PHASE-997【シージダンサー】
「訂正しよう。寝室にはもう行けないな。棺桶の中で楽しめ。お願いだから私の事は材料にしないでくれよ」
なんて馬鹿にした笑みだ。マウント取られた時は怒り心頭だったくせに。
それに女性がなんて下品な発言をするんでしょう。はしたないったらありゃしない。
でもって、材料発言で一瞬だけどマジョリカで想像した自分が恥ずかしい。
振り払うように首を左右に強く振ってから、
「ちゃんと教育してやる」
「小僧に受ける教育などない」
「まずはそういった言葉づかいからだな。後な――妄想じゃねえ! 特撮だ!」
「死ね」
会話はもういいとばかりに飛んでくる十二本の刃。
グリップの無い投げナイフは、への字からなるククリナイフのような形状。
凶悪な風切り音を発しながら俺へと迫る。
「ふん!」
ギンッと音を立てて残火で叩き落としても直ぐに次が飛来。
しっかりと見切れる事は出来ているけども、いかんせん数が多いし、
「斬れずに叩き落とすことしか出来ないってことは、これも魔法付与がされてんだな」
ほのかに青白いからミスリルコーティング製。
「我が十二の刃からは逃げられん」
確かにこれは面倒な攻撃だ。
回避と防御に傾倒して反撃が難しい。
「フリーズダート」
「なろ!」
十二の刃に加えて、本人も魔法を使用してくる。
遠距離攻撃による多方向からの攻撃は、改めて脅威だと理解する。
ショゴスのクリスタルで支配されていた火龍のリフレクタービットみたいな攻撃を思い出すね。
あの時はベルに守ってもらったが、
「ここでは一人で対応か。まあこの程度の相手を一人で倒せないなら先が見えてるからな!」
「一度死にかけていてよく言う」
「生きてるだけで丸儲けって偉大なコメディアンも言ってるしな。生きてりゃ再起なんていくらでも出来るんだよ」
「くだらん! 何が再起だ! そう言うのは我が十二の刃である
刹那のマジョリカ。
「俺やコクリコ、ゲッコーさんの琴線に触れるネーミングばっかだな。センスあるぜ!」
「侮辱として受け取ってやる」
「素直に受け取れよ」
離れた位置から「まったくです」「まったくだ」と聞こえてくる辺り、やはりあの二人もマジョリカの別称と武器名はお気に入りのようだ。
「行け!」
声に反応するように十二のミスリルコーティングからなる刃が放物線を描く。
俺がマジョリカへと迫れば、それらが全方位から襲いかかってくる。
アクセルで一気に距離を詰めて、マジョリカ自身も骨喰の巣の中に入れてやろうと画策するが――、
「漫画なんかと違って、上手くはいかねえな」
結局は距離を取る。
アクセルから繋げる神速の抜刀術はまだまだ発展途上のようだが、このサーバントエッジに関しては完成されていると見ていい。
俺の背後から迫ってきたのをマジョリカの目の前で躱してみたけど、主に対しては絶対服従といった感じでピタリと目の前で止まる。
骨喰の一つ一つに意思があると錯覚するほどに、マジョリカの十二の刃を操る技術は熟達している。
「逃げられんと言っている。バーストフレア」
十二の刃と、連鎖爆発の上位炎爆魔法。
刃を十二本操りつつ、魔法も発動するんだもんな。剣術だけでなく魔術も高レベルの存在。
「あんた凄いな」
「侮辱として受け取ると言ったはずだが」
どんだけ捻くれてんだよ……。
素直にそこは受け入れればいいのにな。
今まで過ごしてきた世界がこんな性格にしたんだろう――、
「ねっと!」
「上手く躱すな」
「褒め言葉としてしっかりと受け取らせてもらう」
俺みたいに素直になってほしいね。
「だが躱すばかりでは何も生まれないぞ」
「生み出すためにいま考えてんだよ」
実際は回避に手一杯で、考えること自体が難しいけどな。
「そら」
「ああもう! イグニース」
全方位からの波状攻撃にたまらず半球の障壁を展開。
コクリコの頼りすぎって発言が脳内で再生されるけど、対処が難しいんだよね。
「いつまで耐えられるやら」
不敵に笑んで言うだけあって、抜刀術ほどではないけども、炎の障壁に骨喰が全方位からぶつかってくれば、徐々に亀裂が生じ始める。
ミスリルコーティングによる切れ味と、魔法付与による対魔法への強味。
「ええい!」
結局は耐えることが出来ずに再び全方位からの攻撃に逃げの一辺倒。
有り難いのはアクセルの動きまでにはついてこられないところだけど、それでも短距離移動しか出来ないアクセルだと、姿を見せれば瞬く間に刃により包囲される。
これがベルなら迫ってくる刃を全部叩き落とす――叩き斬るってのを容易くやってのけるんだろうけど、高速で迫る十二の刃すべてに対処できるほどの芸当を俺は有していない。
わずかな隙を必死に見つけて、
「マスリリース!」
マジョリカに向かって、遠距離から光斬にて狙うも、
「私には届かん」
プロテクションでしっかりと防いでくる。
攻防において俺は劣勢だというのが分かるね……。
「普段なら仕留めている。お前は耐えている方だ。流石は勇者と思ってやろう」
言いつつマジョリカの向かう先は――、
「クッソ!」
こっちは必死になって回避に専念しているってのに、悠々とした足取りで俺が奪って投げた鞘をしっかりと回収していた。
納刀する表情は勝ち誇った笑み。
「我がサーバントエッジによる包囲攻撃・シージダンサーから抜け出すのは容易ではないだろう」
何それ。火星辺りで幅を利かせていそうな部隊名そのものだな。
弾幕のロマンを感じるね。
でもロマン以上に沸々と怒りがわき上がってくる。
これだけの技に昇華させるには血の滲む努力をしたはずだ。
だというのに、この領地で領民に迷惑をかけるだけの傭兵団のトップとか――。
「馬鹿じゃねえの!」
力の使いどころが勿体なさすぎてイライラとしてしまし、自然と罵声が出てしまった。
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