PHASE-829【俺の射程のびる(銃などは除く)】

 両手を合わせて命を奪われた者達を拝みつつ、


「なに今の?」

 問えば、


「マスリリースという中位ピリアだ」


「攻撃型のピリアってこと」


「そうだ」

 淡々とスケルトンルインが返してくる。

 中位となると俺も頑張れば使用出来そうだな。

 禁忌にしてるけど上位であるブーステッドだって使用出来るわけだからな。

 俺、遠距離攻撃となると普段携帯している銃に頼らないといけないからな。まあ、ほぼ使うことはないんだけども。

 残火と銃を持ち替えないで遠距離攻撃が出来るのは、戦いにおいて無駄なモーションが省けるということ。

 これは重要だよな。


「――教えてくれたりする?」

 言って直ぐに罪悪感も芽生える。

 ここにベルやゲッコーさんがいれば、自分の力で開花させろって言われそうだからな。

 ピリアは自分の努力で習得したのが多いし。

 でも直ぐに覚えたいという欲もある。

 ここは戦いの場だからな。習得に要する時間が勿体ない。

 ここで簡単に教われば後で怒られるのは確実だけども、要塞で迷子になって単独行動をしてしまい、あげくに迎えまでよこされる時点で怒られるのは確定しているからな。

 怒られる内容が一つから二つになるだけだ。


「かまわんが」

 二つ返事で助かった。


「しかし、アンデッドから教わるのはいいのか?」


「いいんじゃないの。お宅等の主であるリンだってアンデッドだけど大切な仲間だし。お宅等とはリンが召喚しない限りは会えないけども、仲間でしょ」


「ハハハ――おもしろい。アンデッドを抵抗なく仲間と言えるとは流石は勇者だな」

 笑うとカタカタと音がする。

 上顎と下顎がぶつかってその音を奏でる辺り、スケルトンだよな。


「頭をこちらへ」

 カイルの時みたいだな。

 あの時はコクリコに騙されてボコボコにされた嫌な思いでもあるが、基本、大魔法が使用出来たり、新たに習得するピリアよりも上のランクのを覚えていれば、インスタントで覚えられるらしいからな。

 ベルとゲッコーさんには悪いけど、ここは即戦力となるピリアを優先させてもらう。

 

 頭に触れるのは骨の手――ではなく、ガントレット。

 金属と革の手袋からなる感触だった。


「――終わったぞ」


「ありがとう」

 本当にお手軽だ。

 試しにとばかりに抜刀し、残火に力を纏わせるイメージをするだけで、


「おお!?」

 刀身に光が宿る。


「あれ? 色が違うね」

 スケルトンルインの赤黒いものじゃなくて、明るい黄色。刀身の周囲には同色の燐光も生じて幻想的。


「使用者によって色は変わる」


「へ~」

 出来れば赤黒いのが良かったな。

 強うそうだし、尚且つ俺の装備も赤と黒のスタンダールカラーだからそこは合わせたかった。

 まあまずは習得できたことを喜ばないとな。

 やおら瞳を閉じ――、

 よっしゃ! と、心で裂帛の気迫を発してからの、


「マスリリース!」

 裂帛の気迫をピリア名として口から発し、上段から残火を振り下ろせば、三日月状の黄色い刃が飛んでいく。


「「「「おお!」」」」

 感嘆の声がルインとエルダー達から上がる。


「すげー……」

 反面、俺は驚きすぎて興奮を通り超えて、気の抜けた声を漏らしてしまった。

 初めてのマスリリースは、要塞の壁に放った一振り。

 壁には刀身サイズの切れ目が出来上がる。

 近くで見れば切り口は浅くはあるけども、石材からなる壁にこれだけの切れ目を入れることが出来たんだから及第点だろう。

 

 これを相対する者に使用したと想像すれば――。

 相手の体を真っ二つにするイメージしか湧かなかった……。

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