PHASE-651【ダンジョンで飯】

「――――ん~いい匂いだ」

 クツクツと煮立つ干し肉。

 一口ふくめば、塩味の利いた干し肉自体がいいスープになってくれている。

 ここにオートミールを投入。

 鍋の中をクルクルとレードルでかき混ぜていけば――、水分を吸ってねっとりとした感覚が手に伝わってくる。


「――完成だな」


「ではいただきます」


「ちゃんといただきますが言えるのは偉いけど、ちゃんと分けような」

 隙を見せたら全部コクリコ一人で食べそうだからな。


「リンも食べるんだよな」


「ええ」


「ほう。アンデッドなのに――ですか」

 意地悪そうにじっと見るコクリコさん。

 取り分が減るのが嫌なご様子。

 干し肉の出資はコクリコだからな。決定権を有していると思っているようだ。

 でも、オートミールは侯爵からの支給だから、絶対的な決定力は有していないけどな。


「アンデッドでもお腹は空く仕様なのよ」


「変なアンデッドです。確かに同族のゾンビは、血肉欲しさに動くものを襲いますけど」


「今から食事だってのに、不気味なことを言うなよ……」

 レードルで木皿によそってやれば、「あちち」と言いつつも、中々の速度で口に運ぶのは流石だった。

 ちゃんと噛まないと消化には悪いけどな。

 対してリンは、正しい姿勢で口に運び、ゆっくりと咀嚼。所作で育ちの良さが伝わってくる。

 生前は何処ぞのお姫様やご令嬢だったりして。

 現在は上から目線だからな。悪役令嬢だった可能性もあるな。


「うん。塩味が利いてて、こういった状況下では贅沢よね」


「暖かい物を胃の腑に入れられるのは贅沢なもんだよ」

 日の光が届かない地下ダンジョンは当然、肌寒い。

 パチパチと音を立てて火の粉が踊る中での飲食。

 しっかりと外と内から体を温めていけば体も良い感じに弛緩する。

 もちろん急な襲撃も考えて背嚢を椅子代わりにして怠らない。

 床に尻をつけて座るより、この座り方の方が素早く立てる。

 戦いの中に身を投じているのが当たり前になっているからか、誰に教わることもなく、自然とこういった姿勢や考え方が身についていくようだ。

 メイスを右太もも部分に立てかけているのも自然な行動。


「御代わりを所望します」


「おう、いいけど半分な」

 これには不満げだが、俺たちだってちゃんと同じ分量を食べたいし、食べた後に動き回ることになると、食べ過ぎは毒だからな。

 

 ――食事を終えてしばらくはゆっくりとする。

 ダンジョン内だから洗い物は極力出さないように、鍋についたオートミールもしっかりと刮ぎ取って無駄なく胃に収める。

 マグカップの紅茶を飲みきり、軽く振ってから腰かけている背嚢に仕舞い、


「じゃあ、行くか」

 つと立てば、二人もそれに続く。

 たき火を消せば、灯りは再びランタンのものだけ。

 地下八階。十四階あるということだから、後、六階と半分ってところかな。この八階もまだ半分くらいだろうし。


「よし、ここまでのマッピングは済ませてるから、ここから先も同じように一つ一つ潰していこうぜ」


「任せてもらいましょう」

 腹が満たされたコクリコは、腰にランタンをぶら下げて、暗がりにも慣れたとばかりに軽快に足を進める。

 前衛の俺なんて気にしないで先頭を進む。

 長時間のストレンクスン使用の経験――といってもゲームだけども活かされているようで、ビジョンも同様に長時間維持が出来るようになっている。

 暗がりでも昼間のように見えるのは本当にありがたい。

 有りがたいからこそ、


「――止まれ」

 地図を描き、通路が枝分かれする箇所に木炭で印を書くコクリコを制する。

 どうしたのかと問うてくるコクリコ。ランタンの灯りだと見落としてしまうような物でも、俺の現在の目ならしっかりと捉えることが出来る。


「トラップだ」

 ここに来てトラップ。

 通路の石畳で明らかに他の物より隆起しているのがある。

 アレは踏んでしまえば――、


「うむ」

 通路を見渡してから大きく頷く。

 隆起した石畳より始まる両側の壁部分には、長方形の空洞が通路に沿って等間隔で並んでいるのが確認できた。

 長方形の空洞があるのは、高さにして俺の胸くらいの位置。

 城なんかにある狭間さまに似たものだ。

 未使用の松明を背嚢から取り出し、


「いいか。この隆起している床を踏めば――」

 松明の先端でその部分をグッと押してみる。

 そうすると壁に並ぶ空洞から、矢か槍なんかが出て来るってパターンなんだよな――――。

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