PHASE-904【いい殺陣】

「楽しんでるなお前」

 構えからの台詞を目にして、ゲッコーさんがなんとも羨ましそう。

 こういったノリは好きでしょうね。

 コクリコがこの場にいれば間違いなく斬って候をメモしてたことだろう。


 で、構えて見合ったところで――BGMを脳内再生。


「いやぁぁぁあ!」

 構えて早々に斬りかかってくるってのもお約束だな。分かってるね。

 裂帛の気迫と共に斬りかかってくる傭兵の一太刀を躱して鞘で打擲。

 続けざまに迫ってくる傭兵たちをバタバタと叩き伏せていく。


「流石です」

 喜ぶカイルが段平で吹き飛ばす。

 俺が鞘を使用しているからか、段平の刃ではなく刃幅の広い側面で迫ってくる者たちをバンバンと叩いていく。

 あれはあれで重量級の打撃武器だよな。

 手心を加えているようだから死ぬことはないだろうけど、この中で一番受けたくない攻撃だろう。

 だからなのか結構な割合で俺を襲ってくる。


 あとは――、


「へへ――」

 アホな笑みを湛えてマイヤへと襲いかかる者たちが多い。

 でもカイルに手も足も出ないんだから、


「気持ちの悪い」


「ぎゃん!」

 当然ながらマイヤにも手も足も出ない。

 撓る鞭が胴体部に当たれば、鎧の装甲など無意味とばかりに威力が体に伝わり、一撃でダウン。


「ああ!」

 ちょっと待て……。今の奴の声には恍惚なのが混じっていたような……。

 ――……気のせいじゃなかったのは、倒れる時の表情で理解できた。

 なんとも幸せそうな顔をしていた……。

 流石は傭兵団とは名ばかりの珍妙団。

 しっかりとドMの変態もいる。


「でぇぇい!」

 背後からの一撃を躱して胴打ち。

 続けざまに上段から迫ってくる相手に面抜き胴。

 重なるようにして倒れる。


 ――やはり攻めるなら俺やカイルより美人マイヤといった感じで次々と群がっていく。

 さながらマイヤは誘蛾灯だな。

 マイヤにばかり群がろうとして隙だらけとなった連中は、カイルに側面から攻められて倒されていく。

 美人に挑みたいのに筋肉隆々な偉丈夫に倒されるという悲しいルートを歩むがいいさ。

 

 肩越しに見ればゲッコーさんは相変わらずといったところ。

 羨ましがってたわりに、手を出す事もなく煙草を楽しんでいた。

 長テーブルに上半身を預け、ゆったりと座って紫煙を燻らせている。

 誰がどう見ても隙だらけなのだが、誰も戦いを挑もうとはしない。

 本能が警告を出しているんだろうな。

 あの男とは絶対に戦ってはいけないと。


「せい!」


「よいしょ」

 槍の一突きを避けて距離を詰めてからの小手面の二連。

 面打ちは優しく打ち込んで上げる。


「しっかりしている兵士もいれば、裏通りでは怠慢なのもいる。質はピンキリだな。ここにいるのは調練を怠っていない面子のようだ」

 槍の一突きは速くて鋭かった。

 傭兵団と違ってマイヤに群がることもなく。しっかりと連携をとって主に近づけないようにしている。

 いい連携だけども、それを掻き乱すように俺がラピッドで入り込む。

 入り込んで乱れが生まれたところに鞘を打ち込んでいって無力化。


 ――――部屋から場所は移り通路での戦闘へと移行。場面が変わるのもお約束。


 しかし――、


「もう少し頑張れ。とくに兵士たち。しっかりと調練はしているようだけどまだまだだぞ」

 ゲッコーさんやベルが俺に言うような事を俺に言われる時点でまだまだだ。

 

 ――更に場所が変わり庭園。

 いいね。終局だね。

 取り巻きも残すところ兵士が二人。

 オロオロとする男爵は商人を盾にするようにして立ち、その商人は貴族には逆らえないからか、俺と男爵に忙しなく首を動かしてどうするべきかと考えているところ。


「やぁぁぁ!」

 兵士が気迫と共に上段の構えで迫り、それに遅れてもう一人が刺突の姿勢で続く。

 上段に対してがら空きになってる腹部に胴打ち。

 膝から崩れ落ちて沈黙。

 次の刺突に対しては、切っ先部分に鞘を打ち付けて払いのけ、剣に振られて体勢を崩したところに下段からの斬り上げで打ち倒す。


「おお!」

 最後に倒れる兵士に思わず感嘆の声を出してしまった。

 海老反りになって豪快に倒れる姿は芸術的だった。

 まるで五万回斬られた男という異名を持つ偉大な先生のようだったぞ。

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