PHASE-962【制御が出来ないうちはやるな】
吹き飛ばしたウェアベアモドキが壁に衝突。
素早く立ち上がってこちらに向かって咆哮。
俺の蹴りが顔面に入った時に顎がはずれたようで、だらんと下顎をたらしてからの咆哮。
生者の抵抗がどうしても気に入らないようで、下顎がはずれたまま俺へと迫ってくる。
連撃がきれいに決まった事に俺も高揚したせいか、強気に正面から攻める。
毒ブレスが通用しない以上、俺に対しての攻撃はショートソードサイズからなる強靱な十本の爪。
膂力ある振り下ろしの連続だが、軌道はしっかりと目で追える。
防御ではなく回避しつつ炎を纏う残火で斬る。
胴体部にダメージを与えつつ十の爪を掻い潜り、二足で立つ後ろ足に一太刀を入れ、飛び込み前転を一つ行って背後に回る。
後ろ足に刃は深く入ったが、回避しながらの斬撃では両断には至らなかった。
中腰の状態にて、
「マスリリース!」
断つことが出来なかった後ろ足に向けて燐光を放つ黄色い刃を飛ばすが、素早い反転から爪によって防がれる。
頑丈な爪だな。後ろ足だって深く斬ってんのに反応速度は大したもの。
毒は問題ない。頑丈な爪だけが脅威と判断。
――やってみるか。
イグニースを顕現させて、集束させながら駆ける。
吹き飛ばされた攻撃には警戒するようで、十本の爪を交差させてガードの姿勢となるウェアベアモドキ。
「むしろ有り難い」
振り回して動きが生じるよりも、ガードで固定してくれる方が狙いやすい。
「おらっ!」
アクセルで正面へと瞬間移動し、裂帛の気迫を発しつつ集束させた烈火を叩き込む。
強とはいかないが弱でもない。中烈火ってところ。
爪に触れれば爆発が生じる。
ギシギシと爪から軋み音が発生し、打ち込んだ左手を引くと同時に残火の柄を絞るように握り、両手持ちによる上段の構えから足を一歩強く踏み込み、同時に一気に振り下ろす。
ギャリギャリギャリ――――!!
耳に不快感を与える劈き音と共に、十の爪を断つことに成功。
「よっしゃ!」
「ヴォ!?」
俺の歓喜と、断たれた側の驚きの声が重なる。
中烈火の爆発と衝撃から間髪入れずに残火による渾身の一振り。強靱な魔法付与が施された爪を断ち切ってやった。
「ありがとな。お前のお陰でバリエーションが増えた」
礼を述べたところで、
「ヴォオオオオ!!」
意思疎通は出来ずじまい。
断ち切られて短くなった爪を振り上げる中で、
「お礼に、不幸な運命から救い出してやる」
と返し、軽い跳躍から残火で横一文字書き、纏った炎が軌跡を残せば、ゴトリと音を立てて床に転がる頭部。
振り上げた腕を俺に振り下ろすことが出来ないまま、三メートルほどある熊の体は大きな音を立てて床へと倒れた。
「弔いになればいいけどな」
両手を合わせる俺に、
「ですね」
背後からコクリコが応えてくれる。
俺が両手を合わせる余裕があるのも、脅威がすでにないから。
コクリコとそのフォローをしてくれたシャルナ、オムニガル、アビゲイルさんの活躍でゴブリンゾンビ達も供養できた。
――…………チート三人、見てるだけ!!! 大事な事だから心で三回目を叫ぶ。
「で、強かったですか?」
「いや、今までの相手に比べると――な」
プレイギアでウェアベアモドキの亡骸を調べれば――、
「レベルは38か」
これだけ大仰な研究施設を建設して創りだしたんだろうが、レッドキャップスの一般兵の平均より下なんだろうな。
今まで相対してきた連中と比べるとどうしても見劣りする。それだけ魔王軍が脅威って事なんだろうけど。
この施設の制圧は困難と呼べるものではなかった。
とはいえ、ここの連中が万が一にも施設から出て、都市内で暴れていたら大問題だった。
都市の中にいきなりアンデッドが現れて人々を襲っていたら、ゾンビ化の危険性もあったからな。
「トール」
ガラスの向こう側である小部屋からゲッコーさんに呼ばれる。
「ここでも何か見つけましたか?」
「ほら、追加の羊皮紙だ」
これまた分厚い。
「――――なるほど……。ベルセルクルのキノコの栽培もここの連中がやっていたようですね。ご丁寧に栽培場所まで載ってます」
何よりも――、
「コイツ等……バイオハザードをやらかしてますけど、合成実験の後半はアンデッドに固執しているようですね」
最初はマンティコアなどの生物による合成獣の事が記載されていたが、後半は合成からのアンデッド化とその有用性について実験を進めていた事が書かれていた。
「ああ。で、こういった実験の典型的な結果へと進んだわけだ」
「自分たちの思うように操れなかったわけですね……」
羊皮紙の内容を目にすれば呆れてしまう……。
ウェアベアモドキやスケイルマンなどの合成アンデッドに指示を出し、ゴブリンゾンビを使役させ、アンデッドからなる合成獣軍団を編制したかったようだ。
しかし、中核をなすはずのウェアベアモドキとスケイルマンがまったく命令を聞き入れなかった。
命令は聞き入れないが、下位のゴブリンゾンビは使役できるという最悪の状態となり、カイメラの連中は着の身着のままで撤収。
「本当に狂った連中だし、迷惑な連中だよ」
「狂っているから迷惑なの。そもそもネクロマンシーも満足に扱えない連中が踏み入ってはいけない領域なのよ」
蠱惑な笑みを湛えつつ、俺達の会話を耳にしていたリンは、カイメラの馬鹿さ加減を口にする。
ネクロマンサーであり、大多数のアンデッドを使役するアルトラリッチのリンの発言には説得力しかない。
生者に強い怨嗟を抱き、同族に変えようとするアンデッドを実力もない者たちが使役できると思い込む。
思い込んでいた組織の名は――カイメラ。
その連中の顔を未だ知るには至っていないが、馬鹿の二文字で簡潔に表現できる連中だとゲッコーさんも毒づく。
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