PHASE-1666【伝わるゾワゾワ】

 立哨が守っていたドアをゆっくりと開く。


「ここはオイラが」

 自分も活躍したいとばかりに雑嚢からミルモンが飛び出せば、わずかに開いたドアから先行して進入してくれる。


 しばらくして頭だけをこちらに出してくれば、問題ないとのことなので、俺たちもお邪魔する。

 

 ――開いた先は暗闇であり、人の気配はない。

 通路に沿っていくつかのドアがあるので一つ一つを調べていく。

 

 ――ふむん。


「人の気配はなし。室内も使用している形跡がないし、何より厩舎みたいな造りの区画もあったけど、その部分も使われた形跡がなかったよな」

 

「そうだな。となれば、あの巨大な鶏はどこから運ばれてきたのか」

 そういった謎がまた生まれるよね。 

 暗闇に支配された通路。室内はひっそりとして不気味でしかない。

 洋館で暗闇とか完全にホラーゲームだよ。

 ゾンビとか御免だぞ。

 カイメラが相手となると前例があるからな。

 ゴブリンゾンビなんてのもいたし、他にもアンデッド系が多かったからな。

 装備もいつもと違うからより慎重に立ち回らないといけない。

 

 ――一階のドアは残り三。

 開いたところでやはり一緒――だったのだが、


「トール」


「違和感でも?」

 問えばベルは暗がりの中でもしっかりと食指を向ける。

 向けるのは床。


「あそこから気配でも?」


「ああ。入って直ぐに感じた」

 人の気配でも察知したのかと思ったが、そうじゃなく床の方向からすきま風が吹き、自分の体を撫でたという。


 近づいてみれば――、


「確かに」

 冷ややかな風が床から漏れ出ている。

 ご丁寧に手掛け穴もあるな。


「開くぞ」


「ちょっとだけ開けばオイラが先に見てくるよ」


「頼む」

 手掛け穴に指をかけてグッと開けば、意外と軽かった。

 この部分だけ白亜の石床に似せた木製の物からなっていた。

 開くと同時にミルモンが羽を動かして飛行し、スルリと入っていく。

 

 しばらくして、


「階段を下りたところにまた通路があるよ。坑道みたいな造りだね。下りる?」


「下りてみるか?」

 ベルへと問えば、


「無論」

 短い返し。

 俺が先頭で階段を下りる。

 三十段ほどからなる階段を下りきれば、


「確かに坑道のようだな」

 坑木によって支えられた造りはドワーフの所でも目にしたけども、あちらは妥協を許さない凹凸のない坑道だったが、こちらはそこまでの配慮はされていない。


「歩行に支障はないか?」


「心配ない」

 ヒールの高い履き物だけどもベルは問題ないそうな。

 普段からヒールの高いブーツで大太刀回りしているからな。

 

 当然、ここにも灯りはなし。

 

 ビジョンが使えないベルの為に少しくらい明るさがあった方がいいだろう。

 夜目が利くから当人は現状でも問題ないと言うけども、足元が悪い中で視界も普段より制限されているのはよろしくないからな。

 雑嚢からフラッシュライトを取り出し、足元だけを照らしながら進む。


「寒いね」


「日の当たらない坑道ってこんな感じなんだろうな」

 普段、火龍装備だから寒さなんて感じないけど、現状の装備だと肌に纏わり付いてくる冷たさが煩わしい。

 

 ミルモンへと言葉を交わす中で、


「この寒さは単純な寒さだけではないようだ」


「と、いうと?」


「悪寒からも来ていると思う」


「悪寒か――。ベルがそう言うなら、この先には――」


「間違いなくいるな。殺意を持った存在が」

 ならばいつでも抜剣できるようにしとかないとな。

 ロングソードの柄に手をかけつつ進む。

 所作の最中、ロングソードは失敗だったとも思ってしまう。

 動きが制限される坑道内では、剣身の長いのを扱うのは難しいからな。

 こんなことなら上半身裸にして抱き合わせた野郎から、ショートソードをもう一振り拝借しとけばよかったな。

 

 ――坑道を真っ直ぐに進む。

 一本道で迷う事はない。

 

 更に進めば――、


「ぬう……」

 行き止まり。

 壁に遮られて道はない。


「どこかに隠しスイッチとかあるのかな?」

 言いながらミルモンは行き止まりとなった壁の四方を羽をパタパタと羽ばたかせて見回るが、そういったギミックは無いようだった。

 天井を見ても何もなし。

 この坑道はまだ完成していないのだろうか?

 それにしては作業途中のような形跡はない。

 掘り起こしたら必ず出てくるはずの石や土が完全にこの坑道から持ち運ばれているようだし、坑木や掘削用工具も置かれていない。

 となると、この状態が完成と考えるべきか。

 考えるべきなら――、


「何をしている?」


「ベルに出来ない事を俺が出来る事だってあるんだぞ」


「なるほど」

 理解が早くて何より。

 コクリコと比べれば足元にも及ばないし、シャルナ、リンと比べれば足元すら見えないけども――、


「俺だってマナ――ネイコスは使える」

 目を閉じて意識を集中。

 確かネポリスでは、リンがネイコスが一点に集まっているから容易に感知できたって言っていたよな。

 

 ここもそれと同じ工夫なら――、


「お、おお!?」

 目を閉じ手を伸ばして周囲に意識を集中すれば、ある箇所で掌にゾワゾワとした感触が伝わってくる。

 ここにラブコメ要素が加われば、周囲を探索している最中にベルの胸を揉むというおいしいイベントが発生したんだろうけど、残念な事にそんなラッキースケベは舞い降りず、ムニュムニュではなくゾワゾワを感知。

 

「見つけたか?」


「おうよ! 行き止まりの真ん中じゃなくて、右側の方向から感じる。十中八九ここにジャンパーが隠されていると思う」


「そうか。よく見つけたな」

 お手柄だと大層に喜んでくれる中佐殿。

 うん……。喜んでくれるのは嬉しい限りなんだけども……。

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