PHASE-198【俺のターン。秘策発動!】

 現在、応接室には幹部の面々が揃ってるってのに、皆して動向を窺うだけ。

 

 そう、俺とベルの弁舌に注視するだけだ。

 

 ベルの隣では、コクリコとシャルナが俺を睨み。

 俺の横では、ゲッコーさんと先生が静かに座り、ワックさんは相対する俺たちの間にあるソファーで忙しなく首を左右に動かしている。

 

 鉄拳制裁はまじ勘弁なので、どうにか弁舌で繋げている。

 秘策発動のタイミングを見極めながら――――。 


「私は絶対に反対だ」


「だから! 女性にお酒を注がせるだけじゃん!」


「酔った勢いで、男が暴挙に出たらどうする。力任せで迫られれば、女性はなにも出来ないぞ!」


「そこはお店のバウンサーが止めるわけだよ」


「お店を開業しなければ、そんな問題はそもそも発生しない」

 ええい! なんと偏屈なお堅い女だ。

 そんなんだから彼氏の一人もいないんだ。

 いないほうが俺は嬉しいけども。


「女性専用のお店も考えているから」


「男に囲まれて何がいい!」

 いや、ホストにお金を支払って、いい夢見ている方々に謝ってもらいたい発言だね。


「別に男に囲まれてってわけじゃないけどな」


「どういうことだ? 女性に接客をさせるのか? 女性を相手に?」

 そういう特殊なのもありますけども。

 男装の麗人が女性を接客する店もあるけども。


 ――――会話も進めばお茶も進む。

 テーブルに置かれるベルのティーカップ。

 ソーサーに置かずに立てる音は、先ほど以上。やはり俺に対しての威圧行為だろう。

 だが中身は空である。

 なので、中身がテーブルに飛ぶことはない。そこら辺はちゃんと考慮しているようだ。


「ん? 何を考えている?」

 不敵な俺の笑みに何かを察したようだな。

 ここで我が秘策をお披露目しよう。

 

 ――パンパンと手を打って、


「ベル嬢のカップが空になっている。お代わりを頼むよ」

 と、言う俺。


「かしこまりました~」

 ドア向こうから聞こえてくる渋い声。


「ん? この声は、ゴロ太!」

 昨日のようにドアノブを掴んだまま開く仕草は愛らしい。


「ああ……」

 艶の混じった声を漏らすベル。

 それを耳朶にすれば、俺は口端をつり上げる。


 でもって、【勝ったぞ!】と、心で叫ぶのだ。


 ドアを開ききれば、ゴロ太は着地。


「なんなのだゴロ太、その恰好は!?」

 ソファーを倒しそうな勢いで立つ乙女モードのベル。


 ゴロ太の服装は、俺が至急こしらえさせた執事服だ。

 黒いスーツに赤い蝶ネクタイ。茶色の革靴。

 乗りに乗って、モノクルまで作ってくれている。モノクルの縁には彫金が施されるという、意匠を凝らした一品。

 ドワーフの職人は、武具だけでなく、仕立ての技巧も素晴らしい。


「ようこそいらっしゃいました、お嬢様方。ボク――じゃなかった、わたくしが本日お嬢様方を――――え~っと――」

 ポケットから俺が書いてあげたメモ用紙を取り出してから、


「お世話させていただきます。執事のゴロ太です。お時間の間、心ゆくまでおくつろぎいただき、日頃の疲れを癒やしてください。わたくし、少しでもその為の協力が出来れば幸いでございます」

 ぺこりと、二頭身が典雅な挨拶をし、


「んしょ」

 と、開かれたドアから、紅茶の入ったポットとお菓子の乗ったワゴンを一生懸命に押してくる。


「ああ、あんなに懸命になって、怪我でもしたらどうする」


「黙って見ているのだ。ベルよ」

 心配になりながらも、俺の発言どおり、ベルはゴロ太の動向を窺う。

 ゴロ太はベルの前でワゴンを止めて、ワゴンの下段で運んでいた階段タイプの踏み台を使い、上段のポットを手にすれば、ベルの前に置かれた空のカップに紅茶を注ぎ、


「レーズン入りのスコーンをどうぞ、紅茶とあいますよ、お嬢様」


「お、お、お嬢様!?」

 可愛い仕草と、お嬢様発言でベルが舞い上がっている。


 ゴロ太が俺に視線を送ってくるので、俺はコクリと頷く。

 それを合図として、


「本日は、わたくしで存分に癒やされてください。お嬢様が癒やされれば幸いですが」

 愛らしさを前面に出させるように、首を傾けての発言。

 Marvelous! 俺の指示通りである。


「癒やされるとも! 最高だ!」

 こんなに興奮するベルを見ると、クールビューティーな帝国中佐からかけ離れてしまって残念でもあるが……。

 

 まあ、いいとしよう。

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