを振り上げる。
豚のような鼻から勢いよく息を吹き出し、口を開いて鋭い犬歯を見せての威嚇。
「コクリコ」
「問題なしです。助力も必要ありません。周囲の連中が邪魔をしないように見張ってくれていれば十分です」
余裕が油断に繋がらないか不安になるけども、俺の不安とは裏腹に、コクリコは迷うことなく疾駆。
そのままハイオークへと向かっていく。
「馬鹿めが!」
「鏡に映る自分に言ってあげてください」
「ふんがぁ!」
怒りのメイスを振り下ろす。
軌道はコクリコの腕を狙ったもの。
頭部を狙って命を奪うということはしないようだ。
発言どおり、四肢を奪って性玩具にしたいというのは実行したいようだな。
命のかかった戦いの中で、怒りに支配されながらも性的な事を考えているってのがな。
本当――、
「馬鹿めが! ってのは、鏡に映る自分に言うべき発言だな」
心配なんて必要なかった。
コイツはミノタウロスよりも遙かに弱い。
それを証明するようにメイスの一撃を華麗に回避し、軽い足取りで跳躍してからの前宙。
振り下ろして前傾姿勢となったハイオークの顔面に、お得意の浴びせ蹴りを打ち込む。
踵の一撃によってハイオークは顔を大きく歪める。
直撃を受けた部分は鼻。
振り下ろす前は勢いよく息を吹き出していたけど、いまは噴水を思わせるように鼻血を噴き出し、鼻部分は埋没。
軽量級の一撃とは思えない威力に、二メートルを超えるハイオークは苦しみ悶え、両手にて顔を覆って次の一撃から守る事に徹する。
得物のメイスを手放して――。
「容易い。容易い」
戦闘で得物を手放す弱者を小馬鹿にしつつ、コクリコが再び跳躍。
頭部へと目がけてフライパンを叩き込めば、もうやめてくれ! とばかりに、顔を覆っていた両手から右腕だけを前面へと伸ばし、敵対者であるコクリコに掌を見せてくる。
登場して口汚い発言をしてからの現在の行動へと変わる速度のなんと早いことか……。
しかも命の駆け引きをする戦いの中でそんな行動をとられてもな。
「やめるわけがないでしょうが!」
振り抜いたフライパンの一撃から地面へと着地すれば、直ぐさま手で覆い隠す顔面へと目がけての――跳び膝蹴り。
顔を守る左手ごと顔を潰してやろうという勢いある跳び膝蹴りにより、二メートル超えの長身が派手に吹き飛ぶ。
「跳躍から着地して直ぐに跳び膝蹴り……。しかも相手を吹っ飛ばすほどの威力」
――コクリコの今の動きに酷似したのを目にしたことがあったので、
「今の跳び膝蹴り――爆魔龍神脚の如し」
ポツリと呟いてしまう。
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!?」
小声の独白であったが、それを聞き逃さなかったコクリコが甲高い声を発する。
恐鳥がいるとするなら、きっとこんな鳴き声なんだろうな。と思わせるその甲高い声に、WAVE2の魔王軍の連中がビクリと体を震わせていた。
で、甲高い声の主が琥珀の瞳を鋭いものにし、俺を射るように見てくれば、
「なんですか! 今の名前はなんですか! 是非とも使用したいです! バクマリュウジンキャクというその名を私にください!」
「いや、駄目なんじゃないかな」
「そんな事を言わず是非に!」
俺にそんな権限はないので却下ですよ。
「それよりもまだ終わってないんだけど」
「え? ああ――」
短く返すと、もういいとばかりにファイヤーボールをバランスボールサイズで顕現させると、仰向けで悶え苦しむハイオークへと放ち――終わらせる。
短く簡単な返事から、簡単に止めを刺す。
コクリコも大概、戦場での命のやり取りになれてきたな……。
これを目の前で見せつけられた増援兵は、こちらに恐怖するように体を硬直させていた。
「凄いですな」
パロンズ氏の強者を容易く打ち倒したことに感心する一言に、コクリコは気をよくする――といういつものリアクションを取ることはなかった。
この程度の下卑た存在を倒したところで、自慢にはならないと返してきた。
普段なら間違いなく自分が強者としての立ち位置で、そこはかとなく成長してきた胸を反らしてくるのだが、それ以上に俺が発した爆魔龍神脚という技名が琴線に触れまくっており、詰め寄って使用許可を求めてくる。
この技名が大層、気に入ったようだな。
まあ、使用させないけど。
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