PHASE-659【二体は重鎧パワー型】

「やるわね。体幹も脚力もしっかりしているじゃない」

 リンの感嘆を背に受けながら、盾を止めた姿勢から靴底を盾に滑らせて、下部にあるスパイクに足を乗せたまま跳ねる。

 盾を足で押さえこんだまま高さを制し、頭部へと目がけて白刃で振るおうとすれば、ディザスターナイトは急ぎ後方に飛び退いた。


「ボラァァァァァァァ!」

 と、接近を許さないとばかりの威嚇による咆哮。

 これを見て、俺はいけると己を鼓舞する。

 レベルは俺より一つ上なだけの64。互角の勝負は可能だ。

 それに武器装備のアドバンテージは俺が上。

 オリハルコンの白刃による一閃に対して、大きく下がったのがいい証拠。

 毎度、装備のアドバンテージに頼るのも悲しいけども。


「だとしても、装備の性能を活かしているのは俺個人だからな!」

 一気に攻めに転ずる。

 コクリコが背後からポップフレアの機を窺っていたけども、


「背後に専念しろ」


「了解です」

 ここに来て壁付近に立っていた鎧二体が動き、コクリコに迫る。

 さっきの威嚇のような咆哮は、鎧達を動かすための呼びかけでもあったようだ。

 コクリコの背後から迫ってくる二体の鎧を瞥見すれば、兜のスリットから光る輝きは紫。廃城地下の部屋で見たものと同じ輝き。

 やはりリビングアーマーだったようだ。


「おら! お前はこっちだよ!」

 コクリコにリビングアーマーが迫る。

 俺もそっちに対応してやりたいけども、まずは目の前の難敵。

 これが残火なら迷うことなくブレイズを発動して、タワーシールドごと体を両断してやるのに。


「せりゃ!」

 ガキィィィィンという劈き音。

 流石はオリハルコンと言うべきだ。

 振り下ろせばタワーシールドに切れ目を入れることが出来ている。

 でもそれだけだ。


「何度も同じ場所を斬らないと、断つことは出来ないな……」

 残火とオリハルコン製のロングソードでこんなにも差があるとはね。

 如何に希少鉱物であろうとも、神話級の武器と比べてしまえば格は落ちるというもの。

 ――……いや、言い訳だな。ベルなら粗製な数打物を使用したとしても、シールドごとディザスターナイトを両断するのも容易いだろう。

 もちろん炎を使用しない素の状態で。


「使い手の技量の問題だ」

 前言撤回だな。装備の性能を活かしているのは――、なんて大言もいいところ。

 俺の技量では、オリハルコンの性能を引き出せていない。

 なら引き出せるようになるしかない!


「来いや!」


「ヴァ!」

 応じてやるとばかりに、短い気概から打ち込まれる上段からのファルシオンは凶悪。

 右手で柄を握り、左腕のガントレットに剣身を乗せてから重い一撃を再び受けきる。

 ポキポキと背骨がなる。


「強烈だな」

 擬音をつけるならバフッてな感じに大きく呼気を行い、肩が弛緩したところでバックステップ。

 防ぐだけで手一杯。相手は自分より攻めが劣っているとディザスターナイトは思っているのか、突進からの追撃のシールドバッシュ。

 今回は助走が入っているから、ケンカキックで止めれば逆に吹っ飛ばされると判断し、横っ飛びで回避する俺の横では、シールドが石棺を盛大に破壊する。


「バチあたりめ」

 まあ、石棺には何も入っていないけど。

 もしかしたら何らかのお宝が入っている石棺もあるかもな。

 ご遺体だけは勘弁だけど。


「後で調べたいから壊すのはやめような」

 軽口が出せるくらいには余裕もある。

 なのでコクリコを見やれば、二体のリビングアーマーに対して軽快なフットワークにて、振り回されるハルバートを回避しつつ、魔法を放っていく。

 ディザスターナイトと戦っている最中でも、目の端では赤や青白い発光が入ってきていた。

 二体相手でも、間断なく魔法を唱える事が出来るってことだ。

 同じ重鎧でも、ディザスターナイトと違って動きは鈍重のようだな。


 俺が戦った介者剣術を使用していたリビングアーマーと比較すれば、驚異レベルは下と判断していい。

 だが相性ってのもある。二体ともパワータイプ。敏捷なコクリコとは対極な相手だ。

 回避を成功させて魔法を唱え続ける事が出来ればコクリコの勝ち。

 でも一撃でもくらってしまえば、途端に劣勢になるだろう。

 加勢するためにも。


「喰らえ!」

 重鎧に負けないくらいの重々しい銃声が玄室に響く。

 ライノが吐き出す.357マグナム弾。

 コッキングレバーを操作してのシングルアクションから、残りの五発はダブルアクションで撃ちきる。

 咄嗟にタワーシールドに体を隠すという選択。

 ヂュンヂュンと重い着弾音。

 しっかりとシールドで防ぐのもあれば、咄嗟故に隠しきれていない鎧に直撃弾もあった。

 タワーシールドが射線を妨げ、狙う場所は限定されるけども、六発中四発が鎧に当たれば上々。

 その内二発が上半身部分に命中。.357マグナム弾は、しっかりと鎧に風穴を開けてくた。

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