チートがほぼ無い冒険

PHASE-224【クランベリー特産の町リオス】

「もうすぐだな」


「はい」

 この世界で王都以外を馬車を伴っての移動は初めてだ。

 リド砦の時は、馬のみでの移動だったからな。

 帰りは軍用トラックだったけど。

 

 四人パーティーとなれば、流石に馬だけに必需品を積むというのは、積載的に無理がある。馬車があってようやく旅が出来るというもの。


 二頭引きの四輪からなる幌馬車。

 そんな幌馬車のゆっくりとした足並みに揃えて俺は併走。

 俺の白馬も広い大地を走れてご満悦だ。

 普段はゲッコーさんのハンヴィーだからな。

 あれならとっくに目的の町についてるだろうけども。


 うむ。そういえば、白馬、白馬と言っていたが、肝心の名前が無かったな。

 今の今まで名付けない俺は軽薄な男である。


「――――よし! お前の名前は今日からダイフクだ!」

 真っ白な毛並みは餅のようだし、走れば靡く鬣や尻尾は、大福にまぶされた打ち粉の如し。

 ――――決して馬鹿にした表現じゃないぞ。

 俺の好きな和菓子だし。素直に綺麗だと思ってるからな。ダイフク。


「いやいや、そいつの名前は白い影で白影はくえいという名ですぞ」

 ギムロンよ、そんな曹操の愛馬である絶影からパクったような名前は駄目だよ。

 どう考えても先生が名付け親だろ。


「白影じゃないぞ。お前はダイフクだ」

 優しく首をさすりつつ伝えれば、嫌がった態度はしてこない。いい子である。


 だがしかし……だ。

 このパーティーよ……。

 併走する馬車を見やれば、手綱を引いて二頭の馬を巧みに操るギムロンに、幌馬車の中では荷物チェックをしているであろうクラックリック。

 むさいおっさんが二人。

 唯一、紅一点のタチアナが救いか。そんな彼女も幌馬車の中で待機してるから目の保養は出来ない。

 現パーティーは野郎3の女の子が1。

 

 ふ~……。と、心でため息。普段のパーティーは女の子が多いが、俺の事をボコボコにするのばっかり。

 で、現状は野郎の方が多いという状況。

 俺の知る異世界転生作品なら、主人公以外は皆かわいい女の子ばっかりだぞ。しかも献身的ときている。

 俺も……、そんな異世界に転生したかった……。




「湿地帯なんだな~」

 見渡す限り冠水した土地だ。といっても、街道はしっかりとした土道。馬車二台が併走出来るくらいの広さがある。

 さっきも旅商人のキャラバンとすれ違ったところだ。王都に行くと言っていた。

 栄えてきている。これが徐々に外へと広がっていけば、いよいよ貨幣の復活になるわけだ。


「リオスはクランベリーの産地でしてな。ここのジャムやジュースにソースは最高ですわい」

 ギムロンが幌馬車の手綱を引きつつ、ここの特産を教えてくれる。

 

 クランベリーは湿地帯を利用し、実のなる畑に水を投入。

 で、水中のクランベリーを揺すっていけば実が水に浮くそうだ。

 なぜ浮くかといえば、クランベリーの中が数室に分かれた空洞になっていて、それによって浮くそうだ。

 

「ほれ、見えてきたぞ」

 ドワーフの太い食指がさす方向を見やる。


「こりゃすげえ……」

 水が溜められた一帯は赤い色に染まっていた。


 腰まで体を浸からせて作業をしている農夫の皆さん。

 腕を左右に振って前に進む。

 振ればギムロンの説明通り、ポコポコとクランベリーが浮いてくる。見てて面白い。

 まさか異世界で社会科見学みたいな事をする事になるとはね。

 

 ――――光景を眺めながらゆっくとした速度で町に到着。

 

 王都の近くということもあって、町全体は二メートルほどの壁に囲まれ、見る者に堅牢さを伝えてくる。

 だが、至るところに破壊の跡。修復に励む方々も多い。

 

