PHASE-1456【引き籠もってるから】

 オムニガルは戦闘には参加してくれないようだけど、俺の命を助けてくた事には感謝しかない。

 俺だけじゃなく、この梟頭も。

 気絶した梟頭を通路に寝かせる中で、


「外敵は排除する!」


「ほう!?」

 高速飛行で接近してくる面々から放たれる多彩な魔法と矢。

 先ほどまでとは違い、鞘から残火を抜き、マラ・ケニタルも抜いて全てを切り払う。

 炎の障壁であるイグニースに頼る事ばかりせず、この程度の攻撃は切り払いなんかで対応していかないとな。


「ふふん」

 と、切り払った姿が自分でも格好良かったので、ついつい口角を上げてしまう。


「おのれ!」

 と、反面、相手からは悔しそうな声。

 飽和攻撃で撃退したかったんだろうけども、それが叶わなかったからか、動かしていた羽がゆっくりなものとなり、俺への接近を躊躇する動きに変わってしまう。

 俺の切り払いと不敵な笑みが、相手の攻勢を挫いたようだな。

 

 攻勢が弱まったところで全体を見回す。


 ――最初に接触してきた面々と違い、バケツ型のグレートヘルムに、円錐形のバシネットで顔全体が守られているから顔立ちは窺えない。

 装備はほぼ統一された物だが、兜に違いがあるのは、頭部の形状が違うからかな?

 ベルに蹴りを入れられた部隊長と同族の鹿フェイスが、バシネットを装備しているといったところか。

 ブレストプレートやガントレットなんかは一緒。

 種族の違いを外見から判断するとなると、自由に飛行できる力の源となっている羽だな。

 鳥のような翼。コウモリのような羽。昆虫の翅タイプもいる。

 兜を被ってくれていて、有り難いな。

 ベルが昆虫タイプの種族を目にすれば、卒倒するか狂乱してしまう。

 

 ――金属の兜にブレストプレート。

 軽装でもないのに高速で飛行可能なのは強味だよな。

 それに比べて……、

 俺が着地した場所は細い通路。

 しかも屋根無し……。

 遮蔽物のない所で高所を取られつつ包囲されている。

 一直線に駆ければ建物の中へと入れるけども……。


「落ちたらアウトだな……」

 人一人が通れるくらいの幅しかない通路。

 そこを駆ける。

 しかも遮蔽物もない場所。

 高所を取られた状態で……。


「もっとちゃんとした道を作れよ! こんな手抜きなら来期の予算は削減するぞ!」


「五月蠅い! 飛行できる我らにそもそも道など必要ない!」


「もっと相手を思いやれる建設をしないと信頼を失うからな!」


「自分の置かれた状況を理解していないらしいな! 仕留めるぞ!」

 兜で声が籠もっているけども、俺との会話のやり取りで俺に余裕があると判断したようで語調はお怒り。

 挫かれた攻勢から立ち直れば、完全にこっちの命をとる気でいるようだ。


「仕方ねえ」

 切っ先を向けつつ、


「寄らば斬る!」

 圧を込めて発して見れば、


「上等!」


「あら!?」

 俺の圧に今度は挫けることなく一斉に迫ってくる。

 後方支援の魔法と矢による攻撃ってのもセオリー通りのいい連携だよ。


「マスリリース!」

 二振りから斬光を放って迎撃をしつつ、通路を一気に駆ける。


「行かせんぞ!」

 と、三人が俺の前に立ち塞がる。


「押し通る!」

 軽く跳躍して正面の一人に飛び蹴り。

 続けて残火とマラ・ケニタルにて二人を叩き落とす。


「峰打ちだ。さっさと救わないとお仲間が大変だよ」

 伝えればちゃんと救出に向かう辺り、仲間意識は高いご様子。

 これならいけるな。

 戦闘不能にして墜落させていけば助けに動く。そうすれば戦力を――、


「削ることが……」

 ――……出来ないじゃないか……。

 次々と増援が来る。


『そっちは大立ち回りのようだな。親密な関係は築けなかったか。要塞内では大騒ぎだ。次から次へと羽の生えた連中がトール達の方に向かっているぞ』


「そうなんですね」

 耳朶に届くゲッコーさんからの報告。

 要塞内ということだから、既に内部に入り込んでくれているようだ。


『もっと派手に大立ち回りをしてくれるといいんだがな』


「少数でお邪魔すると必ずと言っていいほど、同じ手段になってしまいますね」


『お馴染みの陽動作戦。少数だとこれが効果的だからな』

 俺達が派手に動けば、それだけ潜入する側が行動しやすくなるからな。

 エルフの国に、エルウルドの森。


「やる事は一緒。勇者として目立ってやりましょう!」


「なめやがって!」


「一々と癪に障る人間だ!」

 俺へのヘイトが溜まりまくっているようで、皆さんツッカーヴァッテの方には興味をあまりしめさず、俺にご熱心。


「来い! 勇者である俺が戦いを教えてやる。この引き籠もり共!」


「死ね!」


「下品な言葉は主の質を疑われるぞ」

 言い返ししつつ、単独で攻めてきた一人が得物を振り上げたところに合わせて残火の峰でがらんどうとなった胴に横一文字を叩き込んで戦闘不能にする。

 狭い通路ではあるが、出来るだけ通路の上で気を失ってもらいたいところ。


 でも、


「こっちも手心を加え続けるだけの技量はないからな。叩き落として外殻で命を失うことになっても文句は言わないでくれよ」


「減らず口を!」

 と、今度は四人による前後左右からの攻撃。

 手にした槍による刺突は高速飛行を利用してのもの。


 体重の乗った突撃ってのはそれだけで脅威だけども、


「その程度で翻弄される俺ではないのだ」

 ここまで来るだけの力はつけてきたという自負と経験。

 アクセルに縮地。それらを体験してきた俺にとって高速飛行なんて――、


「スロウリィ」

 残火とマラ・ケニタルによる四連撃。

 前後左右からの突撃を駆逐。

 

 ――やっぱり俺は強い。

 と、口に出して調子に乗りたいけど、ツッカーヴァッテに騎乗している最強さんに、にやけ面となっている俺の姿は見せられない。


 気を引き締めつつ、


「おら、こんな所に引き籠もっているから力もつかないんだぞ。世界を見ろ。世界を! 情勢は常に変わってんだからさ!」

 四人を通路に横たわらせ、残火を肩に当てつつ発せば、残りの連中は悔しそうに歯を軋らせ――てるのか、嘴を軋らせているかは分からないが、接近戦を仕掛けようとすることに躊躇している感じ。


 再び攻勢が挫かれた模様。

 存外メンタルが弱いようで。

 引き籠もり特有ですな!

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