PHASE-222【面子の位階】

「いやいや、忘れないでください。クレトスで――」

 と言って、ゴロ太を指差す弓持ち。

 

 指差す方ではおっさん相手に構えるゴロ太。それに対しておっさんは、諸手を広げて降参のポーズ。

 更には脂汗が流れ出す。原因は、ゴロ太が敵対行動を見せる=チート中佐も敵対するからだ。


 ベルの【殺すぞ!】って感じの、気炎を上げた状態の炯眼に睨まれれば、おっさんは汗を拭いながら側頭部を弱々しく擦る動作。


「ああ!」

 動作でピンときた。


「山賊と悪さしてたハンターのリーダー的な人か。ゴロ太に蹴りを入れられて、その後ベルに側頭部をがっつり蹴られた」


「そうです……。あの、反省しているのであんまりその事にはふれんでください……」

 周囲に目を向けてペコペコだ。


 魔王軍配下となっていた山賊たちと行動していた後ろめたさがあるようだ。


 先生は、経緯はともかく、実力もあるし、ギルドに入りたいが為の行動だったとして、大目に見て加入をさせたそうだ。

 

 実力者の証なのか、首には黄色級ブィの認識票がぶら下がっていた。

 第四位階ってことか。普通に強い人だ。

 

 ベルやゲッコーさんが相手になると、力量が分からないまま終わるからな。

 ゴロ太の蹴りをくらってた事から推測すれば、強いのか懐疑的にはなるが。


「改めまして、ハンター職のクラックリック・エルドシュリンガーといいます」

 ――……でたよ……。

 なんなの? クレトス周辺で出合った奴らは、なんでそんなに名前のくせがすごいの。

 なんだよエルドシュリンガーって。

 ロボットアニメの必殺技かな!


「クラックリック殿。私は信頼してますが、主に対して弓を引くなんて事は――――」

 先生の発言は語末になるにつれ仄暗く不気味になる。


「滅相もない! 役に立ちたいだけです。そもそも俺がどうあがこうが、会頭には太刀打ち出来ませんよ。奇跡の力を目の当たりにしてますから」

 ティーガー1でゴーレムをしばいてた時、確かに一緒にいたな。


「まあ俺に敵対したら、アハトアハトだから」

 ズドーンだから。と、砲撃をイメージするように、自分の掌に拳を当てて凄めば、


「忠誠こそが我が矜持です」

 おいやめろ! なんか危ないのに似てるぞ! その台詞はアウトだぞ。

 俺はチョビ髭の総統閣下じゃねえ。


「んじゃ、斥候はハンター職のクラックリック。前衛はハイランダーのワシ。その後ろに会頭ですな」

 ほう、俺より前とは、ありがたくはあるが、なんだろう、プライドにチクリと刺さる物がある。

 スペシャルな召喚に、大魔法が使えて、本日から四つのピリアが使用出来るようになったことで、自負も芽生えてきたのか、余計にそう感じざるを得ない。


「大丈夫なのか? 普段は鍛冶全般なんだろう」

 裏方であるドワーフに言い返してみる。


「ふふん」

 顎髭をどかして得意げに見せてくる認識票の色は――、赤色級ジェラグ。第三位階じゃないか。


「――――任せるよ!」

 赤いのを目にして俺は素直にサムズアップ。


「おうさ!」

 実力のある二人が護衛なら問題ないな。


「あの!」

 おっとびっくり! いきなり背後からの声だ。声の調節が出来ていないような大声。

 振り返れば――、


「すいません。緊張して声の調子が狂ってしまいました……」

 申し訳なさそうに頭を下げてきたのは女の子。


「君は?」

 栗毛の三つ編み。

 透き通るような水色の瞳は、緊張からか忙しなく俺や周囲を見ている。


 胸元をゴソゴソとして、青いローブから認識票を取り出す。色は黒。

 駆け出し冒険者の証拠である黒色級ドゥブだ。


「タチアナ・マヘッドといいます。アコライトです。マール街の神官学校の出自です」

 ――アコライト。プリーストの補佐役とのこと。俺のゲーム脳だと、スロールとナイトの中間。

 この異世界では下位の回復係と考えればいいようだ。


 というか、神官学校なんてのもあるんだな。

 

 マール街は王都より東方にあるそうだ。

 マール街付近までは火龍の恩恵は届いていないようで、未だ瘴気が色濃いとのこと。

 その瘴気を回避しての険しい旅路を一人で行い、王都までたどり着いたそうだ。

 

 そこから察するに、彼女は才女だろう。

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