PHASE-1385【物語の中心に立とう】
「四阿がこれで完成するとなればワシも嬉しいのだが、本当にもらってもいいのか?」
シンプルだけども作りが良い物だから、おいそれと手放してもいいのか? と、親方様。
三兄弟に問えば、森の中で頃合いのものを見つけて利用していただけのものだったのでいいと言ってくれる。
まあ、ここに持ってくる前に、蹈鞴場の作業場で俺がすでに許可は得ていたから運んで来たんだけどね。
「見つけたものを利用しただけ――か。ここまで美しく研磨している技量――流石はキュクロプス族だ。これは我らドワーフ族も負けていられない」
パロンズ氏と同じことを言う親方様。
テーブルとして利用される事になる岩の側面には、手ずから彫刻を施そうと発する。
で、発してからゆっくりと俺達パーティーを見ていくと――、
「側面に彫るものは決まったな!」
呵々大笑にて発せば、継いで口から発したのは彫刻のモデル。
――人間とエルフ。キュクロプスとドワーフにコボルトという、この場にいる種族が上げられる。
建具のデザインはドワーフとキュクロプスが対峙するような構図だったけども、いま述べた種族が協力し合う情景を彫っていくということだった。
「ちょっとまっておくれ! オイラは! この魔界の勲功爵を忘れてないかい! それに――」
「「「「ボク達も~」」」」
これにゲノーモス達も続く。
前者と後者では声の調子が違うけども、彫られたいという思いは共通。
「もちろん彫らせてもらうぞ勲功爵殿。それに我らの同胞もな」
「当然だよ」
「「「「やった~」」」」
うむ。
「嬉しそう」
「嬉しいからな」
シャルナへと返す。
「この地でも、新しく力強い結束力を得る事が出来たからな」
ドワーフとゲノーモスだけでなく、キュクロプスという巨人の職人さん達も味方にすることが出来た。
ちょっと前はエルフの国からの協力も取り付けた。
他種族間との繋がりが日に日に強くなっていくのは喜ばしい。
――抱いていた喜びを率直に全体に伝えれば、
「その結束の中心に立つのは我が心の友トールだがな」
「はい?」
「お主がおるからこそ、他種族が繋がっておるのだ」
親方様がそう言えば、皆して鷹揚に頷いていた。
なんともむず痒くなるじゃないか。
「流石はオイラの主だね。世界の中心にいるよ」
「世界の中心にいるならどれだけ楽な事か」
「兄ちゃんは中心にいるさ」
世界の中心に立てているなら、自分の思い通りになるもんなんだろうけどな~。
――中心に立つって事は、俺の言動全てが肯定される世界って事だからな。
そんな事はまずないので、世界の中心には立てていない。
実際に立とうものなら、ベルやゲッコーさんが、正道な力の行使という名の修正をしてくるだろうな……。
なので立ちたくもない。
そもそも、この世界の中心に立つ存在となるのは――、
「現魔王であるショゴスこそが世界の中心に立っている存在だな。自分の思うままに振る舞う事が出来るだけの力を持っているからな。俺達はそれに抗う存在だ。まだまだ小さいけども、抗って抗い続けて必ず勝利するっていう立場だ」
「うむ! 素晴らしい気概だなトールよ。流石は我が心の友である」
「世界の中心に挑むとか正に勇者だね!」
親方様とミルモンの好感度がドンッと上がったのか、キラキラとした目で二人が俺を見てくる。
「世界の中心に挑む――ですか。ならば我々は後世の歴史家たちが記すであろう物語の中心に立つ存在となりましょう」
「お、いいね」
自伝だったり歴史に名を残す事が大好きなコクリコの発言には俺も乗っかろう。
この世界の後世に俺の名が残るのも悪くない。
「名を残すためにも必ず成し遂げないといけないけどな!」
「もちろんですよ!」
コクリコと二人して嬉々と笑む。
「そうなると私は語り部になるのかな~。それはそれで淋しくもあるね」
と、シャルナ。
「フッ、何を言っているのです。私が天に召される前にも十分に我が偉大さを流布してください。二十歳前には英雄としてこの世界に名をはせている予定ですが、召された後は生き証人として、後世の歴史家に我が活躍を伝える事も頼みますよ」
若くしてとんでもない野心家だな。
でも悪くないよな。
「コクリコと俺が十代の間に、シャルナには俺達の英雄譚を広めてもらうってのを目標にするか」
「いいよ。なんなら偉業を伝えるための冒険もする?」
「いい案ですシャルナ。私は生ける伝説として人々にチヤホヤされたいですから」
「とんでもなく貪欲な承認欲求だな……」
「私の欲はショゴスを超えますからね。故に私は最強です!」
野心家でもあり頼りになる存在でもある。
実際、今回はタリスマン有りきだったとはいえ、とんでもなく強くなっていたからな。
更にアドンとサムソンの操作が巧みになって魔法練度も上がっていけば、リンやシャルナにも負けない存在になるかもしれないな。
コクリコの漲る自信に当てられたのか、タチアナにコルレオン。パロンズ氏もギルドにて更なる高みを目指し、認識票の色も直ぐに変えてみせる! と、意気込んでくれる。
皆して高みを目指す為に研鑽するのは良いこと。
俺も負けてはいられないと刺激を受けるからな。
刺激を与えて刺激も受ける。
人間だけでなく、他種族間との繋がりで様々な刺激も経験できるってのもこの世界の良いところだな。
「王都に戻ったらエビルレイダーの成長の間に、修練場に籠もらないとな」
「アドンとサムソンの操作鍛練に付き合ってもらいますよ」
「私も弓だけじゃなく、銃の扱いに慣れないとね。こっちにも付き合ってよ」
「いいぞ」
コクリコとシャルナの訓練に付き合えば俺のスキルアップにも繋がるからな。
俺個人も射撃スキルをもっともっと向上させていこう。
今回は素早く動けて弾数で敵を圧倒できるAR-57 を使用したけども、シャルナみたいにワンショットワンキルのような精密な射撃術も習得していかないとな。
その為には兎にも角にも経験を積み重ねるだけだ。
物語の中心に立っても恥ずかしくない勇者になるためにも、己を磨き続けるだけだ。
いつもこういった心がけに帰結するね――俺。
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