PHASE-1115【切り込み隊長】
――――。
「ふぃぃぃぃ――」
ポルパロングのところからの連戦で流石に疲労に襲われる。
ハイポーションを一飲みすれば疲労回復の効能が現れるのはファンタジーの凄いところだな。
傷だけでなく疲労も直ぐに回復できるのは有り難いよ。
「ほうほう、厳重ですね」
俺が腰に手を当てて呷っている側では、コクリコが覚え立てのビジョンを使用。
――集落手前にて俺達は様子を窺う。
コクリコが言うだけあって、かなりの数が武装しているのが分かる。
「あれで魔法も巧みに扱うんだからな」
エルフを敵に回すのはよくないよ……。
まあ戦わないといけない状況になったけども。
「トール。いますよ」
「だな」
集落の前にはネクレス氏たちがいる。
先ほどの戦いで主にベルに戦闘不能にされていた面々も元気に動き、ネクレス氏の指示に従って迎撃の準備を整えていた。
樹上だけでなく地上の下生えに隠れるように身を屈めて周囲に目をこらし、弓に矢を番えてのアンブッシュもいる。
ミストウルフたちもさながら警察犬のように周辺を警戒していた。
こっちも身を潜めて窺う中、気付いたこともある。
迎撃の準備をしているのは男達ばかり。
決死の覚悟とか言ってたから、てっきり総動員かと思ったんだけどな。
女性のダークエルフさん達はこの戦いには参加していないようだね。
女性だから参加させないとかって考えがあったりするのだろうか?
それともネクレス氏の発言はブラフではなく、城攻めの方に女性たちが赴いているとも考えられる。
ヴァンヤール階級であるポルパロングが原因で、ダークエルフの女性陣は氏族に強い恨みも抱いているだろうし。
まあベルが出張っているから城攻めサイドがいたとしても心配はしないけど。
何よりも――、
「戦力が限定されているのはありがたい」
それだけ戦う回数が減るって事だからな。
女性相手となると俺としてはやりにくいところもあるし。
都合のいい時だけフェミニストな俺。
それにこの世界の女性は強いからね。内のメンバーがいい例だ。
もしかしたら待ち構える男性陣よりおっかないかもしれない。
ルマリアさん達を集落手前まで送った時、兄であるネクレス氏がルマリアさんに気圧されていたからな。
「会頭。限定されるって言ってもよ~多勢だぞ。本当に正面からやるんかい? こりゃ骨が折れそうだぞ」
「ギムロンの言は正しいけど、そういうのはここに到着する前にしっかりと対策を考えておくもんだぞ」
だって――ね~。
「さあ、このコクリコ・シュレンテッドを恐れぬならかかってくるがいい!」
身を潜めている中で、黒と黄色のローブを靡かせて一人飛び出すコクリコは、威風堂々たるガイナ立ち。
俺との戦闘ではギムロンとコクリコはインスタントでもいいコンビネーションだったけど、コクリコとの冒険回数が少ないギムロンでは、コクリコの思考を完全に把握するまでには至らないか。
当然ながら、俺はこうなると理解してましたよ。
そもそも派手にやるって言った時点でコクリコは琥珀の瞳を爛々と輝かせていたからな。
「おい。始まっちまうぞ」
「焦るなギムロン。コクリコが派手に初手を喰らわせてくれるさ」
ド派手と呼べるような上位魔法はないけども。
「さあ! 我が眷属であるオスカー、ミッターよ! 眼前の愚かな者達に我等が力を披露しよう! ――――ポップフレア!」
まあ、コクリコの手持ち魔法で派手で高威力ってなるとそれだよな。
リンのダンジョンで手に入れた、植物と蛇の彫金が施されている白銀に輝く装身具。
装身具にはタリスマンが埋め込まれており、左手首のブレスレッドには青色のタリスマンであるオスカー。
右足首のアンクレットには緑色のタリスマンであるミッター。
右手に持つワンドの貴石が赤色に輝けば、二つのタリスマンも呼応するように強く輝き、術者に力を付与。
ワンド先端に轟々と音を発する火球が顕現し、眼前の目標に勢いよく放たれる。
「なめるな小娘!」
一人のダークエルフさんがプロテクションで防ぐ。
「――おおぉ!? 存外強い!」
と、強化された中位魔法であるポップフレアの爆発力に驚き、障壁を展開していながらも後方に下がっていた。
「ほう。我が開始の合図を防ぐとは。やり手ですね」
「たかがポップフレアで随分と強気だな!」
「中位――されど中位。術者が使えば上位となる。現に目の前の者は障壁の向こう側で下がりましたよ」
樹上を見上げつつ余裕をもって返すコクリコの姿は再びのガイナ立ち。
見上げているのに相手を見下ろしているかのような強者感だった。
「ぬかせ小娘!」
言いつつ樹上からコクリコに向かって四人が襲いかかる。
手にした槍の穂先をしっかりとコクリコに向けて――。
更に掩護のために樹上より矢が放たれる。
「あまい、あまい」
ガイナ立ちからの次の動作は、左手にワンドを持ち替え、無手となった右手にミスリルフライパンを持つスタイル。
青白く輝くフライパンにて降ってくる矢を全てを打ち払い――、
「アークディフュージョン!」
にて落下してくる四人の内の一人を攻撃。
「ぐぅ!?」
直撃すれば電撃が残りの三人にも伝播する。
痺れさせて戦闘不能にする便利な下位魔法ではあるが、ダークエルフさんクラスになると流石と言うべきか、タリスマン付与バージョンでもダウンすることはない。
しっかりと着地していた。
だがしかし――、
「せい! はっ! ていっ! ほいっ!」
痺れて動きが鈍くなっている相手にコクリコは手加減などしない。
ダークエルフさん達の整った顔へと目がけて小気味よく声を発しながら、フライパンを叩き込む。
気迫と共にリーン――っといった心地よい音色が四回響けば、四人のダークエルフさんはバタバタと倒れる。
「ハッ! 他愛なし!」
「やるの~」
感嘆するギムロン。
「だろ。勝手に始めるのが毎度の悩みの種だけど、掩護しないで安心して先制攻撃を見守る事が出来るくらいには頼れるヤツだよ」
切り込み隊長という称号が似合う後衛である。
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