PHASE-999【抜刀一合】


「こすっからい」

 でも効果はあるよな。

 声には出さない。

 ここからの位置バレは嫌だからな。

 ホルスターからライノを手に取る。

 リロードはしてないけども、使いよう。

 マジョリカの後方に投げることで、ゴトリと地面から音を立てる。


「後ろか! 確実に首を刎ねてくれる!」

 体の向きが後方に傾くのが見える。


「と、その程度の陽動に意味はない」

 後方に体を傾けるようなフェイントからしっかりと正面に体勢を整えるマジョリカ。

 ゆっくりと目を開き、視界がよみがえってきているようで、正面から迫る俺を捕捉すれば、ほくそ笑む。


「笑むのはまだ早いし、何より笑んでる余裕はないぞ」

 こっちは最初から正面切って戦うつもりだったしな。

 目眩ましとわずかな陽動でもいいんだよ。

 俺が欲したのは、ようやく届いたこの刀の間合いなんだからな。

 

 動きが鈍くなった骨喰ほねばみ

 お陰で周囲からの脅威に気を散らさずに、俺も攻撃が可能となった。

 やっとこさしっかりとした一振りを見舞うことが出来る。

 後はぶつかり合ってどっちが勝つかだ。


「もちろんこの間合い――俺が制する」


「小僧! 我が間合いに入っていることも理解できんようだ!」

 美人が台無しになるくらいに歪んだ顔での発言は、見ていて残念になってくるので、


「しっかりと倒してやる」


「なめるな! 我が必殺の間合いだと言っている」


「分かってるっての!」

 実力はまだまだだけども、アイデアは意外と出せるんだよ。

 いつも痛みを伴うばかりのアイデアではあるけどな。

 

 俺が原因で退場した爺様。

 でも、その爺様が語ってくれたまたたきの神速抜刀のタネを聞かされれば、ロマンを抱くし、使用してみたいという欲求も生まれた。

 で、その欲求をアイデアによって満たしてやるわけだ。

 つまりはパクリ!

 スプレッド・ビーム的な目眩ましから立て続けのパクリアイデアでね!


「ブレイズ!」


「馬鹿め! 窮したか」


「と、思うだろ」

 鞘に入れたままにブレイズを発動すれば誰だってやらかしたと思うよな。


「おぉぉぉぉぉ!」


「死ね!」


「だからお断り!」


「なっ!?」

 毎度の事ながら戦いの中でアイデアを生み出し、行き当たりばったりで発動するという全くもって褒められたものではないけども――、


「どんなもんよ! 行き当たりばったりから臨機応変に改名してもいいんじゃないか!」

 神速の抜刀に対して、こっちも神速の抜刀に成功。

 

 抜刀と共にありったけの感情も噴き出す。

 死にかけたこと、そこからまた死に追いやろうとする人物と戦わないといけないこと。

 恐怖に縛られつつもそれを断ち切って挑まないといけない勇気。

 でも逃げ出したい葛藤。そういった様々な感情を抱きつつも最終的に戦いに挑む。

 勝つか負けるかは分からないけども、それに挑む事こそが勇者なんだろうさ。

 だからこそ無理矢理にでも成功させないといけないんだよね。

 生き残る為に!


「私と互角!?」


「互角じゃない。俺の勝ち!」

 俺の神速の抜刀はマジョリカのように静寂で綺麗と呼べるものではない。

 爆発音にも似た音を発しながらの騒がしい抜刀。

 納刀状態でブレイズを発動すれば、鞘の内部に留められない刀身を覆う炎は、ジェットエンジンを思わせるような推進力となってくれる。

 その勢いと自身の膂力で鞘から走らせた抜刀術は、しっかりとマジョリカの神速の抜刀術に追いすがる事が出来た。

 

 炎の軌跡が出来る分、ど派手で目立つから、静かで鋭いマジョリカの抜刀と比べれば下品だけども、ど派手好きの人なら俺の抜刀が好みだと選んでくれるかもね。


 そして――触れ合う一合の刃は激しいものだが、火龍の鱗からなる残火と、ミスリル刀であるまたたきは、その激しさとは裏腹に涼やかな音色を奏でた。

 

 ぶつかる刃。俺の勝ち宣言。

 速度はほぼ一緒。となれば決着は双方の膂力の差。

 力の差は、この戦いの中で俺が上だというのは分かっている。


「おらぁ!」

 裂帛の気迫と共にミスリル刀を押し切れば、たまらずマジョリカは手にしていた愛刀をその手から放してしまう。


「小僧がぁ!」


「分かってるよ!」

 次なる一手は紫電による一撃だろう。

 鞘へとわずかに目を動かせば、鯉口辺りが紫色に光り出していた。

 だがそれよりも更に速くマジョリカの美しい顔が大きく歪み、衝撃に耐えられず、俺から見て体が右側に吹き飛んでいく。


「隙の生じぬ二段構えってのは俺も出来るんだよ」

 ありがとう流浪人。また救われたよ。

 マレンティ戦でも使わせてもらった技を今回も使用させてもらいました。

 左手にて逆手で握った鞘。

 それで女性の顔を殴るなんてのは本来はよくないだろうが、生死をかけた戦いの中では絶対に手を抜くわけにはいかない。

 今までの戦いで培った経験から躊躇を振り切って、全力で鞘を振り抜けた。


 マレンティ戦では片手の抜刀は非力だったけど、今の俺があの時のマレンティと戦えば、片手の抜刀だけで倒すことが出来るだろうな。

 ――過去と今の自分を比べることはアホらしいけどな。


 だが、そんなアホらしい事を考えられるくらいの余裕が生まれたのも確か。

 クリティカルだ。

 自分でも驚くくらい、綺麗に顔に入った。


 ――……もしかしたら死んでいるかもしれない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る