PHASE-602【追い込んでいきたいところ】

「キュゥゥゥゥ」


「はぁ~なんと愛らしい」

 ベルの発言に照れるように、後頭部ならぬ背部を掻こうとする仕草。

 もちろん短い手なので届いていない。でもベルの心は、その愛らしい動作で大いに打ち砕かれている。


「よそ見が過ぎるわよ! その油断が命取り!」

 目の前で相手にされていない事に、プライドが刺激されたアルトラリッチがお怒りとばかりに剣を取り出す。

 宙空からの製作されたものだった。

 ゼノが血の剣を作り出した時に使用したアローンクリエイトと同じ魔法だろう。あいつは血だけど、アルトラリッチは大気から作り出したようだ。

 高等な術者ともなれば、無から有も作れるのだろうか?


「これは油断ではなく余裕だ」

 いや、さっき俺が言った台詞をまんま言ってるだけじゃんよ。

 俺が言った時は怒ったのに自分はいいんだな。

 まあ、いいのか。実際に余裕なんだろうし。

 作り出された青白い輝きを発するアルトラリッチの片手剣は、ベルのレイピアによって剣身を呆気なく断たれる。


「急ごしらえでもミスリルに匹敵するだけの強度の剣を容易く……」

 まあほら、アンブレイカブルなる極位魔法も斬るからね。そのくらいは容易いんじゃないの。


「ミスリルというのはああやって逞しく愛らしい者だ。貴女の剣などと一緒にされては彼に失礼だろう」

 ――……可愛いものを優先し始めると、ベルは訳の分からない事を口にするから困るんだよね。


「詰みじゃないか。アルトラリッチ――リン・クライツレン」

 下方から俺が問う。

 状況は圧倒的に俺たち有利。

 グレータースケルトンをいくら呼び出そうとも俺たちは倒していく。

 緑光が波のように律動するクリスタルの床の上には、金属装備のグレータースケルトンたちの成れの果てが転がる。

 まあ、出現した時から成れの果てではあるんだけども。

 そんな成れの果ての光景を見渡す事が出来る位置にいるのだから、俺が言わなくても追い詰められている事は本人も分かっている事だろう。

 

 俺としてはドロップした装備をいただいて大儲けしたいけどね。

 などと邪な考えをちょっと抱いてしまう。

 ――――時間が来たようで、グレーター相手に無双の大活躍をしてくれたゴロ丸が俺に一礼すると、サムズアップしながら床に沈んでいく。

 溶鉱炉に沈んでいけば屈指の感動シーンになりそうだな。


「ああ……」

 一人だけやけに寂しそうな声を出すのがいるけども……。

 ゴロ丸は時間制限あるからしかたない。また呼んでやるから今は我慢して目の前に集中しろと言ってやりたいよ。

 

「さて、トールの言うように詰みだと思うぞ」

 言って余裕の一服を始めるゲッコーさん。

 この力の間に入ってからは気分が悪いと言っていたシャルナだったけど、サポートで大活躍。

 息も整い、今では鏃をリン・クライツレンへと向け、弦を引いた状態で待機。


 ――そして、


「これが私達の力ですよ!」

 元気いっぱいのコクリコが声を張り上げる。

 なんか吹っ切れた感もある。若者は失敗や挫折をしても直ぐに立ち直って挑戦すればいい。の、お手本みたいだよ。

 赤く貴石を輝かせる。通用しなくてもいい。ただそうやって戦う姿勢を見せて気勢を発するだけでも――、


「生意気な子ね……」

 ってな感じで、強気だったリンも、コクリコの動作で気圧される事だってあるわけだ。


「アンデッドは精神耐性には強いはずなんですがね。随分と表情が引きつってますよ」


「本当に生意気!」

 ターゲットをコクリコに変更しようとしても――、


「プロテクション」

 シャルナが発せば、

 コクリコとリンの間にベルが立つ。もちろん空中で。

 完全に障壁を板の代用にしているな。

 でも便利だなプロテクション。これが可能なら、城攻略などで最初の難関となる城壁を飛行魔法を使用しなくても簡単に登攀とうはんできそうだな。

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