PHASE-652【なぜに調理器具】

 得意げに罠の事を指摘した俺だったけど……。

 ――……あれですよ……。罠の事なんて知りもしない素人が、しゃしゃり出るなって事でしたよ……。

 

 ガキン! と、思った通りの劈く金属音が通路には響いた。

 が、俺の予想と違って、天井から無数のトゲが床に向かって落ちてくるっていうね……。

 隆起した部分を押した松明の先端が潰されて、へし折られる光景……。

 そらそうですよ。隆起した部分を踏むことで、その地点で罠が発動しないと意味ないもんね。

 壁側面の狭間は隆起した敷石の先だもんな。発動しても意味のないところだもんな。

 とにかく無事でよかった。松明を一本無駄にしてしまったけども、必要な損失だった。

 もしイキって足で踏んでいたら……、間違いなく死んでた……。

 

「あの――トール?」


「……と、この様に天井からトラップに襲われて頭からグサリとなるわけだ」


「よく気付きましたね」


「まあ、俺にはビジョンがあるからな」

 なんとか誤魔化す。

 調子に乗って壁の側面を注視するんだ。なんて言わなくてよかった。

 絶対に馬鹿にされてたからな。


「となると、この横の穴はなんでしょうね」


「に、似たようなトラップがあるのかもな。足元や壁に不用意に触らないようにしよう」

 上擦りながら言っておく。

 だが実際に上からのトラップだけでなく、側面からもあると考えるべきだからな。警戒を厳にしながら進もう。

 危険な箇所なので、マップには危険と記してどんなトラップかも書いておいてもらう。


「こんな所でモンスターに出くわしたら最悪ですよね」


「それをフラグを立てるって言うんだけど。知ってる?」


「さあ」

 異世界では通用しないよね……。


「キュイ」

 ――……ほらコクリコ、見たことか……。

 大型犬サイズのクリクリお目々の愛らしさ。

 加えて鳴き声も可愛らしい。

 ベルがいるなら間違いなく不殺を心がけるだろう相手。

 外見はそうでも――、


「シュュュュ――!」

 威嚇と共に開かれる口には、ボウイナイフサイズくらいはある立派な歯が、上下から伸びている。

 噛まれでもしたら、鉄製の鎧で守っていても貫いてくるだろう威力を有しているというのが見ただけで伝わってくる。


「あいつこっちに来ますよ」


「来んなよ……」

 トラップの床に触れでもしたらって思ってた矢先に、俺のビジョンがしっかりと捕捉するのは、石畳のなかで隆起した敷石部分をしっかりと体重を乗せて踏むクランチロデントの姿。


「伏せなさい」

 と、背後からリンが言う。

 リンの発言に素直に従えば、シャァァァァンと金属の擦れる激しい音が直上から聞こえる。


「セ、セーフ……」

 やばかった……。

 発言を疑って少しでも動きが遅かったら、狭間から伸びる金属のトゲに串刺しになっていたかもしれない。

 直ぐに肩越しに見れば、二人とも無事。

 這い蹲って無事ってことは当然――、


「シャァァァァァ」


「お前も無事だよな」

 クランチロデントが四足の低い姿勢で通路を駆ける。

 大きく口を開き、威嚇しながら。

 

「悪いな」

 腰のホルスターからライノを抜き、膝射にて一発。

 ガツンとくるリコイルは高威力の証。


「ギュ!?」

 短い鳴き声と共に転倒。

 全身で床を擦るように滑り、俺の数歩手前で止まる。

 ピクピクとしていたが、それも直ぐにやむ。

 見れば、大型ナイフほどある上顎の門歯が完全に折れていた。

 俺が撃った一発の.357マグナム弾は、上顎の門歯を砕き、威力減衰しなかった弾丸は頭部まで到達。


「よし、慎重に且つ素早くこの通路を抜けよう」

 ――――。


 地下八階ではいくつかの下り階段を見つけた。

 下って行った先は地下九階ではあるが、そこから更に下に続く道はなく、通路自体も広がりを見せるものではなかった。

 中にはただの一室のような空間の場所もあり、そこには宝箱があった。

 全ての階段を下って一つ一つを確認。

 行程の中程で発見した階段が本命だった。


「しかし、厳かな一室で発見した宝箱から出てきたのがスキレットってなんです。これを宝箱に入れた人物は、紛う方なき馬鹿でしょ」


「まあ――な」

 スキレット。つまりはフライパン。

 というか鋳鉄じゃなくミスリル製だからフライパンが正しいだろう。

 そう――ミスリル製!

 俺たちは――――ミスリルフライパンを手に入れた。

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