PHASE-1232【焦ると振り回すのは、あるある】

「素晴らしい動きでしたよドッセン。では――」


「分かっている」


「おう!?」

 本当にいい動きだ。

 こちらの体勢を整えさせないとばかりに、一足飛びで同時に接近してからの――二人揃ってのトラースキック。

 蹴りを両腕の籠手でガードしつつ、その場で踏ん張って衝撃を受けるのではなく、あえて距離を取るため足を地面から浮かせ、吹き飛ばされることで距離を取る。


「あいだ!?」

 まあ、しっかりと背中から転がっての衝撃は受けるけども……。

 ここで衝撃だけを受け流して、転がることなく距離を取りつつの着地なら格好良かったんだけどな。

 消力シャオリーって難しいね。ってのが率直な感想だ。


 だが、先ほどのバク転と、相手の衝撃を利用してから距離を取るという工夫。

 マナ不使用の状況下の中で、軽業師のような動きが出来るようになったのは成長の証である。

 

 なんだが――、


「そいや!」

 再びの浴びせ蹴りを仕掛けてくるコクリコのアクロバティックな動きを目の当たりにすれば、俺が周囲から軽業師と呼ばれるようになるまでには、まだまだ先が長いと痛感させられる。


「獣神サンダー・ライガーみたいな攻撃ばっか仕掛けてきやがって」


「ジュウシン? 名前からして強そうですね」


「獣の神な」


「ほう。神と名乗れるだけの実力を有している私。やはり黄色級ブィでは収まらない器のようですね」

 また調子に乗る。


「お前たちもさっさとコクリコに続け」

 怒号を飛ばすドッセン・バーグ。

 怒声にて、はたとなるコルレオンと三人の新人さん。

 どうやらギャラリー達と同様に、俺達三人の攻防に見入っていたようだ。

 ここでようやく構えてみせる。


「ドッセンに言われないと構えないとはまだまだですね。ドッセンの指導はちゃんと行き届いているのでしょうか?」


「おい。同じ位階でも俺は先達なんだからな。少しは言葉を慎んでもらいたいな」


「何を冒険者が小さいことを言っているのです。それに私はトールのパーティーですよ。その時点で一般ギルドメンバーより一階級上として遇されるのですよ」

 なんだよそのティターンズ的な思考は……。

 俺のパーティーだからってそんな依怙贔屓はしないぞ。


 だがその発言はドッセン・バーグにはぶっ刺さっているようで――、


「ぐぬぬ……確かにその言は正しい……」

 いや、正しくないだろう。どんだけ俺を大きな存在として見ているんだろうか……。

 だが会話のやり取りはありがたいよ。


「ちょいさ!」

 今は戦闘中。会話のお陰でこちらは姿勢をしっかりと整える事が出来たからな。

 反撃としてドッセン・バーグへと仕掛ける。


「なんの!」

 右の木刀での袈裟斬りをバックラーで受け止めつつ、同時に木剣で迎撃をしてくる。

 しっかりとこちらも左の木刀で受け止めてから――いなす。

 ドッセン・バーグが体勢を崩したところで右手の木刀を――と思ったところに、


「そいや!」

 ドッセン・バーグの背中を利用して跳んでくるのはコクリコ。

 人の形をした矢のようなドロップキック。

 木刀で×マークを作ってからのガード――からその構えのままに木刀を振っての攻撃でコクリコを払いのける。


「俺を踏み台にしやがって!」


「いい踏み台でした。未来の立ち位置を表現していましたね」


「――つまりは俺よりも先に位階を上げるってことか?」


「ええ」


「生意気な小娘だ!」


「力ではじき返すことも出来ず、あの程度のいなしで姿勢を崩しておいてよく言えますね。私が踏み台として貴男を活用したからこそ無事ですんでいるのです」


「アホか。お前の後方での動きを察知したから、あえて力ではじき返さずに、姿勢を崩したように見せたんだ。お前が虚を衝きやすいようにな!」


「物は良いようですね。まあそういう事にしておいてあげましょう」


「本当に生意気な小娘だ!」

 ――……まったくよ……。

 口では言い合ってはいるけども、なんともいいコンビネーションじゃねえかよ。

 インスタントでこれだけ足並みを揃えられるんだからな。

 ギムロンの時も凄かったけども、今回の連携の方が良く取れている。

 それだけドッセン・バーグが周囲と合わせることに対して卓抜だって事なんだろう。


 流石はソロで様々なパーティーに参加している人物だ。


 合わせるのが上手いし、合わせることで実力を出し切れないってのじゃなく、自身の実力もしっかりと発揮する。

 臨機応変な対応で即席の味方と連携が取れるってのは、冒険者としての一つの到達点でもあるよな。


「こちらを感心しているようですが、動かなくていいのですか? 二刀流の練習なのでしょう」


「いまからしっかりと見せてやるっての。青あざくらいは覚悟しとけよコクリコ」


「この私の玉の肌に触れる事なく、地面と戯れさせてあげましょう」

 つまりは地面に俺を転がしてやるって事か。

 ドッセン・バーグも口にしていたが――生意気ぃ!


「エリシュタルトと同じ道を歩ませてやる!」


「愚かな。この状況は以前とは違うのですよ!」


「そらそうだろうよ。ようやくだな」


「その発言には賛同しますね」

 コクリコが同調の返しをすれば、俺の背後から聞こえてくる複数の足音。

 即、動き出したドッセン・バーグに比べれば遅い遅い。

 しかも足音から伝わってくるのは鈍さ。

 遅さ以上に鈍さ。

 背後から攻めるって事に躊躇を感じているようだ。

 相手が躊躇していようが多勢に無勢。


「こっちはしっかりとやらせてもらう」

 正面のコクリコとドッセン・バーグを警戒しつつも反転し、一気に距離を詰めて攻める相手は――長物を持っている新人さん。

 

 四人の中で自分が真っ先に狙われたことに驚きながらも、


「はぁ!」

 直ぐさま意識を切り替えて、裂帛の気迫にて突きを繰り出してくる。


「速いね」

 新人さんとはいえそこいらの兵士では相手にならないだけの実力を有しているのは分かる。

 躱しつつ距離を詰めたところに、


「させませんよ」

 と、コルレオンが長物君の股を潜って下方から迫り、左右からは残りの新人さん達が木剣にて仕掛けてくる。

 ここで下がれば背後から迫る強者二人との距離が縮まるので、籠手と回避で対応。

 長物君に意識を集中するように睨みを利かせれば、長物君は焦りから突きではなく薙ぎ払いを見舞ってくる。

 俺を追い払いたいという意思を具現化させたような攻撃は悪手だったな。


「窮したね」

 悪い笑顔を向けてやった。

 俺の背後からはドッセン・バーグが怒鳴り声で「そんな攻撃をするんじゃねえ!」と言っていたが、気付いた時には遅い。

 振り回すことでコルレオンと他の二人が距離を取る。


「長物はちゃんと周囲の状況を確認してから振り回そう」

 一狩いくゲームで太刀使いだった俺は、太刀を振り回して周囲の味方も吹き飛ばすというヘタを打って、よく怒られていたもんだよ。

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