PHASE-328【貴族に馬鹿息子はつきもの】

「ランスレン公は七十をすぎた老体で、体も弱いと聞きます。行動に移す時宜は遅いと考えるべきなのですが――――」


「魔王軍にすでに呑み込まれているって可能性もありますね」

 で、魔王軍に脅されているか、魔王軍に取って代わっているのか。


「可能性として有ると考えてもいいですが、他の者の思惑が考えられます」

 前者を否定しないでくれるのは、俺の考えを無下にしない心配りだろう。

 となれば、後者の他の者ってのが正解なんだろうな。


 七十過ぎた老体が無理して覇権に打って出る。タイミングとしては不信任を掲げてってのもあり得るが、やはり先生の言うように、年齢的にタイミングを逸している。

 それならもっと若い時にも付け入る隙があったかもしれない。

 公爵は腹に一物は持っていないと考えるべきなのだろうか。

 持っていても、それを突き動かす胆力は無いと考えるべきか。

 とにかく公爵ではない誰かが公爵領で、覇権を狙い動き出している。

 と、なると――――、


「公爵の――――息子とか?」


「素晴らしいです」

 どうやら正解だったようだ。

 公爵には四十代の息子がいる。

 三番目の子だそうだが、嫡子となっている。

 理由は簡単。上の兄二人が謎の死を遂げているからだ。

 謎なのだが、その時の流行病に近い死に方だったから、病とされているそうだが、不思議と周囲の世話係などからは、病は出ていなかったという情報まですでに先生は手に入れていた。


 怖いよ情報網……。

 俺の知らないところでCIAやKGBみたいな組織が出来ているんですかね……。


 それはさておき、残された三男はそれによって二十代の頃に嫡子となり、失うわけにはいかないと、公爵に随分と甘やかされて育ったようだ。

 で、その後の二十年の研鑽で出来上がったのが、野心家で我が儘な、自信過剰の馬鹿貴族然たる貴族様だ。


「よし! これはその馬鹿息子をしばき倒して公爵領を没収しましょう」

 ――……無茶苦茶な事を言ってるし、流血もよくないが、つい怒りの感情が口から出てしまった……。


「人との戦争をする覚悟も得たようで」

 そんな風にストレートに言われると、躊躇も生まれるよね。

 やはりこの状況下で人類同士での流血は……、


「流血を厭う者は、これを厭わぬ者によって征服される」


「音も無く入室しないでください。ついでに俺の後ろに立たないでください。蔵元」


「驚かないんだな」

 いや、十分に驚いてるよ。後ろに立たれれば心臓がバクバクですよ。

 蔵元って呼べば、すっごい笑顔で喜んでるし。どうした? 伝説の兵士。色々とビックリさせられるわ。


「今のは、カール・フォン・クラウゼヴィッツですね」


「流石は荀彧殿」

 ――…………。


「いやいやいやいや」

 流石は荀彧殿――――じゃねえよ。

 さっきのPMCもそうだったけど、普通に横文字の人物がスラスラっと出て来るじゃねえか。

 誰だよカールって? 自走臼砲のお仲間か?

 

 ――――聞けばプロイセン帝国の軍人さんらしい。

 それを教えてくれるのが、ゲッコーさんじゃなくて先生っていうね……。

 知識量が半端ねえよ。

 ドンドンと俺の知らない知識を勝手に蓄えていくよ。

 

 厭う、厭わないってのは、嫌がらずにやる時はやれって事なんだろうな。


「厭わぬ戦いをするにしても、こちらには兵力がないです」

 と、先生。

 総兵力に更に義勇兵を募ってやっとこさ三千になればいいところ。無理は出来ないから、兵力はやっとこさの半分が現実的。

 瘴気から解放された地域に対しても救済や、トールハンマー要塞など、方々ほうぼうに展開するから更に少なくなる。

 寡兵も寡兵だ。


 対して公爵サイドは、今まで戦いに参加していない事から、消耗していない状態の兵力を有している。

 現在、動き出している兵力は、公領と私領の境にある、天嶮の地として有名なネグラスカル山脈は、ブルホーン山という場に集結しているそうだ。

 その数は連絡通りなら二万とのこと。


「…………二万……」

 ふざけんなよ! それだけの戦力を一方向に投入できる力を持っていながら、援軍に来なかった。

 何が私領の民を守るために派兵が出来ないだ! 出来ただろうが!

 これだけでも十分に大罪に出来る理由になるわ!

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