PHASE-909【特務機関】

 こういった素晴らしい人材は大事にしないとな。


 だからこそ――、


「退出はもう少し待ってもらうよ」


「なにか他にも御用が?」

 一つ咳払いをして声を整えてから――、


「モンド・キクレインとその部下達は本日を以てククナル行政官を解任する」


「唐突ですね」


「と言う割には、あんまり驚いた表情ではないね」


「上の命令なら致し方ないかと」

 本気で受け入れるって目だな。モンドだけでなく、その部下達も揺るがない眼力。

 こいつら揃いも揃って胆力があるね。


「では解任を本人達も受諾してくれたので新たな役職を与える。本日たった今、設立した特務機関インスペクターにて、レンググ領全体の行政に携わる筆頭行政官にモンド・キクレインを就任させる。部下全員もレンググ特務行政官として従事してもらいたい。おめでとう! 給金アップだ!」


「ちょっと待て」

 と、ゲッコーさん。


「ちょっと待ってください!」

 と、コクリコがゲッコーさんに遅れて話に入ってくる。

 うん。分かってたよ。君たち二人が乗ってくるのはね。


「なんだ特務機関インスペクターというのは? しかもたった今、設立って」


「だってノリと勢いでいま設立しましたからね。この領地は俺がルールらしいので、組織作りを勝手にしてもいいって事でしょうから」


「豪気だな。だが筆頭行政官はまだ分かるが、特務行政官?」


「それはどうしたら入れるのですか」

 全くもって聞かされていなかった組織名に疑問符を浮かべるゲッコーさんと、早速入りたいと言ってくるコクリコ。

 二人に共通するのは琴線に触れまくっているということ。

 特別な感じが醸し出された特務機関とインスペクターという名がたまらないようだ。


「だがしかしだぞ。特務機関というのは特殊軍事組織のことだぞ。行政とは違う」


「え!? そうなんですか」

 ゲッコーさんからの指摘を受ける。

 特務機関って軍事組織を指す言葉なのか。


 ――ま、いいか。


「ノリで」


「おお……豪気だな」


「俺の特務機関は名の通り特別な任務をこなす機関です。行政官でありレンググ領をしっかりと検査する者たちとしても頑張ってもらいたいので、とりあえず行政官の枠外でも自由に動けるように特務機関を設立します。有能な存在にはフットワークを活かせるようにいろんな権限を与えようと思います」

 まあ俺程度の脳みそではどんな権限を与えればいいのか分からないので、後で先生にお任せしよう。

 先生に任せてたら必ず最高の機関に育ててくれるだろう。


「行政の条例などの現実化に、腐敗に対する検査もお願いする。そうなると脅威さらされる可能性もあるので兵の指揮権も与える。警邏、詰所や官舎で待機している兵達の即応現着の対策も急務だな。駄目なのもいるけど、まともな兵もいるのが救いだ。そこから選別していいよ。そうだな――レンググ領にてモンドには治安維持のために兵五百の指揮権を与えよう。直属の五百に加えて、他の部署との連携時も指揮権を持たせよう。治安維持の為に更に多くの兵を動かせるようにもしとかないとな」


「本当に豪気だな」


「本当はもっと与えたいんですけどね。魔王軍の事も考えないといけませんし」


「いっそのことその特務機関で警察組織を創設すればいいだろう」


「流石ゲッコーさん。その案いただきです」


「ちょ、ちょっと待ってください。勝手に話が進んでますが……」

 お、クールな顔がすこし慌ててるじゃないかねモンド君。


「有能な人間がこのまま燻った状態でいられるのは困るんだよ。もっと前に出て活動してもらわないといけない状況なんだよね」

 ただでさえこの領地全体が退廃に進んでいる。

 人間誰しも楽に稼げるならそっちを選ぶ。

 カリオネルの馬鹿のせいでそういった考えに傾倒しているトップ連中が増えているのは確かだろう。


 最初は抵抗しても一度楽を選択してしまえば、二度目、三度目には抵抗もなく楽な道を選択するのが人間ってもんだ。

 それは正さなければならない。

 だからこそ、それを正せる者たちを擁立していかないといけない。

 そしてそれが可能なのが――it'sme俺!

 

 なんたって俺はこの地の全てを統べる領主なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る