PHASE-998【スカート付きを見習って】

「罵声よりも息切れの方が目立っているようだぞ」


「そりゃ気のせいだ」

 ――……くそっ! 余裕の笑みだな。

 本当に、それだけの実力を持っていながら!


「何を怒っている? 目が険しいぞ」


「あんたが……言うなよ」

 こっちの発言で何度か怒りを抱いてたくせに。


「ほら、やはり息切れしている」

 確かにこのままだとジリ貧一直線だ。

 躱すだけで精一杯。その内スタミナが切れたら全方位からズタズタにされる。

 

「さあ、終わりにしてやろう」

 抜刀の構えで俺を迎え撃つ姿勢。

 マジョリカ自身が自負して信じ、必殺に位置づけているのが、愛刀による抜刀術なんだろう。

 サーバントエッジにてこちらの動きを自分の必殺の間合いへと誘導し、神速の一振りで首を落とすといったところか。

 

 ――……予想は出来ても対処が出来ないんじゃ意味はないよな。


 躱して防ぐだけでは攻略は不可能。

 一瞬だけでいいから互いの刀の間合いの中で動きを止められればいんだけども。

 現状、それが難しい……。


「そら」


「ちぃ!」

 十二の刃からなるオールレンジ攻撃のような存在である骨喰ほねばみ

 アクセルを使用して振り切ることは出来るし、マジョリカに接近も可能ではあるけども、そこで行き詰まり。

 俺が姿を見せた途端に一気に全方位から迫ってくるからな。

 どうしても攻撃に転向する前に阻害される。

 分かったことがあるとするなら、骨喰はオートではなく、マジョリカが間違いなく操作しているってことだな。

 だからアクセルによる高速移動の軌道にはついてこられない。

 術者が目で追えてないから。


 ――本当に、一瞬でいい。

 さっきみたいにウォーターカーテンとイグニースを利用した水蒸気での目眩ましも考えるけど、一度見られている以上、対処してくるだろう。

 それに接近時において水蒸気となると、俺も視界を妨げられるからな。

 向こう側の視界だけを奪える方法を欲したい。

 こっちは発動が分かって事前に対応でき、相手は出来ない。

 となると――ついゲッコーさんを瞥見。

 スタングレネードって素敵やん。

 でも持ってないやん……。

 

 回避しつつ次に目に入ったのが、ゲッコーさんの側に立つリンとマジョリカの――鞘。

 あの鞘にはタリスマンが複数埋め込まれ、インジェクションなる下位の風魔法に反応し、V3みたいな発想によって神速の抜刀を可能としている。

 で、リンの説明だと、インジェクションは本来は相手の目の前で風を起こして牽制するって魔法。

 正に今、俺に欲しい魔法。

 でも使えない……。

 となると生み出すしかない。


 ワック・ワックさんが作ってくれた火龍の籠手。

 埋め込まれたタリスマンによって火龍の力を引き出し、俺でもイグニースという強力な炎の障壁魔法を顕現させる事を可能としている。

 加えてイメージすることで様々な形状にさせることも可能にしてくれている。

 半球状の障壁にスクトゥムサイズの盾や、収縮させての強力な攻撃である烈火だって使用できる。

 改めてワック・ワックさんの才能に感謝。


 うむ! 俺はこれまでイメージで状況を打開してきた。

 それを可能としてくれる装備があったからこそ。

 だからこそ、ここでも新たにやるっきゃないの精神でやるっきゃない。

 今回は相手の動きを少しでも妨げる牽制技をイメージ。

 

「――出来る! 俺は出来る子だ!」


「焦りから本格的におかしくなったか」


「さあな。そちらの想像にお任せするよ」

 動きながら烈火を練ることが出来るようにまで成長してんだ。

 牽制技くらいなら、既に出来て当然なんだよ。

 

 ――イメージとしては放射させるって感じかな。


「よっしゃ! イグニース」


「結局は防御一辺倒か」

 そう思いたければ思えばいい。

 だが今回は、半球でもなくスクトゥムでもない。

 バックラーサイズだ。

 ここからイメージを始めさせてもらう。

 戦闘中に動きつつ、新たな事を始めるのは厳しい冒険ではあるが――、


「弱音は吐けない」

 独白で奮い立たせる。

 何たって目の前の相手は十二の刃を操りながら、俺に神速の一太刀を入れようと画策してんだからな。

 同時進行で多数のことをこなしているってのは俺以上の芸当だ。

 そんな姿を見せられて厳しいなんて言い訳でしかない。


「本当に、尊敬するぞ」


「また侮辱――とは思うまい。ここまで言われれば素直に受け取ってやる」


「有り難いね」


「が――死ね」


「お断り!」

 飛んで。跳ねて。捻って。伏せて。立って即、疾駆――。これらを繰り返して必死になって骨喰を躱す。

 ひたすらにバックラーサイズのイグニースは使用せずに躱すだけ。


「シールドバッシュでも狙っているのか? だがそれでは届かないだろう」


「その前に抜刀の間合いだからな」

 腕で刀身のリーチ差に勝てない事なんて分かってますとも。


「!? 痛え……」

 接近する最中、骨喰が頬をかする。

 右頬から痛みが生じ、直ぐさまそれが熱さに変わる。


「馬鹿が飛び込んで来る。抱擁でもしてほしいらしい」

 なんで一々と挑発の中に妖艶さを含めてくるんだろうか。

 童貞には辛いところ。


「我が間合いだ」

 必殺の抜刀。

 腰が深くなり、足に力が入っている。

 抜刀に集中しだしたのか、骨喰の動きが鈍くなったように見える。

 やはり家宝であり愛刀のまたたきを使用しての抜刀術で、トドメを刺したいというこだわりがあるようだ。


 だがここが俺にとっての好機!

 頼むぜ――俺!

 バックラーサイズのイグニースをマジョリカの方へと向ける。


「サイズは小さいが半球よりは分厚い分、斬るのは難しそうだ。が、顔を守っているだけで胴はがら空きだ」

 その胴を両断すると耳朶に届いたところで、


「おらぁ!」

 イメージする言葉を口に出したかったが堪える。

 本当は放射や拡散って発したかったけども、言葉で悟られる可能性もあったことから、気迫だけを口に出す。

 抜刀の間合いに入る前にしっかりと足を止めてからの発動は、失敗した時を考えてのもの。

 動きを止めた時点で骨喰に狙われるが、抜刀術による確殺の一振りよりはマシだと判断。

 どっちみち全包囲攻撃が当たれば無事ではすまないけども、一撃死よりはマシ!


「!? 貴様っ!?」

 愛刀の柄から手を放し顔を覆ったマジョリカの姿。

 つまりは――、成功。

 マジョリカからしたら、眼前のバックラーサイズからなるイグニースが突如として粒子へと姿を変え、炎の輝きが拡散したかのように見えたことだろう。

 俺は発動と同時に目を閉じたから、目は眩まずにすんだ。

 

 スプレッド・ビームをイメージさせた目眩ましは、無事成功。


「これで終幕!」

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