PHASE-1667【禍々しい毛糸玉】

「では頼むトール。反応したところに刺激を与えてくれ」


「う、うむん……」


「どうした?」


「感知する事は出来るんですけども……」

 なんとも頼りない返ししか出来ない俺を許していただきたい……。

 頼りない姿と語調から悟ってくれたのか、


「そうか、開くのは出来ないということか」


「お、おう……。すまん……」

 リンはフィンガースナップを一度ならして空間を刺激し、隠されたジャンパーを顕現させたけども、俺にそんな芸当は無理だ……。

 地力による習得魔法は中位魔法のウインドスラッシュまで。

 ジャンパーは上位魔法。しかも闇魔法ときている。

 火、水、風、地の四大元素を混ぜ合わせて使用する最高位に位置するのが闇と光。

 俺の実力で複合系魔法――しかも最高位は土台無理です……。


「どうしたものか」

 ――起動させるだけならもしかしたら、


「フンスッ!」

 体外マナであるネイコスによるイメージ。

 念仏を唱えるように開け! と、心中で願うも……無理……。


「ティンダー!」

 と、火属性の初歩を使用し、ゾワゾワと伝わってくる箇所に刺激を与えてみるが――反応はなし……。


「やっぱり無理か……。すまん」


「いや、この場所が本命と判断していいだろう。そこを突き止めただけでも大きな収穫だ。魔法が扱えない私では気づく事が出来なかった。トールの功績は大きい」

 ベルのフォローが心に染みるってもんだ。


「一度、戻るか。現状の面子ならジージーだといけそうな――!?」


「上!」

 ベルの警戒。

 警戒の声よりも早く俺も対応。

 抜剣からのロングソード。

 狭い坑道内。脇を締めて最低限の振りにて、上から落ちてきた対象へ迎撃の横薙ぎ。

 勢いよく側面の壁に叩き付けてやれば、ベチャリと水気のある音。


「ブルルル……」

 両断は出来なかったが手応えは有り。

 ダメージを受けたからこその鳴き声……。


「……鳴き……声なのか?」


「な、なんだコイツは……」

 フラッシュライトでベルが照らせば、瓜実顔が曇った表情になる。


「明らかにベルが苦手なタイプだな」

 ビジョンで捕捉する全体。

 赤黒い表面はテラテラとし、触手が数本伸びている。

 というか触手が一塊となった体のようだ。

 そこから一部の触手を伸ばして手足のように使用するといった感じかな。


「見た事のない気持ち悪さだね」

 ミルモンからも見た目が最悪と評価を受ける、天井から突如として現れたクリーチャー。

 

「まだ来るぞ」

 ベルが発したタイミングでベチャベチャと三体が落下。

 さっきまで天井にはなんの異変もなかったのにな。


「どこから出てきたのだ……」


「あれか? 俺がネイコスを発動した事でコイツ等がそれに反応したとか? さしずめコイツ等は番犬ってところかな」


「犬ならどれほど良かったか……」

 やっぱり相手にするのは苦手そうだな。


「ベルは下がっててくれ」


「いや、私もやろう」


「いいから。普段とは違った装備。これで何処までやれるかというのも試したいからな」


「殊勝だな」


「それに――」


「なんだ?」

 羽織り物をしているとはいえ、半裸みたいな姿で触手系の相手とか……。俺の頭がけしからんエロエロな妄想に染まってしまうからな。

 目の前の相手にだけ集中するためにも、単独で頑張らせてもらう。


「ブルルル……」

 鳴き声のようでもあるが、丸まった触手が震える事で発生している音と判断するべきか。

 

 触手――というか、


「腸のようだな。腸が意思を持って動いているみたいだ」


「その例えは的確だな」

 腸が毛糸玉のように丸まったクリーチャーが四体。

 

 初手で迎撃したのも健在とばかりに姿勢を整えてこちらへと向かってくる。

 ちょっとした斬撃には耐性があるようだな。


「兄ちゃん!」


「おうよ!」

 空中を蛇行して迫る腸のような触手による鞭打。

 ロングソードにて叩き斬ってやれば、


「うえぇ……」

 斬った部分から勢いよく体液が飛び散る。

 濁った黄色い体液。

 かからないように横移動すれば、そこに合わせて別のが仕掛けてくる。


「なんの!」

 左前腕に固定したバックラーで弾いてからの斬撃でこれまた叩き斬る。

 

 対応して分かるのは、


「問題ないな」

 弱い。

 弱いが――、


「痛覚はないと見ていいかな」


「だろうな」

 後方で見守ってくれるベルも同意見。

 斬ってもダメージを受けたというリアクションはなく、ゆるゆると全身を震わせ「ブルルル……」と音を発しながら接近してくる。

 初手のは痛みからの音じゃなかったようだな。

 

 移動自体は遅いけども、鞭のような攻撃はそこそこ速い。

 でも、今の俺なら対応は難しくない。

 上方から叩き付けてくる一撃をバックステップで躱しつつ、


「マスリリース」

 横一文字にて三日月状の黄色い斬光を放つ。

 同色の燐光と共に直線の軌跡を描きながら一体に直撃。

 禍々しい毛糸玉のような丸い体のど真ん中から上下に切り裂くも――、


「マジかよ」

 斬った部分の上下がお互いに触手を伸ばして絡み合えば、再び元の禍々しい毛糸玉に戻る。

 

 弱いが面倒なタイプだな。

 痛覚なし。斬ってもそこから互いに接合。

 赤黒くただれた表面に濁った黄色い体液。


「コイツ等アンデッドだな」

 うん、間違いない。だってコイツ等が出てきた途端、坑道内に腐臭が漂ってきたもの……。

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