PHASE-1231【肯定するよ】
「一度ならず二度も侮辱とは! しかも二度目はきつめでしたね! いいでしょう! 凝り固まった観念を捨て去った私の力を見せて上げましょう。エリシュタルトの時のようにはいきませんからね!」
「ここで怒気を飛ばすだけとはな。成長したな」
「なんですか? 今度は本音ではなく建前ですかね!」
「いや本音だぞ。いつも口よりも先に不意打ちによって始めようとするからな。それをしなかったのは偉いと思ったんだよ。常在戦場を大義名分にしなかったのは褒めてやる」
更に付け加えるなら、今までならこういった話の最中にも仕掛けてくるという可能性もあったんだけどな。
「流石にここで不意打ちを仕掛けては、
「手本となろうとする、その意気や良し!」
「では今一度、一対多での戦い。同意と見てよろしいですね」
「おうよ」
「負けた時の弁解として使用しないように」
「そんな小者みたいなことするかよ。でっかく生きろよ男なら。ってやつだ」
「数の前にひれ伏すがいい」
――……なんとも恰好の悪いことを格好良くポージングを決めて言うじゃないのよコクリコさん。
「真新しい黄色の認識票が、主であるお前をせせら笑ってるぜ」
「馬鹿な事を。私というロードウィザードにかけられて喜びでむせび泣いていることでしょう」
「魔法の言葉、おデコの眼鏡でデコデコ、デコリ~ンって言ってみろよ」
「なんですその面妖な詠唱は?」
「物と話せるようになるんだぜ。きっとその
「ふんすっ!」
今回のは我慢することが出来なかったようで、コクリコは俺の挑発に見事に乗ってくれる。
風を切るハイキックには明確な殺意が込められていたよ。
回避する中、鋭利な風が鼻っ面を擦っていく。
この蹴りの後に――、
「マイヤ!」
と、蹴撃の主が一言発せば、
「始めと言う前に始めないでほしいわね……。マナの使用は禁止。地力にて戦ってもらいます」
苦笑しつつマイヤがコクリコに返しながら、右手を上から下へと勢いよく振り下ろす。
マイヤが審判か。
この面子にマイヤまで参加されると流石にキツかったな。
審判で良かったよ。
「チラ見でもよそ見をする余裕が油断に繋がるのですよ」
なんて言いつつ、一気に距離を詰めてのワンドでの突きは、しっかりと俺の顔面を狙ってのもの。
右の木刀で捌き、左の木刀で迎撃の横薙ぎ――の時には、木刀の間合いの外へと移動する素早さは素晴らしいの一言。
まったくもって容赦がない攻撃を仕掛けてくれるのはありがたいね。
俺も容赦なく振れるってもんだからな。
だが油断は一切出来ない。
多勢を相手に地力だけの勝負となれば、コクリコとドッセン・バーグを相手にするとなると面倒だ。
エリシュタルトではコクリコとギムロンとのコンビだけだったけども、今回はこれにコルレオンと新人三人もいるわけだからな。
「チラ見のよそ見の次は考え事。なんとも余裕のあることで。今ですドッセン。背後から思いっきり打ち込んでやりなさい!」
お!? いつの間に背後に――と思い肩越しに見る中で、
「気安く呼ばないでもらいたいな」
と聞こえてくるのは俺の側面からのもの。
「にゃろ!」
やはりコクリコと言うべきなのだろうが、この場合、単純な詐術にはまった俺が馬鹿なだけだな。
正面を向けば、隙を与えてしまった俺に対し琥珀の瞳を悪そうに煌めかせながらのハイキックが再び俺の頭部を狙ってくる。
必死になって火龍の籠手でガード――させられたな。
これに不敵な笑みを見せたコクリコ。
ベルなんかと違って衝撃貫通ってのはないが、小柄な体からは想像が出来ない重い蹴りは、全身をバネのようにしてから生み出す一撃。
不敵に笑むだけの威力ってのは分かる。
咄嗟のガードってことも相まって、俺は体勢を崩しながら背後へと下がらされる。
決まらなかったことに相対する方向からは小さく舌打ちが聞こえてくるかと思ったが、不敵に笑むだけだった。
なんか狙ってんのか? 周囲を見渡すも、コクリコ以外にまだ動くという感じはなかった。
ギャラリーが俺達の一挙手一投足に声を上げるくらいだ。
しかしまあ単純な詐術にはまっちまったな。
背後に意識をもっていったのは俺の油断。
この面子の中で強者であるドッセン・バーグだからこそ警戒したってのもあるけども。
そんな警戒をしている人物といえば――、
「なんとも小賢しい戦い方だ」
それでも勇者のパーティーか! と、ドッセン・バーグ。
「やかましいですよドッセン。そして各々方もです。なぜ私がトールの意識を削いでやったというのに攻撃に移行しなかったのですか。好機をみすみす逃すとは――実戦なら死んでますね!」
自分の動きに合わせて攻撃に転じなかった事にコクリコは不服を漏らす。
なので――、
「全くもってコクリコの言や良し」
「「「「えっ!?」」」」
ここでコクリコの発言をフォローする。
勇者であり対峙しいている存在が肯定したもんだから、皆、驚き。
勇者で会頭。でもって公爵って立場だからって、仕掛ける方法が正々堂々じゃないといけないと思っているようじゃダメダメだ。
「ですが不意打ちをしなかったのは偉かったと先ほど言ってましたよね」
と、一人の新人さんが言えば、
「なにを戯言を。そもそも戦いにおいて隙を作らせそこを突くのは、生き残る事に重きを置く冒険者として当たり前の事。そんなことも分からないのでは、貴男の認識票の色は黒のまま。位階が上がることなくクエストにて惨たらしく死ぬでしょう」
「まったくだ」
ここでもコクリコに同調。
喋々と述べ、それに俺が同調している間であってもコクリコの鋭さのある攻撃は止まらない。
この辺も流石である。
俺の肯定を二度も耳にすれば、それ以上は何も意見はしないとばかりに動き出したのは――ドッセン・バーグ。
側面から仕掛けてくるタイミングはコクリコの蹴撃に合わせてのもの。
鎌を思わせる後ろ回し蹴りを背を反らして回避したところに、一足飛びで攻撃可能な間合いへと入り込んでくる。
攻撃のスタイルからしてパワーファイターの印象を受けるが、やはり敏捷さも秀逸だな。
背を反らしたところに容赦なくバックラーによるシールドバッシュを顔面へと目がけて打ち込んでくる。
腰を捻ってそれを躱す。
背中からコキコキと音を鳴らしながらの回避は姿勢を崩してのもの。
空を見上げる俺の視界に続いて入ってくるのは、
「おっしゅ!?」
右手に持った木剣が躊躇なく俺の顔へと目がけて振り下ろされる姿と、コクリコの浴びせ蹴りによる連携。
背を反らし、腰を捻りながらの無理な体勢からのバク転にてかろうじて連携を回避。
今度はゴキゴキといった音が背中や腰から鳴る……。
始める前にしっかりと柔軟しとけばよかったよ……。
それにしても――、
「攻めるとなったら一切の躊躇がないね」
「もちろんです。手を抜けば失礼ですからね。それに相手は会頭。手を抜くなんてことをすれば、こちらは即、敗北へと繋がりますからね」
だからって目をギンギンにしてこっちを狙わなくてもいいじゃない……。
その目力だけで気圧されそうになるね。
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