PHASE-650【点火音が好き】

 ――――更に下へと進むこと地下八階。

 ここまで来ると地下一階と違って、入り組んでいる。


「蟻の巣かよ……」


「疲れましたよ」


「だらしないわね」


「回復魔法を受け付ける不思議なアンデッドは、疲労はアンデッドらしく皆無なんだな」


「当然でしょ。アンデッドなんだから」

 なんか理不尽だな。

 というか便利だなアンデッド。

 リンは肌つやから人間にしか見えないし、傷を負えば回復魔法で治せる。

 疲労や睡眠は必要ない。

 アンデッドの欠点を省いたアンデッドだな。

 ただ精神安定はないんだよな。焦ったり苛立ったりしてたし。


 ――――疲れを癒やすために休息を取る。

 ここに潜ってかれこれ五時間は経過しているだろう。

 ランタンに松明、ファイアフライの封じてあるタリスマン。でもってゲッコーさんから借りたライト。

 これだけの光源があれば、数日は暗闇に悩まされることはない。主にコクリコが。

 といっても節約はしたいので、ダンジョン内の木製の扉なんかを見つければ、メイスで破壊して集めてたき火で暖を取る。

 地下でたき火ってのもあれだけど、通路に煙が流れていって充満することはない。

 というか現在、俺たちがいるのは地下八階の広い空間。

 休息しろと言わんばかりに、たき火をするのに適したすり鉢状の窪みが設けてあるくらいだ。

 罠を警戒して一応はコクリコと周辺を確認したけどなにもなし。

 本当に休息するための場所のようだ。

 RPGならセーブポイントだな。だとするとこの先はボス戦とかになるって展開にになりそうで嫌だな……。

 まだ中間地点だからボス戦というより、一息入れる場所であると思いたい。

 パチパチと火の粉が舞い踊る。冷ややかな地下でこの温もりは最高の癒やしだ。


「さて、体も温まったし、ダンジョン飯といきますか」


「といっても、携行食だけですけどね」


「まあな。本来ならダンジョンで食材をゲットしたりもするんだろうけど……」

 コウモリ、大ネズミ、フロアミミックは頑張ればいけるきもするが、伝染病なんかを持っていたらって考えると、抵抗感が芽生える。

 コクリコはコウモリを美味だとか言ってたけども……、あれは聞こえなかったことにしているからな。

 そもそも携行食があるのに、なぜそこで冒険をしないといけないの? と真っ先に思うあたり、この世界に来て馴染んできたとは思うけども、未知の食に対するところは、冒険者として冒険できない現代っ子のままである。

 その他にこのダンジョンで確認できたのはスケルトンとダイヒレン……。

 まず食材にはならないな。

 やっぱりダンジョンを攻める時には、しっかりとした準備が重要って事だ。

 計画性もなく行き当たりばったりな者達とはダンジョンを攻略してはならない。


「なのでしっかりと休憩だ」


「便利な物をゲッコー達は持ってますよね」


「まあな」


「なにそれ?」

 と、リンは興味津々。

 俺が背嚢から取り出したのはガスバーナーコンロ。

 キャンプなんかで便利なヤツだ。

 これに追加で背嚢から小型のケトル。革水筒から水を注いで――、


「点火」

 チチチチ――ボッっていう音が好き。


「あら便利」


「だろ」

 お湯が沸いたらコクリコはココア。俺はティーパックの安い紅茶。

 マグカップに注いで湯気が立てば、


「携行物のわりに良い香りね」

 と、リンにも好評。

 自分も飲みたいというので、リン用のマグカップにティーパックを入れてやる。

 回復も出来て、人のように飲食もするアンデッドか。


「体も芯から温まりましたし、次を所望します」

 ケトルの代わりに小さな鍋に水を注いで、沸かすのと同じタイミングで、コクリコが持参する干し肉を細かくナイフで刻んで豪快に入れてくる。


「剛気だな」


「ここの攻略が成功すれば、手に入れた品で大金を得られますからね。干し肉を買いあさっても使い切れない程の大金です。各店舗の干し肉を私一人で完売してやりますよ!」

 初手の金塊でも十分にお釣りがくるもんな。

 宝が大きければ大きいほど、比例して夢も膨らむ。

 まあ干し肉を買いあさるだけの夢はあれだけど……・。

 現物があるから余計に考えがリアルになる。

 こういった事で心が躍るのもダンジョン攻略の醍醐味だろう。

 ダンジョン専門の冒険者たちも、コクリコのような物欲的な夢に耽ることを楽しみの一つとして、攻略してんだろうな。

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