PHASE-1455【保護者が保護者なら……】

 ハーネスが外れないで焦る俺とは対照的に、ヒーターシールドを前に出しつつ、右手のショートソードを刺突で構え、血気盛んに迫ってくる梟頭。

 ライトニングスネークを防ぎきったというのもあってか、絶賛、闘争心を燃やしているといったところ。

 

 でもって、先駆けにて接触してきた連中以外も同時に動き出し、俺以外のツッカーヴァッテに騎乗している面々に襲いかかる。

 ハーネスが外れないで焦っている俺とは違い、女性陣は落ち着き払っている。

 

 そんな中でようやく――、


「――オッケー外れた!」


「くろいバリバリ!」

 ハーネスからの開放と同時に、俺の前に座るミルモンからの掩護攻撃。


「おぉ!? ぉぉおうわぁぁぁぁぁあ!?」

 突如として死角から発生した――俺の股間付近から発生した黒い電撃が、梟頭のタンガタ・マヌの体全体を覆う。

 

 ――……位置的になんか恥ずかしい……。

 

 先ほどは防ぎきったが、今度のはシールドを構えようが関係ない。

 黒い電撃に襲われれば、嘴を広げて叫ぶ。


「あら凄い。ダークネスライトニングを詠唱破棄スペルキャンセルで使用できるなんて」

 と、やはり初見だとダークネスライトニングなる大魔法と勘違いされるミルモンのくろいバリバリ。

 ヤヤラッタだけでなく、古の大英雄であるリンも見間違えるほどに酷似しているようだな。

 喰らった相手は、どれだけ振り払っても取れないソレに半狂乱。

 混乱しているから威力がどうとか理解できていない。

 エルウルドの森で戦闘したミノタウロスと同じリアクション。

 この間にベルとコクリコが既に数人を撃退。

 落ちていく連中は部隊長と同様に救出される。


「仕方ない。話し合いもまだ諦めたつもりじゃないけど、攻めてくるなら振り払うだけだ!」

 やってしまった以上は後に引けない。

 でも状況をこれ以上、悪くしたくないとも思ってもいるので、


「でりゃ!」

 残火を鞘のまま使用。

 くろいバリバリに襲われている梟頭のタンガタ・マヌに胴打ち。

 この一撃で力なく落下。これまた仲間が――、


「……助けないじゃないか!」


「ダークネスライトニングは伝播するもの。触れた者も死に至るとなれば助けたくはないでしょう」


「なんという勘違い! どうすべき!?」


「簡単よ」

 と、リン。

 悪い笑みを湛えて俺を見てくれば、美脚にフィットした黒いスキニーパンツのその足で、俺を――蹴り落とす。


「さあ、お行きなさい」

 と、言いながら。


「リン、てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」

 やはりあったか意趣返し!

 ベルを利用して言い様に扱ってきたけども、ここにきてチャンスとばかりに俺をツッカーヴァッテから蹴り落としやがった……。

 なんて高度から蹴りとしてくれてんだよ!

 

 ――ええい!


 落下するのはタンガタ・マヌが先だが、広げたままの翼のお陰なのか、空気抵抗が生まれているようで遅れて降下する俺でも間に合いそうだった。

 これを理解した上でリンのヤツ俺を蹴り落としやがったな!


「ふんす!」

 くろいバリバリに襲われ、きりもみ回転で落下していくタンガタ・マヌの足を掴むことに成功。

 無事救出。


 ――……で……、


「こっからどうするんだよリンの馬鹿!」

 救出は出来ても、このままだと完全に要塞ではなく外殻の方へと落下して二人してお陀仏だよ! 


「馬鹿とか言っちゃダメなんだよ」

 と、聞いたことのある声。


「インジェクション」

 と、継げば、俺の側面から強い風。

 アッパーテンペストに比べれば弱いが、俺とタンガタ・マヌの体を要塞側へと流すだけの力は有していた。

 地面が目の前にあるという安堵と喜び。

 

 でもね……、


「潰れたトマトルートだよ!」


「一々うるさいよ。お兄ちゃん」

 続けざまに落下地点の地面から生じる風。

 この絶妙なクッションの如き風で落下の威力を打ち消してくれる。

 無事着地。


「なんという技巧。流石と言うべきだな――オムニガル」


「でしょ♪」

 と、姿を見せてくれるのは、水色のエプロンドレス姿の少女。

 白のソックスに黒のローファー。 

 亜麻色の長い髪。白い花のブローチがワンポイントのカチューシャ。

 アンデッドでありながら、血色の良い玉肌は生者を思わせるポルターガイストのオムニガル。


「助かったぞ」


「大したものでしょ」


「流石はリンの側にいるだけはある。というか、今回は随伴を許されたんだな」

 危ないところには連れていかないようにしていたようだけども。


「今回はかなり駄々をこねたからね」


「お、そうか……」

 駄々をこねてまで死地に赴きたいとはね。

 死んでもしらないぞ。と、釘を刺したいけども、既にお亡くなりになってますね。


「話し込んでる暇はないみたいだよ」


「おう。そうだな」

 俺達に接触してきた面子と違い、離れた位置にて待機していた連中が俺の方へも迫ってくる。

 手にした利器は完全に俺に狙いを定めたもの。


「なんだよ……やる気満々じゃねえか……」

 話し合いの大事さを知らん連中め!

 梟頭を救出した姿を見てなかったのかよ!

 掴み所のない主の下にいる連中なんだから、戦闘以外の方法も模索できる臨機応変さがあると思ったのに……。

 こちら側の大陸にいながら攻めてこないから、友好的に接することも可能だとも思っていたのに……。


「存外、頭が固い連中だな!」


「じゃあ、頑張ってね」


「……は?」

 オムニガル。可愛い笑顔を俺に向ければ手を振り、スゥゥゥゥ――っと消える。


「いやいや、一緒に対処してくれるんじゃねえのかよ!」


「私程度の実力だと無理かな~」


「嘘つけ! 十分に実力あるだろうが!」


「だとしても無理~。面倒くさいから~」

 ――……なんて自由奔放な子だ……。

 保護者が保護者だから納得するしかないけども……。

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