PHASE-830【Me, me, me. Me too.】
「大したものだな」
「でもまあ、やっぱり残火自体の切れ味に比べると劣るね」
「それは勇者殿がまだこのピリアに慣れていないからだ。慣れれば刀剣が有する元々の切れ味にまで達する。現状でも我のマスリリースよりも上だな」
なるほど。
慣れれば切れ味はそのままか。単純に残火の刀身がメチャクチャ伸びるって感じだな。
戦いは有利になるけども、相手の命を簡単に奪える技でもあるから使用が難しいのが問題か。
容赦なく使用しないといけない時は使用するって覚悟で振るうピリアでもある。
「さあ、新たなるピリアも習得したことであるし、急ぎ主の元へ――」
「了解」
道中にて出くわす大半の傭兵団は、アンデッドの騎士達を目にして戦いを選択というのは殆どおらず逃走。おかげで移動はスムーズだった。
そんな中でも挑む者達も一応はいた。
気骨があるというよりは、キノコでハイになり蛮勇を選択した者達だ。
結果はアンデッド騎士達の斬獲によって、むごたらしい死を迎えることになる。
俺はその度に両手を合わせていた。
――…………。
「ふぅ……」
何なのこの光景……。
「終末の日かよ」
「来たわね」
「来たよリン……。何これ」
「何これって、私の軍勢が戦っているのよ」
戦い……ね……。
虐殺の間違いではないのだろうかと問いたい。
俺が到着したのは、見た感じだと要塞内に設けた兵達の練兵所だろう。
広い石材床からなる空間。
壁に反響するのは不気味なうめき声と悲鳴ばかり……。
リンの周囲には、俺を先導してくれたスケルトンルインと同じ存在が数体と、エルダースケルトンが十数体。
この兵力だけでも傭兵団にとっては絶望的なんだが、この面子は一切動く事なく、リンの護衛に徹していた。
それでも練兵場の戦いは圧倒している。
といってもリンが動いているわけではない。
うめき声と悲鳴に混ざって、ひときわ耳朶に届くのは――、
「ヴァァァァァァァア!!」
といった咆哮。
胆力のない者が耳にすれば、それだけでバインドボイスに早変わり。
恐れて動けなくなったところに、咆哮の主が手にして振り下ろすのは、刃幅が広く短い刀身の片刃からなる刀剣――つまりはファルシオン。
斬られた傭兵団の一人は声を出すことも出来ずに袈裟斬りにより絶命。
上半身に深く入った刃を引き抜くために、事切れた死体を振り回し床に投げつける膂力。
それだけの力があるのなら、上半身を容易く断ち切る事も出来ただろうが、それをしないのは――、
「……ウ……ウァァァァァ……ァァア」
とまあ、死体がうめき声を上げながらゆっくりと立ち上がる光景。
上半身だけにするよりも、しっかりと体が繋がっていた方が眷属として便利という考えなんだろうな……。
「ディザスターナイトかよ……」
「そうよ」
と、当たり前のように返してくるリン。
眼窩に緑光を灯し、赤紫色の毒々しいフルプレートを装備した二メートルほどの身長を有したアンデッド。
烏帽子のような兜までを含めれば、更に大きく見える。
右手にはファルシオン。左手にはスパイク突きのタワーシールド。
スパイク部分を見れば血が付着している……。
シールドでの攻撃を見舞われて命を失ったの者もいるって事だな。
「ひぃぃぃぃ! いやだぁぁぁぁぁぁぁ!」
ホラー映画だな……。
ディザスターナイトによって命を奪われた者達はゾンビ兵となる。
ゾンビ兵の強さは生前の頃のものが良くも悪くも反映されない。
傭兵団のような能力が低い連中であったとしても、ゾンビ兵となれば並の兵士が数人がかりで対応しないといけないくらいの強さになる。
なので自己満足で完結しているような連中で大半を占めている傭兵団からしたら、ゾンビ兵は驚異の存在でしかない。
ゾンビだから噛みつきなんかを想像するけど、兵がつくだけあって相手を倒す時は手にした利器を使用する。
手に持たない場合は武器になるような物を探して手にするといった感じだ。
――――無惨にもゾンビ兵に殺害されていく傭兵団。
いや、まだいいのかな……。死者として眠ることが出来るんだから。
むしろ逃げようとしている者達の末路が無惨だ……。
逃げようとすれば、巨体に似合わず素早いディザスターナイトによって退路を断たれて命を奪われる。
で、死者として永眠することも許されず、新たなるゾンビ兵となって先ほどまで隣にいた仲間に襲いかかる。
これはえげつないな……。
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