ミルド領
PHASE-937【ただ部屋から出るだけ】
湖から公都へと戻って三日目の朝を迎える。
戻って一日が経過したところで、諸侯たちは自身の領地へと帰っていった。
湖で俺達の力を見た時は恐れしかなかったけども、あの後、俺が頭を下げたことで、圧倒的な力を有している人物でもああいいった事をするのかと、心底で感心していた者たちもいたと荀攸さんから話をきいた。
穏和な表情をしているからこそ話しやすかったようで、諸侯の中には荀攸さんに胸襟を開く者たちも多くいたそうだ。
加えてあの力が自分たちに向けられるのは避けたいという考えに至るのは必定であり、俺達への協力を約束してくれたという。
そんな自領へと戻る諸侯たち――主に奴隷を有していた者たち対して、ゲッコーさんはお別れの挨拶として【他人の自由を否定する者は、自らも自由になる資格はない。第十六代大統領エイブラハム・リンカーン】ってドヤ顔で述べていた。
聞かされる諸侯は大統領ってなに? エイブラハム・リンカーンって誰? って疑問符を浮かべたかっただろうが、眼光鋭いゲッコーさんからの発言だったからね。
素直に首を縦に振ることしか出来てなかったのが印象的だったな。
俺達が推し進める政策を受け入れるとなると、今までのように版図の拡大という事が禁止になるわけだから、野心を抱く者たちからしたらおもしろくないだろう。
が、その野心のままに傭兵やゲッコーさんのドヤ顔発言を無視して、禁止令の元で奴隷たちを使用した小競り合いをこれからも行ってしまえば、現状有している領地没収の改易となるのは分かっているからか、こちらの政策に対しても善処するといった形で受け入れるということになった。
野心まる出しにして俺達と正面切って戦おうなんていうカリオネルのような馬鹿があの場にいなかったことが救いだった。
裏ではコソコソと動く可能性もあるけど、特務機関インスペクターの設立は各領地でも受け入れる運びとなった。
特務機関をすんなりと受け入れた理由を先生曰く、特務機関である行政官たちを賄賂などで自分たちに靡かせ、逆に利用して悪銭による利を得られると考えているのでしょう。との事だった。
その考えは甘々だけどね。
各領地における筆頭行政官と特務行政官の任命と罷免の権利を有するのは公爵のみに限定し、それを諸侯たちにのませた。
こうなると適材適所の神である先生が俺に代わって行政官たちの任命を行ってくれる。
そうなれば賄賂や色欲に負けないだけの人材を選抜することになるので、裏でコソコソとしたい者たちはそれも出来なくなるという事になり、しっかりと監視もされるはめになる。
そうなれば現在の地位に執着するために、バリバリと領民の為に励んで成果を出す事に傾倒することだろう。
強者だけが俺の側に侍ることが出来る。カリオネルの馬鹿なその発言を鵜呑み――というか利用して権力を大きくしていたんだろうが、今後そういった手法は認めない。
これから高みを目指す為の方法は、領民やこの地、果てはこの世界の為に励んだかを基準として採点し、褒賞と地位の昇格や本領安堵となるわけだ。
しっかりと励めばこちらだってちゃんと形で表す。
ミルド領だけでなく、これから魔王軍に支配された土地を奪還するようになっていけば、功績によって新たな土地をあたえる新恩給与だって実行できるようになるだろう。
励めば励んだ分だけ還元される。
そういった意識改革はこの領地だけでなく、他の地でも実行していかないといけないだろう。
「ふい~」
自室からバルコニーへと出る。
本当に……呆れるくらいに広い。
庭園の花々を見下ろせる位置なんだけども、今は冬だから花々の派手やかさはない。
「というかバルコニーも広すぎなんだよ」
一区画だけでもフットサルくらいなら余裕で出来そうなんだよな。
無駄が多い屋敷である。
自室も広すぎて落ち着かないしな。
ギルドの自室でも広いと思ったのにそれを軽々と超える広さはもはや必要ないレベルだよ……。
深呼吸すれば冷たい空気が肺に入ってくる。
最近は考え事ばかりしてたからな。リフレッシュするにはこの冷たさは丁度良い。
本当は体によくないだろうけど、冷たい空気を取り込むのもいいもんだ。
火龍装備をしていなければ、今が冬なんだというのをしっかりと実感できる。
――バルコニーから自室に戻り、ナイトガウンからその火龍装備となり、マントを羽織る。
自室からリビング。リビングから次へと続くドアを開いたところで――、
「おはよう。ご苦労様」
「「「「おはようございます! 有り難うございます!」」」」
と、フルプレートの近衛兵六名による挨拶が返ってくる。
リビングから廊下に続くドアの間にある空間では、俺を守る近衛が待機している。
ドヌクトスでプリシュカ姫が使用していた自室と同じ感じだ。
あそこでも近衛がしっかりと待機していたからな。
俺が室内にいる時は、二十四時間体制で必ずここで待機。
初日はこれが凄く気になって嫌だったが、近衛兵の仕事の一つ奪うわけにもいかないので有り難く守ってもらっている。
廊下に続くドアを開こうとすれば、「自分が」と、一人の近衛が言うので素直に任せて開いてもらう。
これでようやく廊下に出られるわけだ……。
全くもって面倒くさいよ。
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