PHASE-1384【良いテーブルかと】
――。
「さあさあ、労わせてくれ」
王都に戻る前に少しは休んでくれと、館は
ドワーフさん達と一緒になって食事に参加するゲノーモス達は、ミルモンとコクリコの戦闘時の大車輪の活躍を耳にし、瞳を輝かせて二人を見つめていた。
些か誇張もあるけども――いいとしよう。
コクリコはいつものことだけども、初めての冒険に心おどるミルモンも大げさに言っているが、そういったところも可愛い。
シャルナにはダダイル氏たちが矢の感想を聞いていた。
実戦において、ドワーフの矢の性能はいかほどだったかと問えば、狙ったところに素直に飛んでくれるし、威力も申し分ないとハイエルフが合格点を与えれば、ドワーフさん達はご満悦。
戦闘で消費した分の矢はこちらで準備すると言ってくれれば、親方様から貰った矢筒に直ぐさま補充してくれた。
俺達が森に行っている間もフル可動とばかりに矢の製作に携わってくれたそうで、一定の量ができたところで要塞トールハンマーまでの輸送も行ってくれたそうだ。
「感謝です」
「それはこちらの台詞だぞトールよ。森からの脅威がなくなったのだからな」
「完全に無くなったとは言いがたいですけどね」
「森に生息する者達に淘汰されるだろうし、もし生き残れても、こちらに挑めるだけの戦力もなければ指揮能力もない。こちらが寡兵であっても十分に対処できる程度にまでなった時点で問題ない」
「それは何よりです」
「まったくもって大したものだ。我々を危機的な状況に陥れた連中をわずかな手勢で壊滅させるのだからな。流石は勇者とその一行である」
言って親方様は手にした杯を高らかに掲げ、ドワーフさん達が好む強い酒気を纏った酒を一気に呷る。
ビールやブランデーは飲まないのか? と質問すれば、淋しそうな瞳になった親方様は、
「もう無い」
と、一言。
「美味くも儚かった……」
要は美味すぎて俺達が森に行った直ぐに飲み干してしまったということのようだな……。
ドワーフさん達が肝硬変にならないかが心配になってくる。
「我が友――心の友であるトールよ!」
心の友に言い直すあたり、お願い事だろうな。
この場合――、
「ここを出るとき地底湖によって、ビールとブランデーを用意しますよ」
「おお! 心の友よ!」
そう言いながら抱きつかないで……。
ぶっとい腕のおっさんに抱きつかれても嬉しくないからな……。
身長差で俺の腹部分に顔を埋めてくるとか罰ゲームだよ。女の子にチェンジして……。
「それはそうと」
言いながら親方様の抱擁から逃げ出し、
「もう一つ戦利品があるんですよ。親方様に」
「ワシにか?」
「はい」
「酒か!?」
の、発言に周囲のドワーフさん達からもざわつきが生まれる。
「違いますよ」
「違うのか……」
と、トーンダウンすれば、これまた周囲も同様のリアクション。
主が不羈奔放なら、下の連中も同じような性格に染まるのかな……。
やれやれと首を左右に振って肩を竦めつつ、プレイギアを取り出す。
「出てこい」
と、軍用トラックを召喚。
「なんだ! やはり酒か!」
「違いますよ」
「違うのか……」
なんで同じやり取りをせにゃならんのだ……。
光が消えて出てくる軍用トラック。
「お?」
親方様が何かに気付く。
「なにやら荷台の位置が以前より低いな」
一度見ただけなのに、二度目でわずかな違いを見抜いてくるとはね。
「重いモノを積んでまして」
「それがワシへの贈り物か?」
「はい。じゃあ、お願いします」
石庭の四阿の側で大人しく座っていたキュクロプス三兄弟とパロンズ氏のマッドゴーレム。
そして――、
「ゴロ丸」
曲玉で地面を擦って喚び出す。
「頼むぞ」
「キュ!」
短く返して皆して荷台から戦利品を降ろしてくれる。
「どうぞ」
「お、おお……っ!!」
フフフ――。これは喜んでくれるだろう。
俺が三兄弟の作業場で手に入れたモノは、親方様が欲するモノにぴったりだろうからな。
戦利品を眺めてさぞ喜んで……くれ……る?
「親方様?」
「トールは容易くミスリルゴーレムを召喚できるのだな」
ミスリルの塊であるゴロ丸を見る目は驚きと興味。
鉱物大好きな種族にはゴロ丸は魅力的な存在。
せっかく喜んでもらおうと思って持ってきたんだけども、そっちには興味を持ってくれていない。
「親方様。会頭はこちらを見てほしいのですが」
パロンズ氏が嘘くさい咳を一つ打ちつつ意識を誘導してくれる。
「お、おお。こっちか」
なんて温度差なんでしょう……。
「お、おお! これは!」
ようやく自分が欲していたモノがなんだったのかを思いだしてくれたようだ。
「これはなんとも良い物を見つけてくれたものだ」
「そうでしょう。コレを見た時にビビッときたんですよ」
「このワシの欲しい物を覚えてくれていたのも嬉しい限りだ」
トラックから降ろされたモノをバシバシと叩いて喜んでくれる。
俺が良いと思ったモノ――それは楕円形からなる一枚岩。
綺麗に研磨されたソレは、キュクロプス三兄弟が作業場でテーブルとして使用していたもの。
天板部分も綺麗に研磨されており、さわり心地は申し分なし。
触れば摩擦を感じさせない一枚岩からなる作業台。妥協を許さない製作をするドワーフさん達からみても良い物のはず。
「実に素晴らしい」
と、はたして正にで、親方様はうっとりと一枚岩の作業台を見入る。
これでこの四阿のテーブル問題も解決だ。
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