PHASE-329【常勝維持】
まったくなんだよ二万って! こっちが三百程度でホブの軍勢と戦ったのに、そんだけいるなら援軍に来いよ!
ベルやゲッコーさんがいたから問題はなかったけども。
二万が天然の要害に籠もればこちらから攻めるのは自殺行為。
嫌がらせの破壊工作が関の山か。
ゲッコーさんが光学迷彩でトップを狙えばそれで終わるといえば終わるが。
王様の軍勢なのに、戦いが卑怯と言われるのはいただけないだろう。
多くの流血回避には暗殺がベストなんだけど、卑怯となれば相手が戦意高揚する可能性もある。
公爵サイドの兵は戦いを知らない弱卒ではあるが、訓練はこなしているだろう。そこに戦意高揚が加われば、弱卒はたちまち強兵に変わる。
出来れば
やはり、相手に慢心を植え付けるためには、こちらの寡兵を晒しての正面切っての戦いを選択しないといけないのだろうか……。
他にも相手のフィールドである天嶮の地を戦場に選ぶのは愚。
「山脈を越えさせてこっちに誘い込まないとな」
「そうなりますな」
でも、それを実行しても肝心の、
「兵力がな~」
寡兵を晒すにしても、寡兵すぎる……。せめて五千は動員したい。
「まったくです」
先生もそこが悩みどころのようだ。
兎に角、兵がいない!
人の往来も活発になってきた王都だが、現状で徴兵なんて行えば、人々を不安にさせてしまう。
最近の兵士達は、ナブル将軍やその麾下の騎士団と戦士団たちが鍛え上げて精強ではあるらしいが、
「戦いは数だよ」
三百程度から、千をこえるまで増えたのはいい事だけども。
もっと増やす方法……。
――……簡単にできたら苦労はしない。
本当に、なんでこんな状況で野心に目覚めるかな。人間の欲深さには同じ人間でも驚かされる。
一枚岩になれずに、弱ったところを付け込んでくる。
魔王軍の侵攻が王都に迫りそうな時なんかは、兵糧を送り届けた公爵サイドの使者は、公領の一部を賜れれば協力すると言ってきたそうで、この状況下で援軍派兵のために条件を出してくるヤツなんて信用できないと、ナブル将軍が突っぱねたらしい。
与えれば、次々と領地を広げていって、最悪、魔王軍よりも先に人によって王都が凄惨な目に遭うと考えたらしい。
出来た将軍である。いや、基本的にここに残った人材は有能なのが多かったんだよな。
ミルトンって出っ歯を除けば。
公爵サイドが真っ先に欲したという土地は、ネグラスカル山脈はブルホーン山の南に位置するウルガル平野と呼ばれる場所だそうだ。
山と平野を結ぶ場に拠点を築く事が出来れば、王都侵攻への橋頭堡となる地帯。
将軍が突っぱねるのも当然なわけだな。
何ともまずい状態ではあるが、俺たちには猶予はあるそうだ。
現在、ブルホーン山に兵を集中させているようだが、ウルガル平野は未だ瘴気が蔓延しているそうで、これによって公爵サイドは兵を南下させることが出来ないでいるようだ。
流民達が王都を訪れたように、瘴気を避けながら南へと移動することも不可能ではないと言うことだが、もし万を超える兵を長期に渡って行軍させようものなら、従来の行軍以上の兵糧、物資が必要となる。
時間をかけての移動による消耗は大きい。
鈍ければ容易くこちらに動きが察知され、迎撃に出られるリスクもあるからか、攻めたくても攻めることが出来ないといったところなんだろう。
「不信任を大義名分に、決起する気持ちだけが逸っているのが見て取れる行動です」
嘲笑の先生。
無駄に大軍を動かせば、待機状態でも兵糧を消耗する。それすらも分からないほどに、嫡子は愚昧とこき下ろす。
更に取り巻き達は、嫡子の行動を御することの出来ない凡愚ばかりと、嘲笑する口角は更につり上がっている。
「瘴気に救われる事もあるんですね」
公爵のとこの息子だけが覇権を考えているわけじゃないだろう。
隙あらば自分もって考えている連中は必ずいるはず。
瘴気が妨げとなって動けないから、今は攻めるより情勢を窺うという方に思考が傾いているようだ。
だが瘴気が無くなってしまえば……、
「この間に我々は兵を集めます」
集めて王の威光を大陸に轟かせれば、邪な考えも消え去るというもの。と、先生。
牙を剥くことが損失にしかならないと思わせることも、統治者としては必要な力量。
封建制度は、如何にして日和見の権力者を味方に付けるかが大事なのだそうだ。
数で勝れば、剥き出した牙は隠さないといけないし、そのまま隠させるように押さえ込む。
押さえ込む為には、俺が勇者として仲間達と共に、魔王軍に連戦連勝すれば威光は轟くと、またもプレッシャーを与えてくる先生。
負けは絶対に許されないし、目の前の人がまず許してくれないようだ。
「で、でもどうやって兵を集めるんです?」
若干、呑まれ気味になりつつも質問すれば、
「それは主がやることです」
うぬ……。
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