PHASE-660【一発で成功させられるほど器用じゃない】

 でも……、


「ボラァァ!」

 射撃によるダメージは効果が薄い。

 ストッピングパワーは優秀だけども、アンデッド相手だとヘッドショットを決めない限りダウンは難しい。

 それでも動きを止めるってのが出来るから、やはり威力のある銃はモンスターには有効だ。

 排莢はせずにホルスターへと戻し、再度ロングソード。

 身を低くし、地を滑空するイメージで、


「アクセル」

 によって隙の出来ているディザスターナイトの背後に回り込んでの一撃。

 しっかりと鎧の金属の感触と、その奥にある体部分の感触が握った柄から伝わってくる。


「もう一撃」

 斬り下ろしから手首を返しての斬り上げで二撃目も入る。

 ヨロヨロと前に数歩進むディザスターナイトに、もう一太刀と追撃に上段の構えを取るが、直ぐさま姿勢を整えると、ボロマントが幻影を思わせるような独特の歩法で距離を取る。


「ラピッドに似た軌道だな」

 というか、ラピッドそのものかもしれないな。


「チッ」

 悔しさが舌打ちとなって出てしまう。

 アンデッドだから背中を斬ったところで効果はない。

 反撃とばかりに今度は一気に距離を詰めてくる。

 先ほどより速さが増したファルシオンの斬撃と、シールドバッシュのコンボ。

 ファルシオンは受けると同時に捌いて威力を削ぎ、シールドバッシュにはスパイクを避けつつのケンカキックでの対処。

 今回は威力を殺しきれずに後方に押されてしまう。

 押されながらも跳躍し、石棺を挟むようにして相対し、いったん水入り。

 残火なら。って思ってしまう俺の精神は弱い……。

 水入りもわずか。

 石棺の価値も分からないのか、平然とファルシオンを振り下ろして破壊。

 中身はやはりない。この石棺はオブジェクトみたいな意味合いなのだろうか?

 それともダンジョン荒らしをここで討伐し、この石棺に入れるというのを仄めかしているのかな。

 目の前のアンデッドに倒されると、石棺には入れず眷属になるんだけどな。

 バックステップで避けつつ、効果的な攻撃を思案。

 モロトフを見舞いたいけども現状、手には火がない。

 ライターを雑嚢から取り出したいけども、


「ああもう!」

 ラピッドのような能力で一気に迫ってくる。

 刺突で迎撃するけども、しっかりとタワーシールドで防いでくる。

 しかも受け流すように。

 流石にオリハルコン製の切っ先による一点の突きとなれば、盾でも防げないと判断したんだろう。

 頭の回るアンデッドだ。

 ただ力だけの存在ではないってのは理解できる。

 捌かれたので、刺突の勢いをそのまま活用してディザスターナイトを通過して逃げに転じる。


 肩越しに見れば、踵を返し、石棺を次から次へと破壊しつつ追いかけてくる。

 次にコクリコを確認すれば――、負けてない。むしろ二体相手に優勢。

 魔法と蹴撃で重量のありそうなリビングアーマーを押し込んでいた。

 ファイヤーボールが直撃すれば、爆発で動きが止まり、その隙を突いて背後からの膝かっくん。

 ゲッコーさんが以前は関節を極めようとしても意味がないと判断して実行しなかったけど、自重を支える足を狙えば姿勢を崩すことは可能のようだ。

 とはいえアンデッドは疲労がない。長期戦になればコクリコの動きにも乱れや隙が出て来るだろう。

 早々にこのディザスターナイトをどうにかしないと。

 

 ――ロングソードとファルシオンの丁々発止。

 数十合を交えてなんとか耐えて距離を取り、俺は打開策を巡らせる。

 アンデッドには炎。

 その炎が欲しい。

 地龍。リンやその配下のアンデッドとの戦い。 

 烈火をイグニースから圧縮して作り出したり、弱烈火を使用する時は、他の動作を行いながら同時に発動させていた。

 イグニースを発動し、それを変化させるという技量。

 イメージ集中なら、ファイヤーボールより難度の高いことを俺はやっているはず。


「だったら出来るだろうさ!」

 ラピッドによる接近に対してラピッドで距離を離し、飽きるほどに見てきたコクリコが唱えるファイヤーボールをイメージ。

 

 ワンドの代わりに左の掌。

 小さくてもいいから、まずはネイコスを利用し火を発生させる。

 火を留めることが出来たら、ネイコスを更に集めて火を球体へと変化させつつ大きくしていく。

 ソフトボールサイズになったら相手へと向けて、


「――――放つ! ファイヤーボール!」

 ――……プスン……。

 まあ、そもそも掌に火が顕現もしていない状態だったわけですけど……。

 口に出せばもしかしたら――って淡い期待からの動作ですよ。

 結果、掌から出たのは白煙だけですよ……。


「ま、いきなり出来るとは思ってませんけど!」

 火球は出なかったが、掌の白煙と一緒になって、悔しさは口からしっかりと出てくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る