PHASE-46【俺はチョビ髭にはなりたくない】
「この者たち、魔王軍と通じておりましたので、この様に捕らえさせていただきました。五名のうち三名は王都在住の者。そして二名は、流民に紛れていた者です」
発言で広場はどよめく。
「静粛に。この荀文若、間者や乱逆を企てる者を見抜くのには自信があります。以前の主には、災いをもたらす者たちに注意するように具申しておりました――――」
三国志にある劉備の件だな。
先生は時として、冷酷に対処しようとすることもある。
乱世の中での立ち回りだから、当たり前ではあるんだろうけども、目の前のイケメンさんからはそんな冷酷さは想像――――出来るか……。たまに悪い顔で笑んでるし……。
まあ、以前の主ってところは曹操のことだろう。現
「――――ですから、これからもどんどんと、この王都に害をなす者たちをあぶり出していきますので、邪念を持ち、王都に居座る者は覚悟をしておいてください。皆様、隣に立つ方に目を向けてください。もしかしたら、その者が間者かもしれません。そして間者たちよ、雄弁にて無辜の住民を悪道に引き込もうとしないように。語りかけた人物は、私が放った間者かもしれませんよ」
笑みに見とれていた女性たちだったが、台詞を述べる先生の口角が上がり、口が三日月状になった姿には肝を冷やしたのか、押し黙ってしまう。
これですよ。たまに見せる、悪魔も逃げ出すような笑み……。
「これじゃあ住民が住民を監視する体制になってしまう。やり口が、ゲハイメ・シュターツポリツァイだ」
「ですよね。で、ゲッコーさん――――、ゲハイメ何たらって?」
「……ゲシュタポだ。ナチスの秘密警察だよ」
「ああ……」
知らない方がよかった……。ちょっと! そんな体制で管理なんかしないでいただきたい。俺はチョビ髭なんて生やしたくないぞ!
「特にこの世界は閉塞しているから効果があるだろう。現状での規律を正すのには、必要な考えかもしれない」
流石はゲームの国の元になっているのがドイツなだけあって、ベルは是とするか。
自由は制限されるけども、お互いを監視することで、本当にいる間者は行動しづらい。
そもそも、この狭い世界では自由もあったもんじゃない。まずは管理運営することに力をそそいで、ゆとりが出来たら、それらを緩和していくのだろう。
「――では、お待ちかね。この愚かな間者たちの処遇を主に決めていただきましょう」
今後の事を俺なりに熟考していたら、不意に先生からのご指名だ。
先生の食指が俺へと向けば、一斉に俺のいる方向に、人々が体を向けてくる。
ここで俺かよ……。
困った事に、人々の目は血走り、怒りに支配されている。
王都が攻められ苦しんだ。その原因を作りだした者たちが目の前にいる。
訪れた流民たちも同じような感情か。
侵攻を受けなければ、流民なんかにならないでよかったんだもんな。
俺が処遇を決めなくても、今にも壇上に上がり、捕らえられている間者たちの命を奪いそうな勢いだ。
「……とりあえずは、牢屋に」
視線が怖かったが、ここは魔王軍の情報も得たいから、今後の事も考えて、留置することを優先と発してはみたが、ざわつくだけだった……。
納得がいっていないご様子。
「死罪だ!」
一人が発せば、一斉に死罪のコール&レスポンス。
やだやだ……。これだから中世レベルは……。
絞首刑だの。ギロチンだの。馬を使っての八つ裂きだのと、酷刑を望む声が上がる。
周囲の兵士や、先生が見出した冒険者が静止するようにうながすけども、止まらない。
ここで刀を抜いて、黙れ! 俺の発言に意を唱えるのか! なんて言ってみればいいんだろうが、未だに俺にそんな勇気はない。
住人や流民は、間者たちの死を目にする事で、溜まった鬱憤のはけ口にしたいようであった。
「とにかく、今は牢屋で!」
これが今の俺の精一杯の強気発言だ。
最近は猿叫をしつつ木刀を振り下ろしているからか、自分が思っている以上に声は出ていた。
だが、それでも効果は薄い。
間者の一人であるミルトンの怯える表情を目にして、自分たちが強くなったと勘違いもしているようで、住人の声は更に熱を帯びていく。
「――――牢獄と言っているのだ。それ以外は現状ではありえん」
と、俺と比べても、全然声が出ていないベルの静かな声が発せられた途端に、しじまが訪れた。
熱を帯びていた人々は、その声の冷たさによって、一気に冷まされた感じだ。
住人たちは、ベルの実力を目の当たりにしている。
王都に集まった冒険者と流民も、ベルの噂は耳にしているだろうし、噂に尾ひれもついて、畏怖しているだろう。
炎の化身である美人様が、炯眼で一帯を眺めて口を開くだけで、人々は押し黙る。
俺もこのくらいの威光を持たないと、勇者とはいえないんだろうな。
「え~では、留置という決断となります。また、魔王軍に対して協力をしたいという方々は残ってください。ギルドを創設するので、是非に入ってくださいね」
先生、ちゃんとギルドって横文字を言えるようになってる。
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