PHASE-223【本気で有能な子とチェンジしたい!】

「それで、マールって街は大丈夫なの?」

 近郊は瘴気が蔓延しているみたいだけど。


「瘴気は街までは届いていません。魔王軍の侵攻も間近だったのですが、急遽それがなくなりました――――」

 俺たちが三爪痕トライスカーズと呼ばれる魔王軍勢力の蹂躙王ベヘモトと、溟海王レヴィアタンの二勢力の幹部を倒し、火龍を救ったことから、魔王軍の前線は侵攻がストップ。

 魔王軍は現在、状況を伺っている事に力を注いでいる。


「本当にありがとうございました。会頭と皆様のおかげで街は難を逃れました。街にもギルドの方々を派遣してくださってもらいましたし」

 感謝で常に頭を下げている。


 先生の人材派遣にぬかりはない。各拠点の防衛強化に励み、現在、滞っている魔王軍の再侵攻に圧をかける行為でもある。

 流石だ。


「私なんかもギルドに加入させていただいて……」

 感極まったのか、目に涙まで浮かべている。


「気にしないでくれ。この世界を救うのが、俺が出来る唯一の事なんだから」

 と、格好つけてみる。

 周囲からは感嘆の声が上がり、下を見れば、ゴロ太が綺麗なまん丸お目々を輝かせている。ヒーローを羨望の眼差しで見るちびっ子のようだ。


 全体的に俺に対する信頼感が向上した。


 ――……ベルだけは、ゴロ太を取られた気がしているのか、ヤキモチを焼いたご様子。

 あれが子グマではなく、俺に向けられているならどれだけ嬉しいか……。


「謙遜しているけども、先生が見出しているんだからね。アコライトって事だから魔法も使えたりするんでしょ?」


「はい。戦闘、探索に使用するという事ならば、ファーストエイドとプロテクション。あと、ファイアフライが使えます」


「なに最後の。17ポンド砲なの?」


「はい? あの光源魔法です。暗がりを照らすのに使います」


「なるほど」

 なんだろうか、ちょっと残念な気持ちになる。


「三つも使えるって凄いね。しかも戦闘、探索ってことは、それ以外も含めるとまだ使えるのがあるんだ」

 問えば、頷きが返ってくる。

 ファーストエイドは水と土。プロテクションは土。ファイアフライは雷系とのこと。雷系が使用出来るという事は、火と風が使えるって事だ。

 凄いな、根幹となる四つの属性が使えるなんて。


「じゃあファイヤーボールも使えるの?」


「使えませんよ。使えるなら、戦闘に使用するという発言の時に含めてます」


「ああ、そうか」


「火系で使えるのはティンダーです」

 と言って、フィンガースナップをすれば、食指の先に蝋燭規模の火が顕現。踊るように揺らめいている。

 確かに戦闘には不向きだけど、あると便利そうだな。とくに愛煙家のゲッコーさんが喜びそうだ。

 

 にしても、四属性がちゃんと使えるって事は、しっかりとした基礎が出来ているってことだろう。

 うちのなんちゃらウィザードはノービスばっかだからな。

 せめて一つのことに長けた、尖った魔術師だったらまだよかったんだが……。

 まじで有能な子とチェンジしようかな。


「大変、申し上げにくいのですが」

 澄んだ水のような瞳で上目遣い。ギュッと白樺で作られたスタッフを握る姿のタチアナに、


「どうぞ」

 と、鷹揚に頷いてから発言を促す。

 仕草から、告白を受けるのかな? と、内心はドキドキだ。


「私もお供に加えていただけませんか。少しでも会頭に恩返しをしたいです」

 まあ告白なんて無いって事は分かってたけどね……。顔には出さないよ。


「返してもらえるほどの事を俺はしてないけど、回復と防御魔法が使えるなら十分に活躍できる。後は実戦で立ち回りを覚えていけば立派な戦力だ」

 冷静さを取り戻して先輩風吹かせれば、破顔が返ってきた。

 

 年下の後輩。同じ年下でもコクリコはきかん坊だし、俺に対して敬慕の念が大いに欠如している。

 だからこそ、俺をさんざっぱらボコボコにして逃げてるわけだしな!

 

 このタチアナみたいな素直さが欲しいね。

 本当に、コクリコとこの子をチェンジする未来しか見えない。


「じゃあ、この四人で行ってきますよ。先生」


「お気をつけていってらっしゃいませ。何かあれば無理せずに後方に連絡を」


「分かりました。ゴロ太もベルの面倒をみといてくれ」


「分かったよ」

 ゴロ太が任せろとばかりに自分の胸をたたく。

 ベルとしては、俺の発した面倒みといて発言は、私に発して使用するべきだろうと納得がいかないようだが、ゴロ太の可愛い仕草で問題ないといったところ。


 さあ、コボルト退治というクエスト名の――――、コクリコ退治に行きますか!

 

 俺の主目標は徹頭徹尾コクリコ一択だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る