PHASE-754【背負子】
――――美味かった。
こんがりトーストは最高だった。
馬鹿息子の所で出されたものより、よっぽど食べ応えがあって豪華だった。
あそこではほぼ食べなかったけども。見た目も味もここの方が遙かに上だな。
最近ではコボルトの皆さんも厨房に入るようになり、調理もするようになったそうだ。
今までは給仕としてオーダーを受けたり掃除が主だったけども、ここの面子とも打ち解けるようになれば、自然と仕事の種類も増えていくというもの。
最初の頃は偏見もあったけど、ベルの庇護下に入った事がいい方向に影響してくれている。
その内、独立して王都で食事処を出すコボルト達だって出て来るかもな。
もしそうなったら、成功を願ってお客第一号になりたいもんだ。
側で新米さん達があまりにも羨んで見ていたので、会頭として新米ギルドメンバーと、勇者として新米野良冒険者の面々に奢ってやれば感謝された。
とりあえず野良の新米さん達にギルドに入らないかと営業をかける辺り、俺はしっかりと仕事してます。
「行きましょうか」
コクリコがマグカップに残ったミルクを一気に飲み干しそう言い、ギルドハウスから出る。
馬車を頼めばギルドメンバーが馭者を務める二頭立てがすぐさま来てくれた。
その馭者とはコボルトだ。本当に仕事の種類が増えてきている。
これで王城まで行くわけだね。
なんか会社の社長みたいだな。
立場的には同じようなもんか。
――――本日は謁見の間からのスタート。
今日はしっかりとコクリコとシャルナも列に並んでいる。
北からまたも使者が来るという。
例によってロイドルが使者として来るそうだ。にしても早いな。俺たちが王様に会談の報告をしたのは昨日だったのに。
相変わらずの移動速度の素晴らしさ。
早いといえば――、
「俺にも見せて欲しかったぞ」
隣に立つリンに豊作の大魔法を見たかったことを告げれば、
「物々しい動きになってきたのが原因よ」
北に対して打って出る準備が始まり、リンも戦力として頭数に入れられているから、収穫の前倒しを先生にお願いされたという。
お願いする先生の頼み方が何ともいやらしく、断れなかったそうだ。
要所要所で俺やベルの名前を出してきては指示を出してくるので、上手い具合に扱われたと嘆息まじりに吐露する。
俺はともかくとして、怠慢でいればベルにお叱りを受けるから、そこをうまく先生に利用されたわけだ。
ちなみに俺たちの立つ位置は家臣団の方々と同じ列ではなく玉座の横。
先生と俺とリンの三人は王様の直ぐ側だ。
王様ときたら大英雄であるリンにこそ玉座は相応しいと、座るように促す。
その発言に対して家臣団の誰もが異議申し立てをしないことから、リンが太祖の時代にどれだけの功績をあげたのかが分かるというもの。
だからなのか、玉座に座る王様の尻は据わりが悪いように見える。
馬鹿息子と違って謙虚すぎるのが美点であり欠点だな。
「使者の方がお見えになりました」
謁見の間と通路を繋ぐ扉が開かれれば、近衛の一人がしっかりと腹から出た声で伝えてくる。
謁見の間に反響するくらいに大きな声だった。
が、でもなんだろう。暗さも混じっていたような。
やって来た使者は、連絡通りロイドル。
――ん? なんか顔色が悪いな。
やはり俺たちが暴れたことによって、使者として馬鹿息子からお叱りでも受けてしまったのかな?
血色の悪い色白の肌に、落ちくぼんだ目。
さっき棺桶から出てきましたと言われれば、信じてしまうね。
「まるでアンデッドね」
「お前が言うかね」
嘲りじみた微笑を湛える血色のいいアンデッドのリン――なんだけども、微笑だけでなく不快さも漂わせている。
近衛といいリンといい、なんかあるみたいだな。
「無念さが纏わり付いているわね」
無念――さ?
纏わり付くは分からんが、ロイドルはなぜか背負子を背負っている。
何を背負っているのかは背中方向だから窺えない。
ただ家臣団と同じ列に立つゲッコーさんの視線が、猛禽のように鋭くなっていることと、ベルとシャルナが柳眉をつり上げているというのは分かる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます