PHASE-1510【近縁らしい】
「初対面を望むのならば、そんなにも肩肘張らずに素の状態でいてもらいたいものだ」
「この地での経験上、それは無理なんで」
「確かに」
この余裕。繊細な性格でありつつも、自分にかなりの自信を持っているタイプだな。
ラズヴァートの見せる余裕の表情も証拠の一つになる。
「まるで自分が解放されると思っているようだな」
「当然だろう」
この声の存在はそれだけ信頼できるって事ね。
声からしてクロウスとは違う。大立者からは除外していいから――、
「クロウスの下位――幹部か」
「誰が下だぁ!」
ゆとりある語りが嘘のように怒号に変わった。
「なんだよ。クロウスより上だってのか」
「当然だ!」
ラズヴァートを瞥見すれば、作り笑いを顔に貼り付けていた。
なんとも言いにくいって感じだな。
そこから判断できるのは、強くはあるがクロウスほどじゃないということだろうね。
思ったことをそのまま口に出せば、声の主のエンレージがMAXになるだろうから、今のところは喉元までに留めておく。
「クロウスよりも強いと言うのなら、強者として堂々と姿を見せるべきだよね」
「生意気な口だ。拘束された同胞もここまでの道中、口汚さにさぞ気分を悪くしたことだろうな」
「まったくですよ」
敬語か。やっぱり相手はストームトルーパーよりも上のヤツって事だな。
「ではご対面といこう」
「!?」
声の反響音が変わった。
天井の高い部屋。そして聞こえてくるのはその天井方向。
見上げる次には大きな影が俺達の前へと降り立つ。
大きさに見合わない静かな着地は、やはり羽を有しているからだろうね。
「巨人か。巨人であり翼人――ではなく羽人とでも例えるべきか」
ルインリーダーが相対する者の風貌から感想を述べる。
鳥のような翼ではなく、コウモリのような羽だから羽人って呼称したんだろう。
「見たことのない種族だな」
この要塞に来てからは見たことのない種族ばかりだけど。
リンと共に行動するスケルトン達の知識にも引っかからないということだからレア系かな。
「初めましてだな勇者。本当にアンデッドと行動しているとはな。中々におもしろい精神の持ち主のようだ」
「そいつはどうも」
「皮肉で言ってるんだよ」
「語調から十分に伝わってるよ」
ざっと見て四メートルサイズか。
キュクロプス三兄弟。オーガにトロール。グレーターデーモンのヤヤラッタにミノタウロス。
デカいのはさんざんに目にして接してきたから、大きさで驚かされるってのはなくなったな。
――舞い降り、俺達の前に立つ存在の総身を見渡す。
錆色の蓬髪。
額の左右からは後頭部に向かって伸びる歪曲した二本の太い角。
形状からしてオーガとはまた別物だろう。
顔もオーガなんかと違い、俺たちのような人間に酷似していて、肌は白い。
コウモリみたいな羽が背中から生えており、くすんだ銀色からなる外殻に覆われた蛇腹状の二本の尻尾が生えてる。
大蛇を思わせる尻尾は見ただけで攻撃力が高いというのが分かる。
顔、羽、尻尾以外を守るのは、艶消しされた黒い鎧。
右腰には得物であろう手斧をぶら下げいる。
四メートルサイズが使用する手斧は、俺達からすればバトルアックスみたいなもんだ。
なんとなくヤヤラッタを思い出すけども、また違う系統だよな。
一応の確認として、
「グレーターデーモンかな?」
「そんな低俗な種族ではない」
グレーターを低俗呼ばわり。傲慢なのか、事実だからそう言うのか。
チラリとルインリーダーを瞥見。
俺の視線を感じ取ってくれたのか、髑髏の頭部を左右に振り、
「記憶をたどるが、やはり思い当たらない」
と、返してくる。
「当然だろう!」
と、相対する方から。
「我ほどこの世界で稀な存在もいないからな!」
と、継いでくる。
「だ、そうですよ」
「虚言――というわけでもないのは、見た目からも伝わっては来る」
ただならぬ雰囲気だからね。
ルインリーダーとやり取りしつつ、
「では、どういったお立場でしょうか?」
あえて下からの言い様をすれば、
「我が種族はアンラ・マンユ・クロース」
「だ、そうですよ」
同じ言葉でルインリーダーへと問えば、
「悪神の名を冠するとはなんとも大それた自己紹介だ」
「大それているわけではないぞスケルトン。事実を言っているだけだ」
「なんです。アンラなんちゃらって」
ルインリーダーへと問うたつもりだったけども、
「この世界における神だ! 我はその神の近縁に当たる者!」
相対する方からのご説明。
この世界の神のような立場は
「この世界におけるおとぎ話に出てくる存在。それを真に受けているといったのが目の前の相手だろう。どのみち
「我が血族を侮辱するのはやめてもらおうか!」
「近縁と言ってくるところが上手い。信憑性の高さを生み出す説得力に繋がる」
「確かに。悪神の直系と名乗れば、胡散臭さしかないですもんね。クロース――近縁って名乗ることろに謙虚さがありますね」
「左様」
「二人してこちらを小馬鹿にしながらの品定め。我を挑発しているのか? それとも嫉みか? 偉大なる血筋に嫉妬するのは分かるがな」
自分がこの世界のおとぎ話に出て来るとされる存在の血筋ってのによほどの自負があるようだな。
「虚言、妄言も言い続ければ真実になるって言うしな」
「人間――あまり我をなめないでくれるかな!」
お、クロウスの名前を出した時のような怒りを表面に出してきたね。
余裕がありそうでいて、存外、短気かな。
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