 王都に比べて被害が少ないのは、魔王軍にとって主要目的ではなかったというのも理由みたいだが、リオスの町全体が瘴気に汚染されており、汚染が深刻な状況時、町人は凶暴化。

 魔王軍に与する状態となり、攻撃対象から外されたようだ。

 ある意味それがよかったのか、犠牲者は少なかった模様。


 町の入り口で待機している人影。


「会頭。王都よりご苦労様です」

 一様に典雅な一礼が俺に向けられる。

 ――――復興案件でメンバーが先行しており、町の一角にはギルドの詰所も建てられていた。

 馬小屋に隣接した平屋の建物。

 

 ここには現在、メンバー六人が派遣されていて、生活をするには十分の広さとのこと。

 ストレスを抱えることなく仕事をこなしてくれる環境作りも、ギルド幹部たちの勤めだな。

 

 ――――平屋内部は土間。

 人数分の椅子に長テーブルがあり、平屋の一角には一段高い板張り。板張りの広さは四畳半くらい。

 交代で横になって休息をとるには、板張りの広さは十分と見受けられる。

 

 板張りには万年床とばかりに、藁の上にシーツを敷いた簡単な敷き布団。

 まあ冒険者としては、シーツが敷いてあるだけワンランク上の寝床なんだろうけども――。

 うむ、しっかりとした睡眠こそ活力につながる。各詰所には快眠できる寝床を提供できるようにせねばなるまい。


 町の入り口から俺たちに同行してくれるのは、リオス派遣メンバーのリーダーで、名はリュミット。

 腰には装飾など無縁の、使い込まれつつも手入れの行き届いたブロードソードを佩剣した剣士職の人物。

 黄色級ブィの認識票を首から下げ、手入れもせずに適当に紐で結った金髪を認識票と共に揺らしている。

 

 髪とは違い、スケイルアーマーの手入れはしっかりとしていて、リベットで出来たソレはつや消しもばっちりである。

 ブロードソードにスケイルアーマー。冒険者として、自身の外見より装備に力を注ぐタイプのようだ。


 先生が適正と判断し、派遣しているから実力は確かだろう。

 つい最近まで瘴気に精神を支配されていた町であったのに、農夫の方々がすでにクランベリーの収穫作業をしているのがいい証拠。

 収拾して日常生活を送ることが出来るのは、リュミット達、派遣組の尽力の賜物。


「会頭。こちらが町の代表です」

 そんなリュミットに紹介されたのは壮年の女性。

 名前はカリナさん。

 瘴気が原因で亡くなられた旦那さんの代わりに、町の代表を務めているそうだ。

 といっても、瘴気によって汚染されていた状況だったから、旦那さんがどうやって最後を迎えたのかは分からないそうだ。

 正気を取り戻した時、旦那さんの亡骸と対面。

 記憶がない分、急な別れということもあり、ショックも大きかったそうだが、町の長である旦那さんの後を引き継いで、代表職に励んでいるそうだ。

 

 こんな時の多忙はいいのかもな。悲しい事を多忙の間は忘れられるだろうから。

 

 頬のこけかたからして、かなりの疲労が蓄積しているは見て取れるが、十六の俺には、大切な人を失った人にどんな言葉をかけてやればいいかなんて分からない。

 

 不甲斐ないが、ひたすら聞き手に徹するだけだ。

  

 瘴気浄化後の境遇を聞いた後、本題を語ってくれるカリナさん。


 ――――話によれば、町の人々が正気に戻り、畑も再始動という時、洞窟付近のクランベリー畑にてコボルトに遭遇。

 石などを投げられ追い立てられたそうで、怪我人も出たそうだ。

 農夫が逃げ出せば、追いかけては来なかったとのこと。

 ただ石を投げるだけ――。


「子供のいたずらみたいだな」

 今まで経験したことから考えれば、正直、しょぼい。

 まあ、しょぼいから黒色級ドゥブに回されるクエストなんだろう。

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