PHASE-1334【WAVE2】
「必死になると視野が狭くなるんだね~」
ミルモンは呆れ口調で眼前の光景を眺めていた。
「そんじゃまあ」
いい加減コクリコにばかり執着してほしくないので、
「バックアタックだゴロ丸」
「キュ!」
敵陣深くで大暴れするミスリルゴーレムが俺の声に踵を返せば、俺の方へと向かって走ってくる。
三メートルを超えるミスリルの塊が走る。
ただ走るだけで相手は倒されていく。
コクリコ一人に熱心になっていた連中のところまで到達すれば、攻撃を中断してたまらず散開。
「その隙を私が見逃すとでも?」
回避から反撃へと移行したコクリコがサーバントストーンと共に攻撃。
これにより更に散り散りとなる軍勢。
「その隙を俺が見逃すとでも?」
コクリコの発言を真似つつ斬獲していく。
パロンズ氏も俺に続き、手斧を振るっていく。
三人と一体により相手は阿鼻叫喚。
戦いには参加していないけども、俺の左肩でミルモンが負の感情が蔓延するこの一帯の環境が最高すぎると、テンションが高くなり哄笑。
俺から見れば可愛い大笑いだけども、恐怖に縛られた相手からしたら、小悪魔の哄笑は心胆寒からしめるものだったようだ。
――突入してからこの一帯の軍勢をどうやって俺達にだけ向かわせるかと考えていたけども、存外、楽かもしれない。
まあ、一帯のってのに限定されるけども。
ここまで騒いでも未だにヤヤラッタに動きがないからな。
――。
「他愛なし!」
と、程なくすればコクリコが得意げに胸を張って発する。
足元には倒れるオークとカクエン。
息のある者もいるけども、殆どが俺達によって命を奪われる事になった。
「やるもやったりですな」
「確かに」
「コクリコ殿の強さは本物のようで」
「確かに」
この一帯の軍勢は、コクリコとゴロ丸が殆ど仕留めた。
戦いを終えたゴロ丸は地面の中へと戻っていき、いつもみたいに沈んでいく中でサムズアップを見せてくれる。
で、大活躍した残りの一人は、自分の強さに酔いしれているのか、自らを抱きしめて体をクネクネと動かし、なんとも気持ちよさそうだった。
ここまでコクリコが無双するのも初めて見る。
よもやこんなにも大活躍するとは俺も驚きだ。
これならシャルナ達も安心して破壊工作の下準備が出来るってもんだな。
改めてコクリコの成長には目を見張る物がある。
リンの装身具とサーバントストーンのバケモノ性能をちゃんと引き出せるだけの訓練を行ってきたからな。
個人技に加えて、バケモノアイテムのコンボも強力だった。
古の英雄が作り出した装身具と、エルフ氏族筆頭が有する家宝は伊達じゃない。
己の強さに酔いしれるコクリコを眺めている俺の横では、
「これだけの軍勢を我々だけで……」
と、些か惚けているパロンズ氏。
「お見事でした」
称賛を送れば、
「ああいえ、お二人に比べれば自分などん゛!?」
見舞われるコクリコの蹴り。
今まで高笑いで自分の強さに酔いしれていたのに、瞬間移動とばかりにパロンズ氏の背後に回って蹴りを見舞っていた。
で――、
「誇るところでは誇りなさい。謙虚も度が過ぎれば嫌味なだけです」
「は、はい! 自分は今回とても励みました!」
「それでいいのです」
自信過剰は駄目だけど、活躍に相応しいだけの自信は表面に出すべきだからな。
膂力が無いから自衛程度しか出来ないと言っていた接近戦も問題なかった。
大半がカクエンの相手だったけども、それでも多勢に対して接近戦を仕掛けるだけの胆力があるのだから実力は本物だ。
パロンズ氏は冒険者として十分に活躍できる力を持っている。
装備制作の実績で
野良冒険者に辛辣な事を言われたんだろうけど、今なら見返すことだって出来る事だろう。
今後パロンズ氏がそいつ等と会うかどうかは分からんけどな。
それにパロンズ氏の性格だからな。再会する事があったとしても、ドヤって見返すなんてお寒いことはしないだろう。
「ただし、強者という勘違いだけはしないように。貴男はまだまだ弱いのですからね。先ほどのような勘違い発言をすれば、今の蹴り程度では済みませんからね」
アドンとサムソンをパロンズ氏の周囲に漂わせながらの警告に、パロンズ氏は素直に返事をし、さっきの勘違い発言を猛反していた。
強くなったことを自負しても過信になれば駄目だからな。
生真面目な人物だから、キツく言っておけば戒めとなるだろう。
――……こういうのは俺が言わないといけないのにな。
ほんと、口べたな俺氏……。
挑発とかする時はスラスラと言葉も出るのにな~。
――。
「さて、次に備えようか」
束の間の小休止となるだろう時間を活用してポーションを呷る。
飲みきって「ふぃ~」と安堵の息を漏らしているところで、
「なんなんだこの有様は!」
一息いれることが出来たところで、増援の中でメイスを手にした先頭の存在が怒号による一言。
「WAVE2だ」
「重畳、重畳。というか現着が遅いくらいでしょう」
飲んだ小瓶を地面へと投げつけて叩き割るのを合図として、本日、絶好調なコクリコは俺達と足並みを揃えようとは考える事もなく、単独で突撃を敢行。
「この俺に一人でツッコんでくるとは大した小娘だ。捕らえて調教してやろう」
「ミノタウロスより小柄ですけど、頭の中身はさほど違いがないようですね」
「なに!」
「周囲の者達と装備が違うようなので、矮小な頭のミノタウロス同様、首級と考えていいようですね」
「このハイオークであるティレネド様に生意気なん!?」
「隙だらけでしたから」
ハイオークの名乗りなんてどうでもいいとばかりに、ミスリルフライパンを頭頂部に打ち込めば、ミスリル特有の小気味のいい音が響く。
面頬のない兜に守られていたハイオークの表情はよく見えた。
衝撃に顔を歪めつつ地面に倒れる中、
「おのれ!」
「おお! 今のを受けても動けますか」
倒れた状態で得物のメイスで足払いを狙ってくれば、コクリコはそれを躱して距離を取る。
兜越しとはいえ、あの一撃を受けながら即反撃できるところからして、打たれ強いヤツのようだ。
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