PHASE-47【冒険者らしい、イベント発生】
残ってくれと言われれば、冒険者はもとより、一般の人々も結構この場に残っている。
鬱積のはけ口にはならなかったけど、魔王軍に報いたいという気持ちは大きくなっているのか、畏れで闇を抱えていた住民や流民とは思えないくらいに、力が漲っている。
もしかしたら先生は、こういう状況を作るために、広場に人々を集めたのかもしれない。
解散していく人達を避けていって壇上にあがれば、
「結構な人数が協力してくれるみたいですね」
「素晴らしい事です。それにしても、あの圧に負けずに死罪を回避しましたね。流石は主です」
大多数の意見を聞き入れて、溜飲を下げさせることも上に立つ者には大事だが、今回は新たに王都に集まった人々に対して威厳を見せたかったから、あれでよかったと賞賛してくれた。
最初からそういう流れにもっていくと、前もって言ってくれればよかったのに……。
それに、威厳があったのはベルであって、俺ではないです……。
留置して、知っている限りの魔王軍の情報を聞き出すとのことで、ミルトンたちは牢屋へと連行されていく。
憔悴している姿から、ここに連行される前にも詰問されていたんだろうな。
「ここからはギルド作りに力を注いでいきましょう。一大勢力を作りますよ! 主!」
嬉々と言うね。
「でも、あんまり大きくしても、王はともかく周囲の家臣が」
「以前も言いましたが、王側には何も言わせません。というよりも、言えません」
なぜ? と、疑問符を浮かべれば、連行されるミルトンを指差す先生。
俺も馬鹿じゃないので、それで理解する。
なるほど、王様の中心的な家臣の中に裏切り者がいた事実。これを利用すれば、力を失ったから裏切り者が出る。現状で王サイドは頼りにならないからと、発言力を強くして応対するつもりなんだろう。
で、反対してくる家臣団に圧力をかける。
圧力の内容として考えられるのは、【この世界のために活動しようとする勇者に対して、妨害にもとれる発言。ミルトンと同じ存在か?】みたいなことを言われれば、反論も出来なくなるな。
「鞭は私が担当するので、飴は主が王側に与えてください」
俺が優しくすれば、それだけ王サイドで俺に対する信頼が高くなる。
先生はどこまで考えて行動しているのだろう。王佐の才はダテじゃない。
「お~い」
「ん?」
先生に感心していると、こちらに向けられる野太い声。
ゆったりとした足取りで、壇上に続く階段をのぼってくる男。
――……でっか!
俺たちと同じ位置に立つ男の身長は二メートルくらいある。
ゲッコーさんや先生より更に長身だ。
「俺はカイルってんだ」
ボディービルダーのような筋肉ボディに、ボサボサの金髪頭に無精髭。
背中には、鞘ではなく、ベルトで固定した、抜き身で派手さのない無骨な大剣。
大剣は刃が欠けたり潰れている。切れ味というより、重量で押しつぶす鈍器のようだ。
大きな声は自信の表れ。
冒険者然とした鎧皮製の鎧。色は黒。
そして、この男、北門で先生が真っ先に目にしていた人物だ。先日も先生と共に行動していた。
こうやって対面すれば、いろんな事に気付く。しかし、デカい。威圧感も相当だ。
「俺はよ、この王都に強い奴がいるって聞いたんだ。で、そこの男前である軍師殿はお前を主って言ってる。さっきの対応を見るかぎり、主ってのは冗談だよな? 本当の主ってのは、そこのあんただろ?」
ゲッコーさんを指差すカイルと名乗る人物。
俺に威厳がないからか、俺が中心だと信用していないようだ。
ま、俺も初対面でこのカイルって人と同じ立ち位置だと、同様の疑問を持つだろう。
でも、自分が言われる立場になると、ハハ……、むかつく!
「いや、俺じゃない。間違いなく勇者はトールだ」
「マジかよ。その辺にいるようなのがか?」
誰がモブやねん! 確かに俺の取り巻きと比べれば、完全に村人Aみたいなポジションだけども。
「本当だ。俺たちの勇者を侮辱するのはやめてもらおう」
格好いいです。ゲッコーさん。
「へ~コレが? 俺はこれでも修羅場は経験しているから、見る目はあるんだがな。オークだって一人で五十は屠ってきたぜ」
五十が凄いのかはよう分からん。
まあ、それだけ倒して生き残っているのだから、凄いのだろうけども、俺の横に立つ美人は、ここに召喚した早々に、一振りで、あんたご自慢のキル数を抜き去っている。なので、いまいち凄さが伝わってこないんだよな。
「よし! 俺と力試しでもしないか? これから一緒に戦うに値するか品定めだ」
でたよ……。典型的な脳筋冒険者。
木剣を持ってくるように、周囲のご同輩に伝えている。
――持ってきてもらうと、一本を自分に、そしてもう一本を俺へヒョイと投げてくる。
まあ、イベントらしいイベントではあるけども、明らかに今の俺では勝てないレベルだと思う。
だって、レベル2だし……。
ここはひとつ、頼りになる方々にお願いしたい。
なんて思っていれば、木剣が俺の手に届くすんで、横からかっ攫われる。
「いいのか? 未だに人は残っているぞ。ここで負けるところを見せたいようだが」
ベルが木剣を手にして、俺の前に一歩出る。
俺の代わりに戦ってくれるようだ。なんだろうか、俺に対して以前に言いすぎたってのもあってなのか、協力的だ。
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