PHASE-429【遺憾だがコクリコのおかげ】
「あんたねぇ!」
「これもお前の為だ」
どこの世界に目の前で敵を脅して、勇者にけしかけてくる仲間がいるのかな?
俺が知る限りでは、目の前の一人だけだよ。
「ほら、トールに勝てるなら、ここから逃がしてやる」
「なめるな!」
「じゃあ、俺と戦うかい?」
「………………」
――……おいゼノ。なんでそこで沈黙なんだ。
ビビってんじゃねえよ!
チートキャラめ! 強敵すらも黙らせる。
本来のチート持ちはそのまま自分で倒して。強い。素敵。抱いて。ってな感じで、女の子に言い寄られる美味しいポジションなのに、それを活用しないとか!
「おらこいや! 言った通り、アンデッドの終局だ」
俺としては、ゲッコーさんがゼノを終わらせると思っていたんだけども。結果、俺が頑張って、ゼノの人生に幕を閉じる方向になった。
チート持ちのこの無用な愛の鞭。ありがたく受け取りますよ。
勇者だからな。
「皆さんさがってください。さっきも言いましたが、あいつの言う事なんて今後は聞き入れなくていいですから。あいつに今後は無いし。俺がここで倒すんで。倒して皆さんを自由にします」
「「「「勇者様」」」」
なんて素敵な黄色い声。
よし! やる気が出てきた。
美人メイドのサキュバスさん達に、期待の目を向けられているこの状態。勝てば俺は、期待から尊敬の眼差しを向けられるようになるだろう。
で、尊敬から愛情に発展。
俺、サキュバスさん達と異世界ハーレムを堪能する。
「事後、罰は受けます」
「う、うん……」
ようやくランシェルちゃん――もとい、ランシェルが俺に語りかけてきた。
目は合わせないけども。
インキュバスは……、男の夢魔。
――――良い友達にはなれるだろう!
「ふざけるなよ! 勇者の発言などで寝返りとはな。事が済み次第、貴様らには絶望を刻みつけてやる」
「無理だね! 俺がお前を倒すから」
「うるさい小僧だ! フロックエフェクト!」
ちょっと距離が開けば魔法は当然のように使用するよな。
増殖魔法の使用と同時に、影達も動き出す。
「そいつらは俺がやってやる」
ゲッコーさんが取り出したるは、火龍の時にも現れた影たちに使用したXM25 IAWS。
パシュンパシュンと小気味の良い音とともに曳火射撃。
空中炸裂する事で、影達が大きく欠損していく。
「良いところは譲りますよ」
「露払いはお任せを」
ゲッコーさんの殺気にあてられたコクリコは、俺が倒すという事になっているからか、邪魔すると後でゲッコーさんに怒られると察したのか、自らの功績を捨て去って、俺のフォローに徹するようだ。
イリーもコクリコ動揺に、ゼノの壁になっている影達に向かって滑空移動。
これで憂いはないと判断した俺は、ゼノへと真っ直ぐに突き包む。
ラピッドにおける高速移動は一気に距離をつめるが、ゼノの方が一つ早い。
「ライトニングボア」
ゼノの両腕が青く光る雷を纏う。
勢いよく俺へと両腕を突き出すと、腕が延長したかのように、蛇行する雷が俺へと迫る。
途中で雷は枝分かれし、一本が二本。計四本の雷の
「オラ! …………」
威力は目にしただけで、絶大だというのが分かるが、俺は防御をせずにそのまま突き進む。
防御から攻撃に転じるわずかな時間も作りたくなかったからだ。
更にラピッドとインクリーズ、タフネスを解除。
普段はありがたい初歩ピリアだが、賭にも近い行為を実行するためには、少しでも集中力を阻害されたくなかった。
平凡な実力しかない俺が至った、最善の一手。
裂帛の気迫と共に、正面から迫る雷の蟒蛇に向かって一太刀、二太刀と、炎を纏う残火で斬っていく。
雷の蟒蛇は、まるで生命を宿していたかのように、斬られれば、キュイーンというような断末魔にも似た音と共に消滅。
気迫に続く誰にも聞き取れなかった小声の部分を信じて、残りの二本に対しては、俺はノーガードを選択。
「愚かな! 先ほど以上の移動速度だが、馬鹿にも拍車がかかったようだな」
「馬鹿だから勇者やってんだよ!」
誰が好きこのんでどん底の世界で活動するよ!
馬鹿だから活動してんだよ!
バリバリと鼓膜に衝撃が走る。残りの蟒蛇が俺に直撃。
腕に噛みつき、巻き付いてくる。
全身に電流が走るが、有りがたいことに、火龍の鎧の加護によってダメージと呼ばれる物はない。
若干のシビれと痛みに襲われて、現状、顔は引きつっているだろうが、俺の進撃を止めるほどではない。
「馬鹿な!? 上級魔法なんだぞ! しかもフロックエフェクトで数を増やしているのに、なぜ迫ってこられる」
「お前のおかげ!」
あと、コクリコのおかげでもある。
巻き付いてくる二本の雷も切り払う。
三つのピリアは解除しているが、雷の攻撃を受けても平気なのは、火龍の鎧そのものの耐久性もあるだろうが、ピリアを発動することで、不可視の加護も発動しているって事だ。
ぶっつけ本番の大博打だったが、成功したようだな。
「はぁぁぁぁ!」
残火を上段より振れば、ゼノの左腕が飛んで燃える。
「こんな小僧にぃ!」
怒りを吐き出しつつ、残った右手で
即座に、ゴロ太が作ってくれたソードブレイカーを左手で引き抜き、逆手の状態からU字の鍔と刃でからめ取る。
現在、あり得ないほどの膂力が漲る俺にとって、血液の剣身をたたき折る事は造作もなかった。
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