PHASE-963【クマ好きなのか?】
「アンデッドの合成獣まで創りだしたカイメラの目的ってなんでしょうね?」
軍団を作りたかったのは羊皮紙からも分かるが、その軍団で何がしたかったのやら。
生者を恨む存在を使役するなんて容易いことじゃない。実験を行うこと自体リスクが大きすぎる。
現にバイオハザードが起きてるし。
リンが言うように、ネクロマンシーも使用できない連中がアンデッドを操るのは土台無理なんだよな。
「それは俺達の横に立つ美人さんの扱うアンデッドの利点を思い出せばいいかもな」
ゲッコーさんの飾らない美人さん発言に気をよくしたのか、蠱惑な笑みから素直な笑みに変わるリン。
やはり美人とストレートに言われるのは悪い気はしないようだ。
恥ずかしがらずにサラッと言える耐性を俺も培っていかないといけないね。
などといった考えを巡らせるのではなく、利点だったな。
リンが使役するアンデッドの利点は王都の方でも大活躍しているから分かる。
ここの連中もそれを第一に考えたからアンデッドの合成獣にこだわったんだろう。
労働力として働かせれば疲れることなく働き、食事も睡眠も必要としない。
命令さえ出せば二十四時間、文句も言わずに働き続けるのは非常に魅力的だ。
戦いとなれば兵糧いらず。暗闇も見通せるから夜襲を仕掛けたり、迎撃も出来る。
アンデッドの固有スキルである精神耐性により、強大な敵に対しても恐れることなく立ち向かえるというのも強味。
臆することなく最前線へと突撃できるという事は、その後に続く者たちにとって戦意高揚に繋がるのもありがたい。
戦闘、労働と共に優秀。見た目に恐怖さえしなければこれほど頼りになる存在もいないだろうからな。
実験を成功させて自分たちの為の軍団を作りたかった。といったシンプルな答えが正解かな。
合成獣を生み出し、次にはアンデッドの合成獣の研究に傾倒していたカイメラ。
「コイツ等は魔王軍同様に警戒しないといけないし、全国に手配書を出さないと。というか魔王軍との繋がりもあるかもしれませんよ」
魔大陸で初めて遭遇したマンティコアのチコ。
ランシェルはこちらの大陸から連れてきたと言っていたが、今回の事で創造した者たちの組織名を知ることが出来た。
魔王軍とカイメラに繋がりがあったからこそ、魔大陸へとマンティコアが運ばれたという可能性が生まれる。
狂気の組織と魔王軍が結託とか考えるのも嫌になる大問題だ。
「外での実験時、魔王軍によって偶発的に捕獲されたと俺は考えている」
俺なんかより遙かに知力の高いゲッコーさんがそう言ってくれれば、俺の不安も軽減される。
繋がりからの譲渡より、捕獲されたという方が手を組んでない分ましだからな。
「そう思う根拠は?」
でも完全に不安が払拭されない俺は、質問してしまう。
「この場所に施設があるのが答えだ」
魔王軍と繋がりがあるなら、魔王軍の支配下にある土地や魔大陸なんかで研究をした方が効率がいい。
魔王軍の軍勢を頼れば、自分たちが欲する生物を捕獲するのだって簡単になる。
だが現実は人目を憚って隠れて行っている。
よって繋がっている可能性は低い。
聞かされて納得。
「繋がりがないだけでも助かりますよ。しかし――」
新たに手に入れた厚みのある羊皮紙の束を見ていて気になる事がある。
「なぜ熊にこだわっているか――だよな」
「はい。この束にはウェアベアモドキ――コイツ等が言うところの人工ウェアベアの研究にどれだけご熱心だったのかが分かります」
「亜人やモンスターではなく、動物の熊と人間を合成してからアンデッド化。人間の知性を与えたかったのかもしれんが、結果が結果だからな。何がしたいのか分からんな」
「分からないのはいい事でしょう。こんな事をする連中と感性が似てるとか嫌ですからね」
「まあな」
――亜人やモンスターとなれば捕獲するのが難しいから動物や人間って事も考えられるけども、ギガースワーム・エクソアーマーの合成に使用したヤスデとワームは捕獲するだけの力はもってんだよな。
ゴブリンだってそうだ。いくら弱いといっても、あれだけの規模を捕獲するのは実力がないと出来ないことだ。
つまりカイメラにとって、モンスターや亜人を捕獲するのは別段、難しいってわけじゃないということ。
この小部屋で手に入った羊皮紙の内容から伝わってくるのは、合成獣アンデッドの軍団と熊に対する熱心さだ。
他の合成獣と違って、ウェアベアモドキの資料の厚さは一線を画すものだった。
「ベルがこれを見たらどう思うことか……」
「まったくだ」
二人して苦笑い。つられてリンも苦笑い。
大気を震わす怒りを発するのは間違いない。
あの馬鹿が白い子グマ――つまりはゴロ太を渡せと言ってきた時のベルの怒りに、屈強な精神に立ち戻った王侯貴族から悲鳴が上がったからな……。
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